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68.手紙に書かれていた内容は

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 手紙に書かれていた内容は、朝送った手紙に対する返信だけだ。調査はこれから行うが、おおむねノムルが予想した通りの対応になるだろうという内容で、問題点はない。
 けれど彼にとってその手紙は、別の大きな意味を持っていた。

 ノムルが冒険者ギルド本部に手紙を送った場合、その返信はいつもドインが書いて寄越す。不器用ながらノムルを心配する言葉と、たまには顔を見せろという言葉を添えて。
 しかし今彼の手元にある手紙には、事務的な内容しか書かれていない。文字もドインの力強い筆跡ではなく、流れるように美しい文字で認められていた。

 融筋病は、徐々に筋肉が融けていき、身体の自由を奪っていく。
 もう文字を書くことすらできないのかと、無意識にノムルは唇を噛む。残された時間は、どれだけあるのだろうか。
 鉄の味が口の中に広がり、激情に飲まれかけていたことに気付いたノムルは、瞼を落として強張っていた力を意識的に抜いた。

 ――早く、早くエルフを見つけないと……。

 焦燥が、彼の心を焼き落としていく。



 休憩のため馬車が停まると、ノムルは瞬き一つで道化の笑顔を貼りつける。先にユキノを馬車から降ろした彼は、ブルの下に向かった。
 
「はーい、これが正式な書類ねー。契約書や割符と一緒に冒険者ギルドに提出してくれれば、ギルドの有責で契約解消できるから。次回からの依頼にも、ペナルティは付かないよー?」
「ありがとう。助かった」

 ほっと息を吐いたブルの顔は、緊張が解けて嬉しそうに緩む。
 その後は魔物の襲撃がないこともあり、馬車は予定より余裕を持って進んでいく。野営続きの隊商だが、一度だけ、ススクという宿場町で宿を取った。

 旅人たちが落としていく金銭が収入源の多くを占めるため、どの家も宿か飯屋を営んでいる。
 一つ一つの宿は小規模で、数組しか泊まれないけれど、町全体でみれば、結構な収容量だ。
 商人たちはそれぞれに、馴染みの宿に散っていく。ノムルはユキノと共に、ダズが選んだ宿の部屋に入る。

「ノムルさん、お疲れでしょう? どうぞ」

 部屋に案内されたノムルに、ユキノはそう言って薬草を差し出した。彼女と出会った日の夜にも渡され、彼の意識を混濁させた、カモネーギの花だ。

「ありがとう」

 そう言って逆らわずに飲んだノムルは、大きなあくびをする。

「眠くなっちゃったよー。先に寝るね? お休みー」
「はい、おやすみなさい。今日も一日、ありがとうございました」

 ノムルが寝台に潜り寝息を立て始めると、ユキノがそっと覗き込んできた。

「しっかりお休みになりましたね?」
「わー」
「では、行きましょうか」
「わー」

 そう言い残してユキノはマンドラゴラたちと部屋から出ていく。
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