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82.ところで、薬草が生えるムツゴロー湿原は

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 ところで、薬草が生えるムツゴロー湿原はルモン大帝国にも接しているので、山側の道が閉ざされても、ルモン大帝国経由で町への出入りは可能のように誤解されることがある。
 しかし湿原の奥には危険な魔物が生息していて、山越え以上に危険を伴うという。

 ジョイが言っていた集落を過ぎると、道は一気に細くなる。それでも一日目はまだ良かった。
 二日目になると、道端の草が伸びていて、どんどん道が狭くなる。通る人が滅多にいないのだろう。下草だけでなく、傍に生えている木の枝が伸びていて、行く手を邪魔していることもあった。
 ジョイは器用に枝を打ち払いながら、馬車を進める。運馬も慣れたもので、馬車がようよう通れるほどの狭い道を、力強く登っていく。

 昼を過ぎたころ、魔物の気配が近づいてきた。ノムルは早々に杖を取り出し、軽く弾く。
 この道に慣れているジョイならば、たとえ今回は道中で魔物に遭遇しなくても、次から油断するなどということはないだろう。そう判断しての行動だった。
 しかし雷の轟音に混じって、ジョイの声がノムルの耳に届く。

「魔物だ!」

 まだ視認するには難しい魔物の気配を、早くも感じ取っていたらしい。とはいえ彼が叫んだときには、すでに魔物は逃走を始めていたのだけれども。
 それはいいとして、なぜかノムルをユキノがじいっと見上げている。

「どーしたのー?」
「いえ、なんでもありません」

 へらりと笑って問えば、ユキノは首をゆるゆると左右に振る。
 時々襲ってくる魔物をノムルが魔法で適当に追い払いつつ、馬車は進む。途中からジョイが顔を引きつらせて、何度か荷台を振り返っていたが、気にすることはないだろうとノムルは放っておいた。
 しかしユキノに関しては別である。
 何か言いたそうにノムルを見ては、そっと顔を逸らすという行動を何度も繰り返されれば、放っておくわけにはいかない。

「心配しなくても、威嚇して追い払っているだけだよ? 傷付けていないから安心して?」

 そう言ってやると、ユキノはほっと安心したように息を吐く。けれど、まだ不安は残っていたらしい。ためらいながらも質問してきた。

「あの、木は無事でしょうか?」
「木?」
「えっと、雷は大きな木に落ちやすいと聞きます。立派な御老木が、維管束発作を起こしてしまっては申し訳ないと申しますか。山火事も心配ですし」
「維管束発作?」
「あ、いえ、ええーっと……」

 初めて聞いた言葉に動揺するノムルだが、ユキノが誤魔化したがっている様子なので、とりあえず聞き流すことにする。
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