遺言、死書、呪詛

いのんちゅ

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第1章

遺言書

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遺言書
 私が死ぬに至る決意をしたのは、ひとえに虚無である。

 人生は虚無感に満ちている。この世のありとあらゆることは無意味であり、多くの人間はこのことに気づかぬように生きている。しかし皆知っているのだ。人生は無意味だと。生きることは全く意味はないのだと。
 人が死ぬから結果全ては無意味である。そう言いた暴論ではなく、死があるからこそ生に価値があるなどという綺麗事でもない。生も死も無意味という言葉の前に何一つとして力を持たないのだ。生きることは無意味であるし、死ぬことは無意味なのだ。戦争と平和も、過去と未来も。あらゆる対義語が無意味、虚無という言葉の前では平等に同意義の言葉へと成り下がるのだ。
 言葉の意味を剥ぎ取っていけば、そこに意味が残る言葉もないし、価値の残る存在はない。
 これはつまり人にのみ当てはまることではない。犬も猫も無意味だし、木も草も花も、太陽と月も、地球も宇宙も、原子その一つまで意味はない。
 残念だ。
 残念と思うこの行為自体が無意味だとわかっていてもなお思ってしまう。そして心は虚無へと支配される。
 しかしそれにも意味はないのだ。
 ありとあらゆることを辿れば無意味へと行き着き、どんな物事の行く末もまた無意味なのである。1+1は無意味なのだ。勉強は意味を持たない。スポーツでどれだけ輝かしい功績を納めても意味はない。足が早かろうが意味はないし、槍がどれだけ遠くへ飛ぼうと数字が変化するだけだ。
 これはあくまで私個人の意見である。そう逃げる事は容易い。しかし誰一人としてこの無意味に当てはまらない人間はいない。
 
 そんな無意味にも逃げ道はいくつかある。一つは快楽主義に溺れる事だ、思考を停止し、ただ快楽に身をまかせる。一見有効な手ではあるが、快楽に意味がないと気づいたときの絶望、いや、その絶望すら無意味だということを理解したときの虚無感に意味は無い。
 次は何かに、自分の中ででも他人でも価値を見出す事だ。芸術のような創作物。過去無意味な人間が無意味に作り出した物に価値があると思い込んでみる。音楽。どんな音楽も初めは素晴らしいものに聞こえるだろ。そして何回も聞いてるうちに飽きてくる。つまりは無価値に感じる。何度聞いても飽きない音楽があるとしたら、それは無意味から逃げ出したい錯覚の代物である。食事。一時的な欲。無意味。価値を見いだせば、その価値を理解すればするほどそれは虚無へと近づくのだ。何か一つの物事に熱中している人間を無意味と思った事はないだろうか?ご理解いただけると思うが、その無意味と感じている事はそっくりそのまま自分へと返ってくる。有り体に言えば、深淵を覗くものは深淵に覗かれるのだ。そして深淵とは虚無なのだ。圧倒的な「無」である。何も無い。何一つ無い。白や黒では無い、無色透明ですら生ぬるい、無なのだ。
 そして多くの人間はそんな簡単たんな価値すら探せず、金というものにすがるのだ。金こそ無の象徴とも言えるものなのに。

 中には価値のあるものがある。正確には価値がある可能性があるものはある。この虚無感を消し去り得る哲学もしくは宗教、そして人類を発展し得る物理学である。学問のススメよろしく、だから勉強しましょうなどという気はさらさらないが哲学はもしかしたら人生の意味に結論を出せるかもしれないし、物理学の発展もまた同様のことが言える。しかし哲学を専攻する学生ほど自殺率が高いというのは、なによりも無意味を証明しているのもまた事実だ。希望はない。希望という単語も無意味だからだ。

 無意味であるとはわかりつつも、涙が出てくる。無意味な憤りが降ってくる。感情など、感情ほど無意味なものは無いのに、この、このどうしようもない虚無感。劣等感すら羨ましい。負の感情ですら生きるに値するというのに、今の私にはそれすら持てない。一度かかれば最後、無意味の呪縛は抜け出せない。

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