装甲航空母艦信濃      南東の海へといざ参らん

みにみ

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第二次マーシャル沖海戦

紫電舞う

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1944年10月15日
トラック泊地の朝はいつも通りの静寂に包まれていたが
信濃の艦橋には緊迫感が漂っていた
米軍がマーシャル沖海戦の損傷から復旧した
空母ホーネットII、プリンストン、新造エセックス級フランクリンを中心とする任務部隊
――正規空母3隻、軽空母4隻、戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦18隻の強大な艦隊で
クェゼリンとエニウェトクへの空襲を開始したとの報が入った
阿部俊雄大佐は信濃の艦橋で、海図を睨みながら副長の山田義雄中佐に指示を出した。

「山田、米軍の艦隊は予想以上の規模だ
 さすがは米軍 艦隊の修理は早いな
 この調子だと沈めた艦の分も一瞬で巻き返されそうだ
 トラックが次の標的になるだろう 索敵を怠るな
 敵部隊がこちらに向かうようであれば迎え撃とう」

この日、阿部は内地で訓練を積み
新たにトラックに進出した紫電改運用部隊三四二空の隊長
佐々木健次少佐と面会した。佐々木は精悍な顔立ちで
紫電改をあしらった刺繍を纏った飛行服には自信がみなぎっていた
阿部は佐々木に握手を求め、激励した。

「佐々木少佐、紫電改は皇国の希望だ
 敵機を凌駕しろ。トラックの命運はお前たちにかかっている。」

佐々木は敬礼し、力強く答えた。

「はっ 必ず米軍を叩きましょう!
 三四二空の紫電改、F6Fを食ってみせます!」

しかし、阿部の胸には不安がよぎった
紫電改の性能は確かにF6Fにも勝るとも劣らない
しかしこちらは圧倒的に数が足りなかった

同時期、ブルネイ泊地から本土で修繕工事を行なった連合艦隊がトラックへ進出を開始
10月18日現在 トラック泊地に停泊中の艦隊は以下の通り

戦艦    大和、武蔵、長門、扶桑、山城
航空戦艦  伊勢、日向
航空母艦  翔鶴、瑞鶴、大鳳、信濃、隼鷹、飛鷹、瑞鳳、龍鳳
重巡洋艦  高雄、愛宕、摩耶(防空巡)、鳥海、妙高、羽黒
      最上(航空巡)、鈴谷、熊野、利根、筑摩
軽巡洋艦  矢矧、能代、多摩、五十鈴、大淀
一等駆逐艦 島風、早霜、、長波、浜波、藤波、浦風、磯風、雪風、白露
      時雨、山雲、満潮、朝雲、初月、若月、秋月、霜月
二等駆逐艦 槇、杉、桐、桑

トラック泊地の埠頭は、連合艦隊の到着で活気づいた
信濃の飛行甲板では、零戦30機、彗星一二型甲28機、天山8機が整備され
各艦には燃料と弾薬の搭載が急ピッチで進められた。阿部は艦橋で、山田に命じた。

「全艦に通達。米軍の空襲に備え、防空態勢を強化しろ
 対空警戒を常時厳として怠るな」


10月19日、午前6時。トラック泊地上空に
米軍の攻撃機のエンジン音が轟いた
F6Fヘルキャット200機、SB2Cヘルダイバー100機、TBFアベンジャー50機
――計350機の大編隊が、トラックの艦隊と基地を壊滅させるべく殺到した
泊地から100キロ地点で大和の21号対空電探が敵機を探知し、艦橋から警報が鳴り響いた。

「敵機、方位270度、距離98000!高度2400 接近中!」

阿部は信濃の艦橋で、即座に防空態勢を指示した。

「全艦総員戦闘配置 基地航空隊は直ちに発進
 敵部隊を艦隊に届けるな 全機叩き落とせ」

搭乗員達が次々と宿舎から飛び出して
乗機でなくとも手短な機体に飛び乗る
その機体は歴戦の整備員達によってすでに暖機運転が始まっている

「全機 取り敢えず上がることだけ考えろ
 あがれ あがれ あがれ あがれ!」

基地航空隊の紫電改40機、紫電23機、零戦30機が滑走路から次々と離陸していく
紫電改の隊長、佐々木健次少佐が無線で号令をかけた。

「三四二空私に続け この南洋の空に三四ニ空の翼を示せ!」

トラック泊地の空は、一瞬にして戦場と化した。


三四二空の紫電改20機は、佐々木少佐の指揮の下
雲を突き抜けて米軍のF6Fヘルキャット編隊に突進した
紫電改の600km/hに迫る速力と20ミリ機関砲4門の火力は
F6Fと同等の性能を誇った。佐々木は先頭機でF6Fの隊列に切り込み、無線で指示を出した。

「隊形を崩すな!一撃離脱でF6Fを仕留めろ!
 絶対に巴戦だけはするんじゃないぞ 集られておしまいだ!」

佐々木の紫電改がF6F1機に照準を合わせ、20ミリ機関砲を単射
見事に命中した3発の弾丸でF6Fの右翼が吹き飛び、黒煙を上げながら海面に墜落した
しかしその墜落までもを見る暇もなく佐々木機は
運動エネルギーを位置エネルギーに変換して上昇していく

全てが刹那で終わる空戦 敵機のとどめまで見る時間はないのだ
紫電改の編隊は旋回性能を活かし、F6Fの追尾を振り切りながら
異動した林勇二飛曹も紫電改に搭乗し、佐々木の右翼で戦闘に参加
林はF6Fの背後に回り込み、短い射撃でエンジンを撃ち抜いた。

「やった!1機撃墜!」

そう喜んだ瞬間、機体にガンガンガンと衝撃が走り
後ろを振り向くとF6Fに後方300mに憑かれていて
主翼の根元が12.7㎜弾の発砲炎で橙色に染まっている
それをみた瞬間戦闘機乗りの性か反射的に操縦桿を引いて旋回しようとするが思いとどまる

(ラバウルの坂井先輩の技 試してみるか)

操縦桿を引いた後即座にフットペダルを踏み込んでそこから操縦桿を一気に押し込む
こうすることで敵からは機体がまっすぐに飛んでいるように見えるが
実は横に滑っており敵の弾は絶対に当たらない
零戦での得意技だがこの機体でも生きたようだ

「林見事だ 次にかかれ」

しかし、米軍のF6F200機の数は圧倒的だった
F6Fの編隊は紫電改を包囲し、12.7ミリ機銃を乱射
紫電改3機が被弾し、炎を上げて墜落した。佐々木は無線で叫んだ。

「隊列を維持!ヘルダイバーを叩け!空母を狙うんだ!」

F6Fを切り抜けた紫電改10機がSB2Cヘルダイバーの編隊に突入。
林はヘルダイバーの尾部に照準を合わせ、20ミリ機関砲で胴体を粉砕
ヘルダイバー2機が爆発し、海面に落下した
紫電改の攻撃は鮮烈だったが、F6Fの反撃も苛烈だった
紫電20機と零戦30機もF6Fと交戦し、零戦5機が被弾墜落。
かなりの消耗を受けてしまった


トラック泊地上空では、連合艦隊の対空砲火が火を噴いた。
大和と武蔵の12.7センチ高角砲、信濃の25ミリ対空機銃
摩耶の防空巡洋艦としての集中砲火が、SB2CとTBFアベンジャーを迎え撃った
大和の艦橋で、森下艦長が叫んだ。

「全砲門開け!敵機を近づけるな!」

SB2C10機が大和に急降下爆撃を仕掛けたが
対空砲火で5機が撃墜。残る5機の爆弾は森下少将の見事な転舵で海面に落下した


午前8時  空戦はさらに激化した
第二次空襲では米軍のTBFアベンジャー50機が
瑞鶴と翔鶴に魚雷攻撃を仕掛けた。瑞鶴の舷側に魚雷1発が命中し
浸水で機関部が一区画使えなくなるもすぐに復旧
翔鶴は島風と時雨の対空砲火で魚雷を回避したが
SB2Cの資金弾で甲板に軽微な損傷を受けた
阿部は信濃の艦橋で、瑞鶴の危機を無線で把握。

「瑞鶴、応急修理を急げ!信濃と紫電改でカバーする!」

佐々木は紫電改10機を率い、TBFアベンジャーを追撃
アベンジャー5機を撃墜したが、反転してきたF6Fの集中攻撃で紫電改3機が墜落
佐々木の機体も尾翼に被弾し、操縦が不安定になった。無線で佐々木が叫んだ。

「林、隊を率いて基地に帰れ!俺は…最後まで戦う!」

「隊長!?」

「燃料タンクに被弾した 元の航続距離が短いこいつ紫電改じゃ帰れねぇ」

「そんな…」

「てなわけで頼んだ 地獄で待ってるぜ」

佐々木の紫電改は誉エンジンにWEPをかけて
F6F3機に囲まれている味方機に向かう

「その機体置いてけやァ!」
20ミリ機関砲を撃ちながら突進した紫電改は瞬く間に一機を撃墜

「大尉!左上方に敵機だ!」

「何っ!?」
もう一機が後方を見た時にはもう遅かった
燃料を吐きながら弾の切れた佐々木機が距離20mまで迫っていたのだから

「落ちろぉぉぉおおおお」

「Nooooooooo!!!」

衝突で空中に火球が広がり
一瞬で消え去った

「佐々木少佐!くそっ、絶対に仇を取る!」

林は被弾した紫電改を操り、トラック基地に強行着陸。
滑走路で機体が停止し、整備員が駆け寄った
林はコックピットから降り、佐々木の犠牲に拳を握り締めた

基地航空隊の司令佐藤中佐が林に話しかける

「林、よく帰った。佐々木少佐の意志はお前が継ぐ
 まだ戦いは終わっていないのだから」

林は涙を拭い、敬礼した。

「了解!俺は負けません!」

戦闘の終結と戦果

午前10時、米軍の第二次攻撃隊はトラック泊地への攻撃を終え、撤退を開始
紫電改、紫電、零戦の迎撃と連合艦隊の対空砲火で
F6F15機、SB2C10機、TBF9機を撃墜
日本側は紫電改10機、紫電5機、零戦8機を喪失し瑞鶴が小破
阿部は信濃の艦橋で戦果を総括した。

「紫電改は期待以上だった。だが、米軍の物量は侮れん
 トラックの防衛を固めつつ こちらも打って出る 艦隊全艦に下令
 1200時艦隊出動 敵艦隊を邀撃せんとす」

トラック泊地の空は、再び静寂を取り戻した。佐々木少佐の犠牲は重く
林の胸に深い傷を残したが、紫電改の初陣は希望の光でもあった
阿部は艦橋で、藤田健太郎少佐と佐々木の笑顔を思い出した。

「藤田、佐々木、俺は彼らを守る。トラックで米軍を食い止める。」

第二次マーシャル沖海戦の初戦は終わったが
クェゼリンとエニウェトクの戦いは続く。阿部の目は、次なる決戦を見据えていた。
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