ACES IN SKIES

みにみ

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虚空の猟鳥

空を切り裂き降るは鉄

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僚機を失った直後、フェンリル師団の空気は一変した。
編隊としての秩序は崩れ
残った機体は互いの位置も確かめぬまま、敵影へ突っ込んでいく。
「……行くぞ、野郎ども!」
怒号に近い無線が飛び交う。
敵を落とすことだけが目的になり、隊としての判断は失われていた。
「フェンリル、散開しすぎだ!戻れ!」
オウルアイの警告は届かない。
ランドグリーズの妨害電波の向こうで、感情が先に立っていた。
敵はそれを見逃さない。
JAS-39が上下に散り、F-14Dが外縁から包み込む。
「フェンリル7、被弾――!」
報告の直後、機影が一つ消えた。
続けざまに、また一つ。
「くそ……!」
フーシェンが歯噛みする。
「あの馬鹿ども……感情に流されてやがる」
だが、止まらない。
フェンリル師団は、ある決断を選ぶ。
「高度を上げるぞ!」
それは、DTSの存在を承知の上での選択だった。
高度二千フィートという“生存線”を越え、機体は上昇する。
警告音が鳴り響く。
だが、フェンリルの機体は重く、そして強い。
大馬力エンジンが唸りを上げ、加速する。
高度差を得た彼らは、ようやく敵を見下ろす位置についた。
「捕らえた!」
一機、また一機。
上からの一撃が、オージン隊の機体を空から追い落とす。
「やれる……!」
一瞬だけ、流れが変わった。
だが、その瞬間だった。
「――全機、聞け」
オウルアイの声が、異様に落ち着いている。
「DTSの射撃を確認。弾着まで……10秒」
空気が凍りつく。
「9」
誰かが息を呑む。
「8」
フェンリルの機体が、必死に降下を始める。
「7」
だが、間に合わない。
「6」
敵も、味方も、同じ空域にいる。
「5」
リカは計器から目を離し、空を見た。
「4」
その空が、異様に静かだった。
「3」
次の瞬間が、容易に想像できた。
「2」
「1」
「――0」
空が、光った。
白でも赤でもない、理解を拒む閃光。
続いて、大気そのものが揺れた。
衝撃が、波のように広がる。
計器が跳ね、機体が叩きつけられる。
「……っ!」
リカの機体も、大きく姿勢を崩した。
だが、操縦桿を握り直し、なんとか持ち直す。
「生き残っている各機、応答せよ!」
オウルアイの叫び。
「クラウ1、応答可能!」
「クラウ5、問題なし!」
返答は、まばらだった。
フェンリル師団からの応答は、さらに少ない。
その混乱の最中でも、敵機は襲いかかってくる。
彼らは、この地獄に慣れているかのようだった。
「まだ来るぞ!」
「……やむをえん」
フーシェンが、低く告げる。
「DTSの砲撃の間をぬって交戦せよ」
それは、空の中で雷の隙間を縫うような戦いだった。
一瞬の判断ミスが、消滅を意味する。
空はもはや、戦場ですらない。
ただの試練だった。
それでも、彼らは飛び続ける。
ヒュースポイントへ向かう、その道を切り開くために。

クラウ隊は、崩れそうになる編隊を必死に維持していた。
逃げながら戦うという矛盾した行動は
操縦桿と判断力の限界を容赦なく削っていく。
敵は多く、こちらは少ない。撃墜しても、すぐに次の影が現れる。
「数が減らん……!」
スウィンダラーの声が荒れる。
一機落としても、二機が迫る。JAS-39は軽快に上下へ散り
F-14Dは距離を保ったまま圧力をかけてくる。
「クラウ、これ以上は持たん」
オウルアイが状況を整理するように告げた。
「提案する。編隊戦闘を解いて、各個で空域を突破しろ」
一瞬の沈黙。
それは、編隊としての防御を捨てるという意味だった。
「……了解する」
フーシェンは即断した。
ここで迷えば、全滅する。
「クラウ隊、ゴーレム隊、フェンリル残存機。各機、出せる最高速度で離脱しろ」
増槽を投棄する音が、次々と無線に混じる。
機体は一斉に加速し、戦場は一気に引き伸ばされた。
その最中、リカが短く通信を入れた。
「クラウ5よりオウルアイへ。敵機の発進基地は何処か」
「待て……解析する」
リカは回避機動を続けながら、計器と空を同時に見る。
敵の動きはまだ鋭いが、どこか焦りが混じり始めているように見えた。
「判明した。二百八十キロ北方、リード特設野戦飛行場だ」
リカは即座に計算を始めた。
F-14Dはフェニックスを最大搭載しているとしても
燃料消費は激しい。JAS-39は航続距離が短く、武装を積めばなおさらだ。
急遽スクランブルで上がってきたのなら、余裕はない。
リカはコクピットの時計を一瞥した。
「……五分も無い」
決断は早かった。
「敵機の最大交戦時間は、残り五分以下。私が耐える。全機、逃げ切れ」
即座に反論が飛ぶ。
「んな無茶な!」
「隊長、止めてください!」
だが、リカの声は強かった。
「いいから行けっつーの!」
無線が一瞬、静まり返る。
「……うちも残るわ」
ブリュンヒルデが、淡々と言った。
「燃料はまだある。みんな結構使ってるでしょ。
 隊長、何度もミサイルの間に入ってくれたし。恩は返さなきゃね」
フーシェンは歯を食いしばった。
だが、現実は冷酷だった。自分の機体も、ヒュースポイントまではぎりぎりだ。
「……了解。絶対に落ちるなよ」
「約束はできないけど、努力はする」
ブリュンヒルデが笑う。
残りの機体が、次々と空域を離脱していく。
空は、一気に広くなった。
リカはオープンチャンネルを開いた。
「やぁやぁ、我こそはクラウ隊五番機。FCFの隕石こと、TACネーム・アリス」
一瞬の間。
「腕に自信のあるやつから、かかってこい。相手してやる」
挑発は、即座に効いた。
レーダーに映る敵影が、露骨にこちらへ向きを変える。
「分かりやすい……」
ブリュンヒルデが呟く。
「ブリュンヒルデ、やるよ」
「アリスへ。了解」
二機は互いの位置を確認し、距離を保つ。
編隊ではない。だが、信頼はある。
敵は突っ込んでくる。
時間との戦いだと、誰よりもリカが理解していた。
五分あればいい。
それだけあれば、仲間は逃げ切れる。
リカは機体を傾け、敵を迎えにいった。
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