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47.あー……
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「あー……、ごめんね。ユキノちゃんは馬車初めてだって忘れてたよ。……ところでどこから出したのさ? このクズラ」
ユキノの体には、なぜかクズラの蔓が巻き付き、荷を固定するための金具に括りつけられていた。
クズラは長く育つ蔓性の植物で、籠を編んだり荷運びの縄代わりに使われるなど、人々に活用される植物だ。
どうやら転ばないために、ユキノは自分を馬車に固定しようとしたらしい。しかし結果を見るに、効果は今一つだったのだろう。
どこからともなくクズラが出現している一方で、声が聞こえていたはずのマンドラゴラたちの姿はない。
「お気になさらず……」
ユキノは最低限の答えを返すだけで精一杯といった容態だ。身を持ち上げようと手を突いたが、ふるふると震えて力尽き、ぺしゃりと伸びた。
馬車の中にいたからか、それとも子供の適応力によるものか、ユキノの耳は聞こえているらしいと、ノムルは少しだけ驚く。
荷台に詰め込まれている木箱に破損はないことを確認したノムルは、魔法空間からクッションを取り出した。杖の先を当てて付与魔法を掛けると、ユキノの目の前に置く。
「はい、クッションに魔法を付与しておいたから、これを敷いて座っておけば、揺れは軽減されるはずだよ?」
「お心遣い、痛み入ります」
力のない声が、よろよろとユキノから這い出してきた。
「どこでそんな言葉憶えたのさー?」
苦笑しながら、ノムルは魔法空間から取り出した小さな巾着にも、魔法を付与する。空間魔法で見た目よりも多く収納できるようになった巾着に、散らばっているパンや水入りの革袋、杖を拾って突っ込む。
「これならユキノちゃんが持ってても負担にはならないでしょう? 杖も入れておいたよ。取り出すときは、欲しいものを思い浮かべながら手を突っ込めばいいから」
「重ね重ね、ありがとうございます」
よろよろと足を動かして座ったユキノは、深々と額づいてノムルから巾着を受け取った。それから自分を固定していたクズラを外し、クッションの上に正座する。
座れるまでに回復したみたいだが、まだまだ元気というには程遠い。
「他に何か必要なものとかある?」
「いえ、充分です。お気遣い、ありがとうございます」
弱々しくも丁寧な声で礼を言いながら、ユキノはクッションの上で三つ指を突いて、丁寧なお辞儀をした。よほど辛かったらしいと、ノムルは苦笑が零れてしまう。
この様子なら、魔物の始末に気を使うことはなかったかもしれないと思ったノムルだが、油断はしないほうがいいだろうと気を引き締め直す。
「そろそろ出発するぞ?」
「はーい。……それじゃあまた後でね」
「何から何まで、ありがとうございます」
力のない萎れた声のユキノと別れたノムルは、馭者台に戻った。間を置かず、馬車は動き出す。
ユキノの体には、なぜかクズラの蔓が巻き付き、荷を固定するための金具に括りつけられていた。
クズラは長く育つ蔓性の植物で、籠を編んだり荷運びの縄代わりに使われるなど、人々に活用される植物だ。
どうやら転ばないために、ユキノは自分を馬車に固定しようとしたらしい。しかし結果を見るに、効果は今一つだったのだろう。
どこからともなくクズラが出現している一方で、声が聞こえていたはずのマンドラゴラたちの姿はない。
「お気になさらず……」
ユキノは最低限の答えを返すだけで精一杯といった容態だ。身を持ち上げようと手を突いたが、ふるふると震えて力尽き、ぺしゃりと伸びた。
馬車の中にいたからか、それとも子供の適応力によるものか、ユキノの耳は聞こえているらしいと、ノムルは少しだけ驚く。
荷台に詰め込まれている木箱に破損はないことを確認したノムルは、魔法空間からクッションを取り出した。杖の先を当てて付与魔法を掛けると、ユキノの目の前に置く。
「はい、クッションに魔法を付与しておいたから、これを敷いて座っておけば、揺れは軽減されるはずだよ?」
「お心遣い、痛み入ります」
力のない声が、よろよろとユキノから這い出してきた。
「どこでそんな言葉憶えたのさー?」
苦笑しながら、ノムルは魔法空間から取り出した小さな巾着にも、魔法を付与する。空間魔法で見た目よりも多く収納できるようになった巾着に、散らばっているパンや水入りの革袋、杖を拾って突っ込む。
「これならユキノちゃんが持ってても負担にはならないでしょう? 杖も入れておいたよ。取り出すときは、欲しいものを思い浮かべながら手を突っ込めばいいから」
「重ね重ね、ありがとうございます」
よろよろと足を動かして座ったユキノは、深々と額づいてノムルから巾着を受け取った。それから自分を固定していたクズラを外し、クッションの上に正座する。
座れるまでに回復したみたいだが、まだまだ元気というには程遠い。
「他に何か必要なものとかある?」
「いえ、充分です。お気遣い、ありがとうございます」
弱々しくも丁寧な声で礼を言いながら、ユキノはクッションの上で三つ指を突いて、丁寧なお辞儀をした。よほど辛かったらしいと、ノムルは苦笑が零れてしまう。
この様子なら、魔物の始末に気を使うことはなかったかもしれないと思ったノムルだが、油断はしないほうがいいだろうと気を引き締め直す。
「そろそろ出発するぞ?」
「はーい。……それじゃあまた後でね」
「何から何まで、ありがとうございます」
力のない萎れた声のユキノと別れたノムルは、馭者台に戻った。間を置かず、馬車は動き出す。
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