ACES IN SKIES

みにみ

文字の大きさ
32 / 38
蒼海の凶鳥

ポーラリア奪還戦

しおりを挟む
――夜明け前、都市を取り戻す
午前三時四十分。
ヒュースポイント北方、第四空軍管区シリラット基地。
格納庫のシャッターはすでに開き、薄青い夜明け前の空気が機体の間を流れていた。
灯火管制下の滑走路には、必要最低限の誘導灯だけが点っている。
「……静かだな」
スウィンダラーが、インターコム越しに呟く。
冗談めいた調子だが、その声にはわずかな緊張が混じっていた。
「嵐の前ってやつでしょ」
ブリュンヒルデが即座に返す。
「どうせあと一時間で、うるさくなるわよ」
リカ――コールサイン、アリスは、二人のやり取りを聞きながら計器を確認していた。
YF-23〈グレイ・ゴースト〉のコクピットは、F-15とはまるで別物だ。
静かで、深く、どこか機体そのものが呼吸しているような感覚がある。
「……全機、聞こえる?」
フーシェンの声が入る。
クラウ隊隊長。少佐。
「今回の任務は、派手だ。でも目的は単純。
 地上部隊が生きて進める空を作る。それだけよ」
誰も軽口を叩かない。
全員が、これが「解放作戦」であることを理解している。
四時ちょうど。
オウルアイからのブリーフィングが、全機に共有された。
『開戦とともに踏みにじられた都市ポーラリアを、ハーギア軍から解放する』
静かな声だが、内容は重い。
『敵の主な抵抗拠点は二つ。
 旧市街地、国道三号線付近の戦車部隊。
 そして新市街地、行政官庁街に展開する対戦車ヘリ部隊』
ホログラムに、都市図が浮かび上がる。
古い石造りの旧市街。
碁盤目状に整備された新市街。
『また、後方の空港および発進する航空機も脅威となる。
 本作戦は明朝開始。視界は限定的だ。
 抵抗拠点を排除し、都市制圧を支援せよ』
一拍置いて。
『解放は、もうすぐそこだ』
午前四時。
エンジンスタート。
フェンリル師団の重低音が先に唸りを上げ、
続いてゴーレム、アバランチ、そしてクラウ隊。
五機分の排気が、夜気を震わせる。
「クラウ隊、タキシー開始」
滑走路へ。
午前五時四十分。
太陽はまだ地平線の下。
だが、東の空がわずかに白み始めていた。
『作戦開始』
オウルアイの声が、全周に響く。
『旧市街、新市街、ならびに空港の敵を掃討せよ』
「クラウ隊、了解」
フーシェンが即応する。
「編隊、散開。各自、担当エリアへ」
都市が見えてきた。
ポーラリア。
瓦礫に覆われた屋根。
黒く焦げた建物。
戦争が「止まった」まま放置された街。
「……旧市街地は方位140、すぐそこだ」
スナイパーが告げる。
「こちらグレシア7。国道東側、地雷原を確認」
地上部隊――グレシア旅団からの報告が次々に飛び込む。
『こちらグレシア4。各自の判断で交戦を許可する』
「了解」
クラウ隊は高度を下げた。
建物の影を縫うように進む。
「敵戦車、確認!」
ブリュンヒルデ。
国道沿い、瓦礫の陰から砲塔が覗く。
「……全く騒がしい連中だな」
スウィンダラーがぼやきつつ、照準を合わせる。
「JDAM、行くぞ」
F-15EXから投下された爆弾が、静かに落ちていく。
次の瞬間、国道沿いの陣地が、煙と衝撃に包まれた。
瓦礫が跳ね上がり、戦車の影が消える。
「命中」
短い報告。
リカは、別方向を見ていた。
旧市街のアーチ状構造物。
そこに、不自然な集中がある。
「……アーチ付近、強固な陣地」
スナイパーが言う。
「増援、要請する」
「ほいよっと」
スウィンダラーが即応した。
再びJDAM。
今度はより低く、正確に。
爆発の後、アーチの影は完全に崩れた。
リカは、一瞬だけ目を伏せた。
「……ちっ、嫌なもん見ちまった」
スウィンダラーの声が、珍しく低い。
「気にするな」
フーシェンが言う。
「進め。地上が待ってる」
『本部、こちらグレシア3。
 国道3号の目標16、航空支援により壊滅!』
旧市街の戦況が、明らかに傾いていく。
「次、新市街だ」
ブリュンヒルデ。
行政官庁街は、旧市街とは違う。
広い通り。
高層の建物。
そして――空。
「対戦車ヘリ、来るわよ」
その予測は、正しかった。
ローター音。
低空から、一斉に浮かび上がる影。
「数、結構いるな」
スナイパー。
「フェンリル、出番よ」
フーシェンが指示を飛ばす。
『了解。突っ込む』
重武装のフェンリル師団が、高度を下げる。
対空火器の弾幕を承知の上で。
ミサイルが交差し、
ヘリが次々と炎を上げて落ちていく。
「こちらグレシア7、新市街中央部、前進可能!」
地上部隊の声が、少しだけ明るくなった。
リカは、高度を維持したまま全体を見渡していた。
旧市街。
新市街。
そして、その奥――空港。
まだ、終わっていない。
「……次は、空港だね」
誰に言うでもなく、リカは呟いた。
夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す

みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための 「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した 航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。 航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。 そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は

処理中です...