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28.さてどうしたものかと

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 さてどうしたものかと、ノムルは思案する。
 無理強いすることは可能だが、ユキノからの心証が悪くなってしまう。そうなれば森人を見つけた時の交渉に支障が出かねない。

 相手の欲望や恐怖を煽って、有利に交渉を進めることは慣れているノムルだが、ユキノは彼が今まで関わってきた人間とは、違う人種だ。
 自分に降りかかるであろう危険よりも、他人の身を優先する相手なんて、経験がなかった。どう誘導すればいいのか、答えがでない。

 ノムルはじっとユキノを見つめたまま、彼女のこれまでの言動を振り返る。そして、諦めさせることは難しいだろうと結論付けると、諦めと共に息を吐いた。

「分かった。魔法道具を使って、治癒魔法に見せかけよう。それならいいかい?」
「治癒魔法! 治癒魔法を教えてもらうことはできないのですか?」

 魔法を教えてほしいというのは、彼女からの要望の一つだ。教えること自体はやぶさかではない。彼女が治癒魔法を身に付ければ、薬を乱用する必要もなくなるだろう。
 とはいえ治癒魔法の習得は、他の魔法に比べて時間が掛かる。

「治癒魔法ねえ。教えるのは構わないけど、適性がないと使えないよ? それに治癒魔法は、人体の仕組みを理解していないとまともに使えないけど、大丈夫?」
「え?」

 ノムルの言葉を聞いたユキノが、きょとんと動きを止めた。
 魔法に付いて理解していないらしきユキノに、ノムルは初歩的な部分から教える。

「魔法ってのは、魔力を精霊に奉げることで、想像した内容を現実に反映させることだね。中途半端な想像では発動しないどころか、思わぬ事故を引き起こす」

 魔法を使う場合は、起こす現象に対する知識を持っている必要がある。ノムルの場合は詰め込まれた知識の他に、魔力でカバーしている部分も大きいのだが、普通はそうはいかない。

「擦り傷くらいならいいけど、骨とか内臓に損傷があれば、知識が足りないと変な治り方をしてしまう。治癒したところを抉って掛け直せる程度ならいいけど、取り返しが付かない場合もあるからねー」

 実際に、未熟な者が安易に治癒魔法を使ったせいで、逆に寿命を縮めてしまったという事例が度々起きていた。
 そのため治癒魔法に関しては、魔法ギルドや教会などで研修が開かれており、認定証が配布される。
 認定証を持たずに治癒魔法を使っても、法で裁かれることはない。けれど安全な治療を望むなら、事前に治癒魔法使いのランクを確認させてもらうのは常識だ。

「だから治癒魔法は人気がないね。学ばなければならないことが多すぎるから。その分、身に付ければ重用されるけど」 
「おおう……」

 予想と違ったのだろう。期待を折られたユキノから、子供らしからぬ声が零れた。
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