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95.なんとか復活したノムルは
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なんとか復活したノムルは、ユキノと共に湿原に踏み込んだ。朝の内に領主の館を出たのに、もう日は高く昇っていた。
「ユキノちゃん、人間に見つからないよう、ちょっと早めに奥まで行きたいから、抱き上げてもいいかな?」
湿原の浅い部分には、薬草を探しにきている人間の気配がある。正義感とやらで、奥に入るのを邪魔されては面倒だ。
「ちょっと恥ずかしいですが、よろしくお願いします」
自分の根の遅さは理解しているのだろう。ユキノは葉を少し赤く染めながら、樹冠を下げた。
「じゃあ」
と、ノムルは子供を抱き上げるように脇の下に手を入れる。だが布越しに伝わる枝の細さが、持ち上げることを躊躇させた。ユキノの体を支えるには頼りなさすぎて、折れそうで恐ろしい。
改めて周囲の木を見て考えたノムルは、左手でユキノの幹を掴む。思ったより細いが、枝よりはしっかりしている。
しかし、ユキノは不機嫌そうに眉葉を寄せて睨んだ。
「ノムルさん、セクハラですよ?」
「え? 樹人なのに?」
「なんと!? 樹人ならば、女の子の幹を握ってもいいと? 樹人権を主張します!」
「ええー……」
理不尽だと思いながらも、ではどうやって抱き上げればいいのかと、ノムルは頭を捻る。何度か試し、腕に座るように乗ってもらう、片手抱っこで落ち着いた。
「じゃあ、ちょっと速度を出すから、しっかりつかまっていてね?」
「了解です!」
布越しではあるが、首筋に硬い枝が巻き付き、柔らかな青葉が頬に触れる。間違いなく木だなーと思いながら、ノムルはぬかるんだ地面を蹴った。
「のおおおおーっ!?」
途端にユキノの悲鳴が上がる。
ノムルにとっては慣れた速度だが、彼の早さは馬が疾走するより速い。ユキノの悲鳴を聞いて速度を落としたが、彼女の樹冠に茂る葉は、風圧でばさばさと揺れた。
「ふんみゃあああーっ!? 葉っぱがあ、葉っぱがあああーっ!」
「ユキノちゃん、もうちょっと静かにしようか?」
「わかりまのおおおおーっ!?」
「わーっ!」
分かっていなかった。ついでにマンドラゴラまで出てきて、静かだったムツゴロー湿原は、一気に騒がしくなる。
人気のない場所まで入り込むと、ノムルは足を止めた。一応とばかりに辺りの気配を探ってみるが、人間は感知されない。
「おぉおぉおぉ……。人間とは、これほど速く走れるものだったのですね」
「わー……」
ノムルの肩に樹冠を乗せて、ユキノはぐったりとした様子だ。走っても大人が歩くより遅い彼女にとっては、未知の領域だったのだろう。
一緒になって萎びているマンドラゴラのほうは、どこか演技掛かっている。本気で辛いわけではなく、ユキノの真似をして遊んでいるのだろう。
やはりこのマンドラゴラはおかしいと、ノムルは改めて思う。
「ユキノちゃん、人間に見つからないよう、ちょっと早めに奥まで行きたいから、抱き上げてもいいかな?」
湿原の浅い部分には、薬草を探しにきている人間の気配がある。正義感とやらで、奥に入るのを邪魔されては面倒だ。
「ちょっと恥ずかしいですが、よろしくお願いします」
自分の根の遅さは理解しているのだろう。ユキノは葉を少し赤く染めながら、樹冠を下げた。
「じゃあ」
と、ノムルは子供を抱き上げるように脇の下に手を入れる。だが布越しに伝わる枝の細さが、持ち上げることを躊躇させた。ユキノの体を支えるには頼りなさすぎて、折れそうで恐ろしい。
改めて周囲の木を見て考えたノムルは、左手でユキノの幹を掴む。思ったより細いが、枝よりはしっかりしている。
しかし、ユキノは不機嫌そうに眉葉を寄せて睨んだ。
「ノムルさん、セクハラですよ?」
「え? 樹人なのに?」
「なんと!? 樹人ならば、女の子の幹を握ってもいいと? 樹人権を主張します!」
「ええー……」
理不尽だと思いながらも、ではどうやって抱き上げればいいのかと、ノムルは頭を捻る。何度か試し、腕に座るように乗ってもらう、片手抱っこで落ち着いた。
「じゃあ、ちょっと速度を出すから、しっかりつかまっていてね?」
「了解です!」
布越しではあるが、首筋に硬い枝が巻き付き、柔らかな青葉が頬に触れる。間違いなく木だなーと思いながら、ノムルはぬかるんだ地面を蹴った。
「のおおおおーっ!?」
途端にユキノの悲鳴が上がる。
ノムルにとっては慣れた速度だが、彼の早さは馬が疾走するより速い。ユキノの悲鳴を聞いて速度を落としたが、彼女の樹冠に茂る葉は、風圧でばさばさと揺れた。
「ふんみゃあああーっ!? 葉っぱがあ、葉っぱがあああーっ!」
「ユキノちゃん、もうちょっと静かにしようか?」
「わかりまのおおおおーっ!?」
「わーっ!」
分かっていなかった。ついでにマンドラゴラまで出てきて、静かだったムツゴロー湿原は、一気に騒がしくなる。
人気のない場所まで入り込むと、ノムルは足を止めた。一応とばかりに辺りの気配を探ってみるが、人間は感知されない。
「おぉおぉおぉ……。人間とは、これほど速く走れるものだったのですね」
「わー……」
ノムルの肩に樹冠を乗せて、ユキノはぐったりとした様子だ。走っても大人が歩くより遅い彼女にとっては、未知の領域だったのだろう。
一緒になって萎びているマンドラゴラのほうは、どこか演技掛かっている。本気で辛いわけではなく、ユキノの真似をして遊んでいるのだろう。
やはりこのマンドラゴラはおかしいと、ノムルは改めて思う。
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