If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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邀撃 比島方面迎撃戦

武蔵咆哮

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午前10時25分。青いシブヤン海の静寂が
突如、炸裂した46センチ主砲の轟音によって引き裂かれた。
戦艦「武蔵」が、三式弾の初弾を放ったのだ。
それは、シブヤン海海戦の幕開けを告げる、帝國海軍の最後の超弩級戦艦の雄叫びだった。


武蔵の主砲が放つ三式弾は、上空遥か高くで炸裂し
火炎と無数の焼夷弾子を撒き散らす。その射程は圧倒的で
遠方から接近する米艦載機群にとって、それは予期せぬ、そして恐るべき歓迎となった。
艦全体が振動し、砲煙が視界を遮る。

「…全砲、斉射!対空戦闘、開始!」

猪口敏平艦長の指示が、艦橋から各砲塔へと響き渡る。
主砲に加えて、15.5センチ三連装副砲
そして無数の12.7センチ連装高角砲が一斉に火を噴き始めた。
甲板上の25ミリ三連装機銃は、弾幕を形成し、空を埋め尽くす。
金属が弾ける甲高い音と、爆発の轟音が入り混じり、武蔵の周囲は一瞬にして地獄絵図と化した。

米空母「フランクリン」所属のヘルダイバーパイロットたちは、その巨大な艦容に言葉を失った。

「…計り知れないほど巨大で信じられない…」
「…巨大だ…!まるで島だ…」
「…私は人生でこれほど大きな物を見た事が無かった…」

彼らの無線から漏れる驚愕の声は、武蔵がビッグ・モンスターとして
アメリカ兵の脳裏に焼き付いた証左であった。
彼らにとって、この日本の超弩級戦艦は
現実離れした存在であり、恐怖の対象であった。


午前10時29分。最初の波が武蔵を襲った。
8機のヘルダイバーが、急降下爆撃隊形を組み、武蔵に突撃する。
敵機は、驚くべき練度で縦一列になって突撃し、回避運動を行う暇もなく、爆弾を投下した。
まるで海戦初期の二航戦の急降下爆撃隊だ

轟音と共に、艦首と船体中央部付近に、4発の至近弾が炸裂する。
周囲に巨大な水柱が築かれ、その水柱は一瞬にして滝となって
甲板上へと崩れ落ち、視界と聴覚を奪った。
艦体は激しく揺さぶられ、乗員たちは耐えるのに必死だった。

敵機が内懐に飛び込んでくると、46センチ主砲は、奇策とも言える行動に出た。
三式弾ではなく、一式徹甲弾を水中に向けて放ったのだ。
着水後の水流衝撃波を利用し、物理的な水柱を築き、敵機を撃墜しようという試みだった。
アベンジャー艦攻パイロットのジャック・ロートンは後にこう語っていた
「これら水柱に1つでもぶつかると、山にぶつかったようになる」と証言しており
この対空射撃は、心理的にも物理的にも、敵機に対して効果的だったと思われる。
しかし、乗員が甲板にいる状態で主砲を発射したため
近くにいた機銃員は視覚と聴覚を同時に奪われ、一時的に戦闘不能に陥った。

無数の機銃弾が武蔵の厚い装甲に当たって火花を散らし
飛び散る破片と硝煙が機銃員の視界を奪う。そこへ爆弾の破片が飛び散り、数名が負傷。

そして、一つの1000ポンド爆弾が、1番砲塔の天蓋に直撃した。

「ドオォン!」という凄まじい衝撃音。
しかし、爆発音は、直撃時よりも遅れて響いた。

「…え、嘘だろ…」

至近で見ていた乗員は、思わず呆然とした声を上げた。
主砲天蓋の270ミリVH装甲が、直撃した1000ポンド爆弾を弾き返したのだ。
爆弾は装甲を貫通することなく跳ね返され、空中で炸裂した。
武蔵の防御力は、敵味方双方に、圧倒的な驚愕を与えた。

この第一次空襲で、武蔵は、2機の敵機に損傷を与え、いったん撃退する。


しかし、息つく暇はなかった。間髪入れずに、8機のヘルキャット戦闘機が突撃し
猛烈な機銃掃射で対空機銃員を殺傷していく。
防盾や遮蔽物の類が不十分な機銃座は、敵機の掃射にとって格好の標的であり
次々に物言わぬ肉塊へと変えられていった。

そして、右方向よりアベンジャーの編隊が急速に接近。
彼らは、魚雷攻撃の態勢に入った。武蔵の巨体が、必死に右へ回頭を始める。
対空砲火が、猛烈な弾幕を形成し、2機のアベンジャーを貫き、空中分解させながら海中に突っ込ませた。

だが、回避し切れなかった。右舷中央部に、魚雷1本が命中した。

「ドオォーン!」

鈍く、重い音とともに、艦が左右に激しく揺れた。
乗員が床に叩きつけられる。
武蔵は、わずかに傾斜するが、迅速な応急注水によって復元に成功した。

「…総員、注水急げ!被害を最小限に抑えろ!」

怪物は、何事もなかったかのように戦闘を続ける。
しかし、被雷の衝撃は、致命的な損傷をもたらしていた。
艦橋頂部の主砲方位盤が故障し、主砲の一斉射が不可能になってしまったのだ。
これは、武蔵の火力制御に深刻な影響を及ぼす。

別のアベンジャーが、右舷側からの雷撃を試みたが
日本の駆逐艦群と武蔵の激しい対空砲火によって失敗に追いやられた。


午前10時40分。第一次空襲は終了した。
敵機は、武蔵に大きな損害を与えながらも
その巨大な目標を撃沈するには至らなかった。
彼らは、武蔵の圧倒的な装甲防御と
日本の将兵たちの必死の抵抗に、驚きと畏敬の念を抱いた。

武蔵の被害は、多岐にわたった。

第12区画と第14区画への浸水。

魚雷の衝撃による射撃指揮装置の故障。

電探の運用が不可能となり、索敵能力が低下。

栗田艦隊は、最初の空襲で、予想以上の猛攻に晒された。
これは、日本の航空支援が全く機能していないことを如実に示していた。

その僅か7分後、武蔵の見張り員が、潜水艦の潜望鏡を発見したと報告。
大和、鳥海、能代、岸波も同様に報告し、魚雷攻撃の脅威が、艦隊を追いかける。

武蔵の巨体は、わずかな傷を負いながらも、シブヤン海の波を切り裂き続ける。
しかし、この第一次空襲は、これから始まる地獄の序章に過ぎなかった。
米軍は、この一撃で武蔵を沈めることはできなかったが
彼らは、その目標を明確に捉えた。
そして、彼らは、決して手を緩めないだろう。
武蔵という名の海の魔物は、今、シブヤン海で、孤独な戦いを強いられることになる。
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