ACES IN SKIES

みにみ

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蒼海の凶鳥

ブレイク

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ジャセネガ首都ポーラリアが落ちた、という報告は、
戦況報告の中ではあまりにも静かに告げられた。
「……ジャセネガ首都は、すでに敵に落ちたようです」
通信士の声は、努めて感情を抑えたものだった。
だが、その言葉が意味するものを、この場にいる全員が理解していた。
侵攻の起点となり、
FCF支配の中心であり、
ハーギア西方戦域の象徴でもあった都市。
そこが落ちたということは、
もはや前線の話ではない。
撤退――
それも、大陸規模での撤退が、現実味を帯びたということだった。
コックピットの中で、サーリア9は目を閉じた。
(……そうか)
予想はしていた。
だが、いざ事実として突きつけられると、胸の奥に沈む重さは別物だった。
これまで、何度も「まだ持ちこたえている」
「防衛線は健在だ」という報告を聞いてきた。
そのたびに、戦況図は少しずつ後退し、
防衛線は線ではなく点になり、
点はやがて、地図の端へと追いやられていった。
そして、今。
「次は……」
誰かが言いかけて、言葉を飲み込んだ。
次は、ハーギア本土だ。
誰もが、それを口に出さずに理解していた。
「サーリア7、進路125」
若い声が応じる。
「了解。進路125。……少佐、敵影は――」
「いい」
サーリア9は短く遮った。
「状況は把握している」
彼はレーダーを一瞥した。
FCF航空部隊の反応は、すでに戦域に満ちている。
空は、完全に彼らのものだった。
(……ここまでか)

「全機、聞け」
サーリア9は、部隊共通回線を開いた。
声は、意識して低く、しかしはっきりと。

「全機、方位を270に取れ」
一瞬の間。
「戦域を離脱する」

若い搭乗員たちの間に、ざわめきが走る。
「少佐……?」
「ハーギア本土へ向かえ」
その言葉が、決定的だった。
「……撤退、ですか」
誰かが、かすれた声で呟いた。
「そうだ」
サーリア9は、淡々と続けた。
「この大陸での戦いは、終わった」
誰も、すぐには返事をしなかった。
敗北を認めることは、
敗北そのものよりも、ずっと難しい。
「……では、隕石との勝負は」
その問いは、サーリア7だった。
新しく二番機についたばかりの若い搭乗員。
まだ、この戦争の重さを、完全には背負いきれていない声。
「俺に任せておけ」
サーリア9は、即答した。
「なぜですか、少佐!」
声が、感情を帯びる。
「我々も、共に戦えば――」
「ならん」
言葉は短く、鋭かった。

「この空で、貴様らが散っても、勝利はない」
一瞬、通信が途切れたように静かになる。
サーリア9は、続けた。
「この戦争ではな……優秀なものが、死にすぎた」
彼の脳裏に、名前が浮かぶ。
顔が浮かぶ。
帰らなかった搭乗員たちの声が、断片的によみがえる。
「隕石と戦えば、十中八九、撃墜されて死ぬ」
事実だった。
あの存在は、すでに戦術の枠を超えている。
「そんな運命よりもだ」
サーリア9は、わずかに息を吸った。
「明日の祖国を、頼む」
「……そんな……」
サーリア7の声が、震えた。
「サーリア7」

サーリア9は、彼の名を呼んだ。
「貴様の座席下に、紙を挟んである」
「え……?」
「私の両親の住所だ」
一瞬、言葉を失う気配が伝わってくる。
「戦争が終わったあと、訪ねてくれ」
サーリア9の声は、不思議なほど穏やかだった。
「私のことを……伝えてくれ」
通信の向こうで、息を呑む音がした。
「もはや、守るべきものはな」
サーリア9は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「腐った政治でも、傷を負った大地でもない」
「守るべきもの……それは未来だ」
それは、命令ではなかった。
遺言に近いものだった。
「あとは、任せた」
長い沈黙。
「……了解」
サーリア7の声は、泣いていなかった。
だが、確実に何かを失った響きだった。
その瞬間、サーリア9は機体を反転させた。
「少佐、待ってください!」
呼び止める声。

「通信システムを、シャットダウンする」
サーリア9は、淡々と告げた。
「レギンレイヴ――」
一拍。
「ブレイク」

散開。
そして、解散。
部隊としてのレギンレイヴは、ここで終わった。
四機の反応が、レーダーから離れていく。
それぞれが、祖国へ向かって飛び去っていく。
残るのは、一機。
サーリア9の機体だけだった。
通信を切ったコックピットは、異様なほど静かだった。
エンジン音だけが、現実を繋ぎとめている。
(……これでいい)
彼は、自分に言い聞かせるように思った。
自分が死ねば、彼らは生きる。
彼らが生きれば、国は続く。
それで十分だ。
前方に、敵影が見える。
あの隕石。
戦争の象徴となり、
恐怖となり、
そして希望と呼ばれている存在。
サーリア9は、操縦桿を握り直した。
(来い)
これは、命令でも作戦でもない。
ただ一人の人間が、
未来のために選んだ、最後の戦いだった。
空は、静かだった
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