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蒼海の凶鳥
Гарпия⦅ハルピーヤ オウギワシ⦆
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西遣艦隊は、消えた。
それは比喩ではなく、作戦地図からの消失だった。
赤と青で埋め尽くされていた海域表示は、今や意味を失い
焼け落ちた港湾施設と沈没艦の座標を示す灰色の注釈だけが残されている。
航空母艦四。
戦艦二。
巡洋艦五。
駆逐艦二十六。
数で語れば、ただの数字だ。
だが、それらはすべて、ハーギア軍が
「まだ勝てる」と信じていた最後の説得力だった。
ポーラリア――
ジャセネガ首都にして、西遣部隊統合司令部が置かれる
この都市の地下司令室は、異様なほど静まり返っていた。
誰もが理解している。この沈黙は、敗北の音だ。
「……確認を」
低く、掠れた声が響く。
作戦卓の端に立つ統合司令官が、わずかに顎を上げた。
「航空打撃の主因は?」
参謀の一人が、端末を操作しながら答える。
「FCF航空部隊の連携精度です。
特に――クラウ隊と識別される編隊の動きが突出しています」
「またあの“隕石”か」
誰かが呟いた。
その言葉に、室内の空気がわずかに揺れる。
今やそれは、コードネームでも、噂話でもない。
恐怖を指す単語だった。
これで戦争が終わると思っていたバラード基地空襲での壊滅的損害
レーダーサイト、前哨航空基地の破壊
FCFによる逆上陸作戦
そして制空権を持っていたDTS破壊。
極め付けには不沈と謳われた艦隊の夜間壊滅。
すべての作戦報告書の末尾に、同じ注釈が残る。
単機による戦況変動を確認
「馬鹿げている……」
誰かが吐き捨てる。
だが、誰も否定しなかった。
DTSは潰された。航空支配権は喪失。
地上では、FCFの部隊が前線を押し上げ、支配地域は日毎に削られている。
理論上、撤退は可能だ。
FCF大陸から兵を引き、戦線を整理し、態勢を立て直す。
――だが。
「上が、それを許すと思うか?」
統合司令官の言葉は、答えを求めていない。
ハーギアという国家は、退かない。
退いた瞬間、内部から崩れることを、彼ら自身が知っている。
隕石の衝突で崩壊しかけた国を戦争という縄で無理やり止めているのだ
少しの衝撃で全てが崩壊する
そして何より。
ポーラリアが、狙われている。
偵察衛星の映像。
電子諜報の解析。
前線部隊からの断片的な報告。
すべてが同じ方向を指していた。
「防衛線付近に、敵航空部隊が集結しています」
参謀が淡々と告げる。
「この都市が落ちれば――」
「北が、空く」
誰かが続けた。
「“隕石”が北上し、大陸全土を解放する」
その言葉に、誰も反論しなかった。
沈黙の中、統合司令官は一つのフォルダを開く。
赤い警告表示。使用予定――未定。
「……招集しろ」
声は静かだった。
「レギンレイヴ隊を」
参謀たちが、一瞬だけ視線を交わす。
その意味を、全員が理解していた。
「例の機体を?」
「ああ」
統合司令官は、はっきりと頷いた。
「本来は、使うつもりはなかった。
だが――今は違う」
彼は言葉を選ばない。
「この戦争は、もう“人間的”じゃない」
地下格納区画。
照明を落とした広大な空間に、五つの影が並んでいた。
Su-37EMF Гарпия。
その姿は、従来の戦闘機の延長線上にはない。
大型化された全遊動カナード。
意図的に小さく抑えられた垂直尾翼。
直進安定性を捨て、旋回の“始動”だけを極端に尖らせた異形。
「……化け物だな」
誰かが呟く。
レギンレイヴ隊の隊長、サーリア9――
三十代後半。
長年、空を生き延びてきた男は、黙ってその機体を見上げていた。
説明が始まる。
機体の30%をCFRPとアルミ・リチウム合金の新素材への置換
Su-57にも採用されている大出力AL-41F1エンジン二基。
エンジン排気口は三次元推力偏向。
AL-41F1によるスーパークルーズ。
「Gリミッターは?」
サーリア9が、短く尋ねる。
技術士官は、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……解除可能です」
それだけで、十分だった。
コクピット横の高初速高レート30mmガトリング。
翼のハードポイントにつけられた14発以上の空対空ミサイル。
内蔵と外装の思想的な破綻。
これは、長く使う機体ではない。
「人間の方が、先に壊れます」
士官は、事実をそのまま述べた。
「長時間の戦闘機動を行えば、不可逆的な損傷が――」
「わかっている」
サーリア9は遮った。
彼の脳裏には、失われた名がある。
サーリア15。
かつての右腕。
そして、あの報告。――隕石。
たった一機で、戦争の流れを変えた存在。
「……俺たちは」
彼は、静かに言う。
「止められるのか?」
答えはない。
勝てるかどうかは、誰にもわからない。
この機体に乗って、先に死ぬかもしれない。
それでも。
サーリア9は、ヘルメットを手に取る。
内地に残した、父と母の顔が浮かぶ。
彼らは、戦争の全貌を知らない。
だが、空が落ちれば、地上も終わる。
「……やらねば」
彼は呟く。
「勝てる未来は、来ない」
Гарпияの機首が、薄暗い照明を反射する。
オウギワシの名を持つその機体は、今、翼を開こうとしていた。
次なる戦いは、決まっている。
ポーラリア防衛戦。
隕石を擁するFCF航空部隊を迎え撃ち、
この空を、最後に奪い返すために。
たとえ――
自分が墜ちるとしても。
彼は、梯子に足を掛けた。
空は、まだ奪われていない。
それは比喩ではなく、作戦地図からの消失だった。
赤と青で埋め尽くされていた海域表示は、今や意味を失い
焼け落ちた港湾施設と沈没艦の座標を示す灰色の注釈だけが残されている。
航空母艦四。
戦艦二。
巡洋艦五。
駆逐艦二十六。
数で語れば、ただの数字だ。
だが、それらはすべて、ハーギア軍が
「まだ勝てる」と信じていた最後の説得力だった。
ポーラリア――
ジャセネガ首都にして、西遣部隊統合司令部が置かれる
この都市の地下司令室は、異様なほど静まり返っていた。
誰もが理解している。この沈黙は、敗北の音だ。
「……確認を」
低く、掠れた声が響く。
作戦卓の端に立つ統合司令官が、わずかに顎を上げた。
「航空打撃の主因は?」
参謀の一人が、端末を操作しながら答える。
「FCF航空部隊の連携精度です。
特に――クラウ隊と識別される編隊の動きが突出しています」
「またあの“隕石”か」
誰かが呟いた。
その言葉に、室内の空気がわずかに揺れる。
今やそれは、コードネームでも、噂話でもない。
恐怖を指す単語だった。
これで戦争が終わると思っていたバラード基地空襲での壊滅的損害
レーダーサイト、前哨航空基地の破壊
FCFによる逆上陸作戦
そして制空権を持っていたDTS破壊。
極め付けには不沈と謳われた艦隊の夜間壊滅。
すべての作戦報告書の末尾に、同じ注釈が残る。
単機による戦況変動を確認
「馬鹿げている……」
誰かが吐き捨てる。
だが、誰も否定しなかった。
DTSは潰された。航空支配権は喪失。
地上では、FCFの部隊が前線を押し上げ、支配地域は日毎に削られている。
理論上、撤退は可能だ。
FCF大陸から兵を引き、戦線を整理し、態勢を立て直す。
――だが。
「上が、それを許すと思うか?」
統合司令官の言葉は、答えを求めていない。
ハーギアという国家は、退かない。
退いた瞬間、内部から崩れることを、彼ら自身が知っている。
隕石の衝突で崩壊しかけた国を戦争という縄で無理やり止めているのだ
少しの衝撃で全てが崩壊する
そして何より。
ポーラリアが、狙われている。
偵察衛星の映像。
電子諜報の解析。
前線部隊からの断片的な報告。
すべてが同じ方向を指していた。
「防衛線付近に、敵航空部隊が集結しています」
参謀が淡々と告げる。
「この都市が落ちれば――」
「北が、空く」
誰かが続けた。
「“隕石”が北上し、大陸全土を解放する」
その言葉に、誰も反論しなかった。
沈黙の中、統合司令官は一つのフォルダを開く。
赤い警告表示。使用予定――未定。
「……招集しろ」
声は静かだった。
「レギンレイヴ隊を」
参謀たちが、一瞬だけ視線を交わす。
その意味を、全員が理解していた。
「例の機体を?」
「ああ」
統合司令官は、はっきりと頷いた。
「本来は、使うつもりはなかった。
だが――今は違う」
彼は言葉を選ばない。
「この戦争は、もう“人間的”じゃない」
地下格納区画。
照明を落とした広大な空間に、五つの影が並んでいた。
Su-37EMF Гарпия。
その姿は、従来の戦闘機の延長線上にはない。
大型化された全遊動カナード。
意図的に小さく抑えられた垂直尾翼。
直進安定性を捨て、旋回の“始動”だけを極端に尖らせた異形。
「……化け物だな」
誰かが呟く。
レギンレイヴ隊の隊長、サーリア9――
三十代後半。
長年、空を生き延びてきた男は、黙ってその機体を見上げていた。
説明が始まる。
機体の30%をCFRPとアルミ・リチウム合金の新素材への置換
Su-57にも採用されている大出力AL-41F1エンジン二基。
エンジン排気口は三次元推力偏向。
AL-41F1によるスーパークルーズ。
「Gリミッターは?」
サーリア9が、短く尋ねる。
技術士官は、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……解除可能です」
それだけで、十分だった。
コクピット横の高初速高レート30mmガトリング。
翼のハードポイントにつけられた14発以上の空対空ミサイル。
内蔵と外装の思想的な破綻。
これは、長く使う機体ではない。
「人間の方が、先に壊れます」
士官は、事実をそのまま述べた。
「長時間の戦闘機動を行えば、不可逆的な損傷が――」
「わかっている」
サーリア9は遮った。
彼の脳裏には、失われた名がある。
サーリア15。
かつての右腕。
そして、あの報告。――隕石。
たった一機で、戦争の流れを変えた存在。
「……俺たちは」
彼は、静かに言う。
「止められるのか?」
答えはない。
勝てるかどうかは、誰にもわからない。
この機体に乗って、先に死ぬかもしれない。
それでも。
サーリア9は、ヘルメットを手に取る。
内地に残した、父と母の顔が浮かぶ。
彼らは、戦争の全貌を知らない。
だが、空が落ちれば、地上も終わる。
「……やらねば」
彼は呟く。
「勝てる未来は、来ない」
Гарпияの機首が、薄暗い照明を反射する。
オウギワシの名を持つその機体は、今、翼を開こうとしていた。
次なる戦いは、決まっている。
ポーラリア防衛戦。
隕石を擁するFCF航空部隊を迎え撃ち、
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