ACES IN SKIES

みにみ

文字の大きさ
14 / 38
虚空の猟鳥

閑話 レストランの娘.2

しおりを挟む
昼の空は、戦争の気配を隠すのが上手だ。
青は均され、雲は整えられ、何事もなかったかのように広がっている。
私は店の裏口から外へ出て、無意識に空を見上げていた。
その瞬間、音が遅れてやってきた。
低く、重なり合うジェット音。
一つではない。
編隊だ。
白い機影が、南から北へ、正確すぎる間隔で並んで飛んでいく。
レギンレイヴ隊だと、すぐに分かった。
数は五。
高度も速度も、揃いすぎている。
私は息を止めた。
次の瞬間、彼らは一斉に旋回した。
まるで合図があったかのように、同じ角度、同じ半径で機体を傾ける。
教科書の図のような、美しい動き。
だが、その中で一機だけが違った。
鋭く、深く、空を切り裂くように旋回した機体。
他の四機が描く飛行機雲よりも、わずかに濃く、鋭い白線を引いた。
「……サーリア9」
口に出してから、少し驚いた。
名前を知っているわけではない。
ただ、そうだと分かってしまった。
同じ編隊、同じ動き。
それでも、空に残る痕跡が違う。
私は、その白い線が消えていくまで、目を離せなかった。


昼の営業が始まる前、父が新聞を広げていた。
ハーギア国内紙。
大きな見出しが踊っている。
〈連戦連勝、空は我らのもの〉
〈英雄たち、祖国を守る〉
父は、ため息混じりにそれを畳んだ。
「……どう思う?」
そう聞かれて、私は答えに詰まった。
「新聞の通りなら、全部うまくいってるってことになるけど」
「顔を見れば分かるだろ」
父は、そう言ってカウンターの向こうを見た。
昨日の夜、ここに座っていた人たちのことだ。
笑っていなかった。
勝者の顔ではなかった。
「フーシュトクバの西で、FCFの上陸が成功したらしい」
父は、低い声で言った。
「港を押さえられたって噂だ。完全じゃないが、足場はできた」
私は、心臓が少しだけ早く打つのを感じた。
フーシュトクバは遠い。
それでも、地図の上では、ここへ向かう線上にある。
「ここも……戦場になる?」
父は、少し考えてから答えた。
「時間の問題だろうな」
この街は、ハーギアが進軍してきたとき、ほとんど抵抗せずに占領された。
FCFの部隊は、驚くほど早く引いた。
戦闘らしい戦闘はなかった。
だから、この街は壊れていない。
だから、戦争が遠いもののように錯覚できている。
「でも、今度は違う」
父は続けた。
「今度は、ハーギアが守る側になる」
私は、昼間に見た空を思い出した。
編隊。
整然とした動き。
それでも、どこか余裕のない線。
学校では、国際連盟の話を習った。
平和を守る組織。
協調。
集団安全保障。
でも、先生は言っていた。
今は、ほとんど機能していないと。
「有志国が、FCFを支援してるらしいな」
父は、新聞には載らない話をする。
「セネアトバトスを通して、物資も、人も」
セネアトバトス。
その名前を、私は最近よく聞く。
空の向こうの国。
でも、今は確かに、戦争の中心にいる。
夜、店にレギンレイヴ隊は来なかった。
代わりに、空が騒がしかった。
遠くで聞こえるエンジン音。
時折、低く響く爆音。
この街に届くほどではないが、確実に近づいている。
私は、窓から夜空を見た。
星は少ない。
雲が低い。
この空を、あの人たちも見ているのだろうか。
サーリア9も。
サーリア15も。
新聞には、勝利しか書かれていない。
でも、空は正直だ。
昼間に残った、一本だけ鋭い飛行機雲。
あれは、勝ち続けている者の線ではない。
耐えている者の線だ。
この街が戦場になる日。
そのとき、あの編隊はどこを飛ぶのだろう。
私は、空から目を離せなかった。
戦争が、確実にこちらへ向かってきていることを、
もう疑いようがなかったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す

みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための 「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した 航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。 航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。 そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は

処理中です...