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45.魔法を使えば

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 魔法を使えば、姿の見えない距離でも容易く倒せる。追い払うだけならもっと簡単だ。けれど護衛という仕事を請け負っている状況でその選択は、悪手に繋がってしまう危険があった。
 雇い主が魔物の姿を確認する前に全て排除すると、安全な旅だったとギルドに報告が上がり、そのルートの危険度が下がってしまうことがあるのだ。
 そうなると報酬が下がるだけでなく、請け負える冒険者のランクが下がることで、無用な犠牲者を出すことに繋がってしまう。
 だから商人たちが気付けるもっと近くまで、魔物が出てくるのを待つ必要があった。

 そこまで分かっていながら、なぜノムルが悩んでいるかといえば、後ろの荷台に乗っている、ユキノの存在が関係する。
 魔物を討伐して文句を言う人間は、まずいない。けれど森人はどうだろうかと、ノムルは考えた。
 森人の中には、魔物を飼い馴らす者もいたという。ユキノがもしも魔物を馬などの家畜と同様に考えているのなら、彼女の目の前で討伐した場合、不興を買いかねない。

 答えが出ない間に、魔物の気配は近付いてきた。
 先頭馬車には、馭者台だけでなく屋根にも見張りがいる。高い所にいる彼らなら、すぐに気付くだろう。
 そう考えながらノムルが魔物のほうに目を向けると、草むらに黒い棘が見えた。大きさからも、鋭い棘を全身に纏う魔棘猪の若い個体に違いないと、ノムルは睨む。
 老獪に育った個体ならば、Bランクの冒険者でも複数名で対応しなければ危険だが、一メートルほどの若い個体ならば、Bランク冒険者一人でも倒せるだろう。ノムルが自ら手を下す必要はない。

 ノムルは手を出さず成り行きを見守ることに決めた。他の人間が討伐したのなら、ユキノの機嫌が悪くなっても、取り繕える。
 魔棘猪は馬車と並走しながら、得物を定める。どうやら最後尾の馭者を狙うつもりらしい。
 他の三台は、馭者台に護衛と馭者と務める商人が二人で座っているが、最後尾の馬車だけは、馭者台には商人一人しか座っていない。護衛は荷台に乗り、背後から襲ってくる魔物や野盗に供えていた。

 草むらでは黒い棘が、ちらちらと見え隠れしている。観察力があれば、Cランクの冒険者でも気付くだろう。
 しかし先頭を行く馬車の屋根で見張りを務める護衛は、まったく気づいていない。思わずノムルから舌打ちが零れた。
 彼が放つ攻撃魔法は規模が大きすぎて、極限まで魔力を押さえても、ピンポイントで的を狙うことができない。これ以上近付かれると、馬車に被害が出る。

 ノムルが護衛する馬車を襲ってくるのであれば、ぎりぎりまで引き寄せて、ナイフで仕留めればいい。即座に収納魔法でしまってしまえば、ユキノを誤魔化すことも可能だろう。
 だが馬車を一台挟んだ最後尾の馬車が狙われているとなると、話は別だ。彼が討伐したとユキノに確信を持たせないためには、魔法を使う必要がある。そろそろ限界の距離だった。
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