ACES IN SKIES

みにみ

文字の大きさ
29 / 38
大陸の魔鳥

空の王

しおりを挟む
港はすでに地獄だった。
燃え上がる空母の残骸が黒煙を吐き、
巡洋艦は傾き、駆逐艦は互いに衝突しながら逃げ場を探している。
夜明け前の暗闇は、もはや隠れ蓑ではない。
炎が、港全体を昼のように照らしていた。
それでも――
まだ生きている艦がある。
それを、リカは見ていた。
「……オウルアイ」
YF-23のコクピット。
HUDに映るのは、港全体を俯瞰した戦場図。
「こちらアリス。大型艦、指揮能力を保持している艦がまだ残ってる」
一瞬の沈黙。
「……確認した。港中央、指揮艦と推定。
 強力な防空網あり。――通常なら、複数機で叩く目標だ」

「了解」
短く返し、リカは操縦桿を押し込んだ。
「でも、今日は私がやる」
Gray Ghostが、音もなく加速する。
アフターバーナーは焚かない。
それでも速度計は、恐ろしい勢いで跳ね上がっていく。
レーダーに映らない。
赤外線も、ほとんど拾われない。

「……なんだ、この機体」
思わず、独り言が漏れる。
F-15とはまるで違う。
空気を“切る”のではなく、空に溶け込んでいる感覚。
「アリス、単独突入か?!」

スウィンダラーの声が飛ぶ。
「無茶だぞ、あそこは――」
「無茶じゃない」
リカは淡々と答えた。
「この機体なら、行ける」
その言葉に、誰も反論できなかった。

港湾施設が近づく。
巨大なドック。
修理用クレーン。
弾薬庫。
燃料タンク。
戦争を支える臓腑が、そこに集まっている。
「ターゲット、優先順位AからCまで一括指定」
HUDに、次々と赤枠が浮かぶ。
「JSM、投下準備 Open the weaponbay」

「……来たぞ!」
敵艦のレーダー士官が叫ぶ。
「高速目標!一機!いや……捕捉できない、消えた!」
連装の時代遅れの対空砲が、虚空に火を噴く。
だが、遅い。

「JSM、リリース 慣性誘導目標5番から9番」
ドン、ドン。
機内から切り離されたミサイルが、
一瞬だけ姿を見せてから、海面すれすれに消える。
数秒後。
港湾施設が――爆発した。
ドックが崩れ、
クレーンがへし折れ、
修理中の艦がそのまま炎に包まれる。
「な……何が起きている?!」
「港湾が!後方施設が壊滅していく!」
リカは、止まらない。
「次」
機体を反転させ、
信じられない角度で再侵入。
対空砲火の隙間を、縫うように抜ける。

「――LRASM、投下」
今度の標的は、港中央。
西遣艦隊の心臓。
指揮艦。
「司令艦上空、敵機接近!」
「迎撃しろ!SAMを集中!」
ミサイルが放たれる。だが、ロックが定まらない。
「馬鹿な、反応が消える!」
「どこだ!どこにいる!」
その答えは――
上。
「……そこだ」
リカの声。
一度浮き上がったLRASMが真上から、落ちた。
指揮艦の中央部に直撃。
艦橋が、丸ごと吹き飛ぶ。
「指揮艦、撃破!」
「司令部、応答なし!」
敵側の通信が、完全に混乱する。
オウルアイが、息を呑んだ。
「……アリス」
「港湾能力、指揮能力、両方を喪失」
リカは冷静だった。
「この艦隊は、もう戦えない」
それでも、まだ終わらない。
生き残った巡洋艦が、必死にSAMを撃つ。
駆逐艦が、機関砲を乱射する。
「来るか」
リカは、笑った。
「いいよ。全部、相手してあげる」
「クラウ5よりレーダー誘導支援請う」
「了承した クラウ5ミサイル誘導支援開始」

「ミサイルシーカーロック Fox3」AIM-120を、連続発射。

迎撃に上がった敵機が、
次々と空中で爆散する。
「迎撃隊、全滅?!」
「3機同時に吹き飛んだぞ!」
「一機で……一機で全部やってるのか?!」
敵の恐慌が、無線越しにも伝わる。
低空へ。
港の中を、縦横無尽に駆け回る影。
20mmバルカンが、火を噴く。
弾薬庫。
通信施設。
燃料タンク。
的確すぎる破壊。
「まるで……」
フェンリルの誰かが呟く。
「空の王だ……」
クラウ隊は、ただ見ていた。
制空は完全。
だが、主役は今一機。

「……なぁ」
スウィンダラーが呟く
「俺たち、要らなくね?」

「馬鹿言わないで」
ブリュンヒルデが即座に返す。
「あれを“自由にさせる空”を作ってるのが、私たち」
「……それはそうだな」
最後に残った大型艦。
弾幕は弱まり、
回避行動も鈍い。
リカは、ゆっくりと狙いを定めた。
「……終わり」
ミサイル一発。
それだけで、十分だった。
静寂。
爆音が消え、
残るのは、燃える海と沈む鋼鉄。
オウルアイが、静かに告げる。
「……西遣艦隊、戦闘能力喪失を確認」
「作戦成功だ」
Gray Ghostは、旋回する。
朝日が、機体を照らす。
誰にも追われず、
誰にも届かず。
その姿は――
まるで、隕石。
空を支配する、ただ一つの存在。
「こちらアリス」
リカは、いつも通りの声で言った。
「……帰ります」
その一言で、
誰もが確信した。
この空の王は、もう“一時的なエース”ではない。
FCFの隕石。
空の王〈アリス〉。
――その名は、この日、完全に刻まれた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す

みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための 「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した 航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。 航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。 そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は

処理中です...