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83.魔法で起こした雷撃だから

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「魔法で起こした雷撃だから、普通の雷に比べて威力は小さいよ。少なくとも、森が火事になったことはないかな。……維管束発作は知らないけど、直撃しなければ心臓が止まることはないと思うよ?」

 今までの経験を思い出して、ユキノが求める答えを作り出す。
 とはいえ、木が人間みたいに落雷のショックで生命活動を停止した症例なんて、彼は聞いたこともない。だから正確な答えなんて、知りようがなかった。

 山道は益々険しくなり、悪路になっていく。
 がたがたと揺れて跳ねるだけなら可愛いほうで、車体が傾いて、荷物が床を滑ることまである。ユキノもクッションにしがみ付いて、難を逃れていた。

「ふにゅううー。負けませんよー」
「わー!」

 何と戦っているのかは知らないが、マンドラゴラも出てきて、意外と余裕そうである。
 ちらっと後ろを見たジョイが、マンドラゴラを目にしてぎょっと目を瞠っていたが、ノムルを見て納得したように前に向き直った。
 高ランク冒険者の魔法使いだ。魔力回復薬の原料となるマンドラゴラを持っていても、不思議ではないと判断したのだろう。
 否。しきりに首ひねっているので、理解しがたい事態を前にして、現実を捻じ曲げようとしているのかもしれない。
 ノムルは同情しつつも、突っ込まれても面倒なので、彼が勝手に消化してくれるのを黙って待つ。

 時折り、崩れかけた橋を直したり、土砂を退けたりしながら、歩いたほうが早いと断言できる速度で進むこと五日目。予定より一日早く、ヤナの町を眼下に捉えることができた。
 山の上から見下ろしたヤナの町は、三方を山に囲まれた盆地に、赤瓦が密集している。北側にある丘には一際立派な館が立ち、西側には湿原が広がっていた。
 町の中央に建つ教会の高い塔から、白い煙が立ち昇っているのが、ノムルはわずかに気になった。

 山道を下り南側の門から入った馬車は、北の丘にある領主の館を目指して進む。昼前だというのに、町の中を出歩いている人の姿がほとんどない。
 それだけならば湿原に出掛けているか、昼飯を食べるために家に帰っているのだろうと考えることもできる。しかし、どことなく漂う空気が重く感じた。

 嫌な気配だと、ノムルは眉を寄せる。
 ジョイも異変を察知したのだろう。町に入ってから緩めていた馬の足を早めさせ、丘の上に建つ館へと急ぐ。
 丘を登り始めてすぐに門があり、馬車が停まった。ジョイの声と見知らぬ男の声が、身元を確認するやり取りを交わす。
 ジョイが領主への面会を頼むなり、なぜか門番と思われる男は安堵の息を吐き、声を弾ませた。
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