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岐路
咆哮と静寂
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昭和十五年の終わりが近づくにつれて
日本の取るべき進路を巡る議論は、日に日に熱を帯び
その様相は剣呑さを増していった。中でも、国家の命運を左右する
最高意思決定の場の一つである大本営政府連絡会議
あるいはそれに類する軍と政府の合同会議は、緊迫した空気に満ちていた
この日の会議も例外ではなかった。首相官邸の重厚な扉の奥にある大会議室は
厚手のカーテンが光を遮り、シャンデリアの鈍い光だけが
集まった陸海軍の首脳部、内閣の閣僚たちの顔を照らしていた
部屋の空気は湿気を帯び、出席者たちの抑えきれない熱気と
あるいは不安からくる汗の匂いが混じり合っていた
誰もがこの会議で下されるであろう決定の重大さを理解しており
張り詰めた沈黙が支配する中にも、これから始まるであろう激論の予感が満ちていた。
会議が始まると、議事進行役が形式的な開会の辞を述べた後
議題はすぐに本質へと移った。すなわち
南方の石油や資源を確保するために武力を行使すべきか否か
そしてその場合、アメリカ、イギリス、オランダといった西欧列強と
どのように向き合うべきかという問題である
既に結論は出ているかのような雰囲気すら漂っていた
南進論は、資源枯渇という日本の喫緊の課題に対する唯一の解決策として
軍部内で圧倒的な支持を得ていた。しかし
問題は、その過程でアメリカとの戦争が不可避であるという事実
そしてその戦争に勝てる見込みがあるのか、ということであった。
口火を切ったのは、陸軍を代表する強硬派の一人
富永恭二少将だった。彼は航空本部長という要職にあったが
その発言は単なる航空戦略に留まらず
常に積極的な攻勢と精神論を強調するものであった
その日に至るまで、彼は様々な会議で「戦機はまさに至れり」
「今を措いて他に好機はない」と繰り返してきた。
彼は席から立ち上がると、部屋の中央に置かれた大きな地図を指さし
感情を高ぶらせながら語り始めた。
「現在の帝国を取り巻く情勢は、誠に重大なる局面を迎えております!
米、英、蘭、蒋による非道な経済封鎖は
帝国の生存権そのものを脅かすものであります。
我々は、ただ手を拱いて餓死を待つわけにはいかない!
南方には、帝国の生存に必要な全ての資源が眠っております。
石油、ゴム、錫…これらを確保せずして、大東亜の共栄などあり得ない!
そして、これらの資源は、残念ながら西欧列強の鉄の手に握られている!」
富永少将の声は次第に大きくなり、部屋中に響き渡った。
彼の目は爛々と輝き、まるで自らが
既に戦場の最前線に立っているかのような熱気を帯びていた。
「一部には、対米開戦の危険性を指摘する声もあります。
しかし、御英霊に対し、そして一億の国民に対し、私は断言する!
今こそ、帝国が立ち上がる時である! 米英は欧州での戦いに手一杯であり
極東に十分な兵力を割く余裕はない。この隙に乗じ、一挙に南方を制圧し
鉄壁の資源圏を確立するのだ! そして、もしアメリカが帝国に弓引くというのならば――」
ここで富永少将は言葉を区切り、出席者たちの顔を一人一人見回した。
その眼光は鋭く、反対意見を封じ込めるかのような威圧感を放っていた。
「――断固としてこれを叩く! ハワイの米太平洋艦隊を奇襲し、
その主力を壊滅させる! これぞまさに『一撃講和』の機であり、
短期のうちにアメリカの戦意を喪失させ、帝国に有利な条件で
講和を結ぶ唯一の道である! 機は熟した! もはや議論の段階ではない!
我々は既に開戦という名の『バス』に乗り込み、走り出しているのだ!」
「バスは出た」「一撃講和」。これらの言葉は、
強硬派の間で共有されるスローガンであり、論理的な詰めの甘さを、
勢いと精神論で覆い隠すかのような響きを持っていた。
彼らは、奇襲によって得られる短期的な勝利の果実のみを見ており、
その後の長期にわたる泥沼の可能性、アメリカという国家の
底知れぬ生産力と継戦能力を、意図的にか、あるいは無能力ゆえにか
見ようとしなかった。彼らにとって、国力や兵站といった冷徹な現実は
日本の「国体」や「大和魂」といった精神的な力の前には
些細な問題に過ぎなかった。あるいは、短期決戦で勝てなければ
日本の未来はないという、ある種の破滅的な思想が根底にあったのかもしれない
富永少将の演説が終わると、会議室のあちこちから同意を示す頷きや
控えめながらも賛同の意を表す声が上がった。場の空気は、一気に開戦へと傾いたように見えた。
会議室の隅の方で、野上誠一郎陸軍省軍務局員は
富永少将の熱弁を聞きながら、内臓を締め付けられるような苦痛を感じていた
彼は四十代前半、無駄のない引き締まった体つきだが
その顔には場違いなほど苦渋の色が浮かんでいた
彼の視線は、富永少将が指差す地図上の広大な太平洋と
その彼方にあるアメリカ大陸に注がれていた。
野上は、日中戦争において大陸の戦場を経験していた
彼は最前線で指揮を執った経験こそないものの
兵站の担当者として、あるいは作戦立案に関わる幕僚として
中国大陸の戦いにおける現実を誰よりも深く理解していた。大陸は広大だった
鉄道は少なく、道路は未整備。部隊を移動させるにも
物資を補給するにも、途方もない時間と労力がかかった
雨季になれば道は泥濘と化し、疫病が兵士を襲った
前線では常に弾薬と食料が不足し、兵士たちは飢えと疲労に苦しんでいた
局地的な勝利を収めても、広大な中国から
蒋介石政権を完全に駆逐することはできず
占領地の維持には絶えず兵力を張り付けなければならなかった
それは、まるで底なし沼に砂を投入し続けるかのような、終わりなき消耗戦だった。
「兵站が全てだ…」
野上は心の中で呟いた。戦争は精神力だけでは勝てない。
兵士が腹を空かせ、弾薬が尽きれば、
いかに勇猛であっても戦うことはできないのだ。
中国大陸ですらあれほどの苦労だったのだ。
これから戦おうとしている相手は、
アメリカ、イギリス、オランダといった、グローバルな補給網を持ち
工業力に裏打ちされた物量を誇る国家である。
富永少将の言う「南方資源地帯の確保」は
確かに日本の喫緊の課題を解決する魅力的な響きを持っていた
しかし、野上は地図を見て、その広大さに愕然としていた
フィリピン、マレー半島、蘭印、ニューギニア…これらを占領し
さらにそれを維持するためには、どれだけの兵力が必要になるのか?
どれだけの輸送船が必要になるのか? そして、アメリカとの戦争になれば、
その輸送船は常に敵の潜水艦や航空機の脅威に晒されることになる。
中国大陸での補給の困難さなど、可愛いものに思えるほど
太平洋という広大な舞台での兵站は絶望的な困難を伴うだろう。
さらに、富永少将が軽視するアメリカの工業力と継戦能力。
野上は高倉義人が作成したであろう、アメリカの生産能力に関する報告書の
内容を思い浮かべていた。桁違いの数字。
もしアメリカが本格的に戦争体制に入れば、
日本の生産能力など子供のおもちゃのように見えるだろう。
短期決戦でアメリカの戦意を挫く? そんなことが本当に可能なのか?
アメリカという国家の持つ回復力、そして国民の団結力が
真珠湾の攻撃ごときで瓦解するなど、野上にはとても信じられなかった。
野上は、会議の議長を務める人物(首相や陸軍大臣)に視線を向けた。
発言の機会は与えられるだろうか?
彼は、自分が持つ兵站の現実、大陸での経験から来る戦争の非情さ
そしてアメリカの国力を数字で示すことによって
この場の熱狂を少しでも冷ますことができるのではないかと考えた
彼は椅子に座ったまま、無意識のうちに拳を握りしめた
言わなければならない。このままでは
日本は取り返しのつかない過ちを犯すことになる。
しかし、場の空気は野上の勇気をくじいた。
富永少将に続いて発言した別の将官も、同様に威勢の良い言葉で
南進論と対米早期開戦論を主張した。彼らはまるで
目の前の危機を直視せず、勇気と精神力さえあれば全て解決できるという
ファンタジーの世界に生きているかのようだった。
彼らの言葉には、具体的な数字に基づいた戦略も
長期的な展望も欠けていた。あるのは、感情と願望だけだった。
野上は、発言を求めて手を挙げようかと思ったが、躊躇した。
もしここで自分が発言すれば、場の勢いを止めるどころか、
かえって「弱腰」「非国民的」といった非難を浴びせられるだけではないか?
自分の意見は、この熱狂の中では泡のように消えてしまうのではないか?
過去にも、同様の懸念を示した者が、非主流派として冷遇されるのを見てきた。
組織の中で生きていくためには、場の空気を読むことも重要だ。
しかし、いま目の前で決められようとしていることは、
野上にとって、あまりにも重大すぎた。
彼はもう一度、議長を見た。議長は、強硬派の発言に対し、
時折頷きながら聞いている。他の閣僚たちも、
軍の意見に異を唱えることに及び腰であるように見えた。
この会議で、合理的な議論がなされる余地は、
極めて限られているのかもしれない。野上の心に、
無力感の波が押し寄せた。自分がここで何を言っても、
この決定的な流れを変えることはできないのかもしれない。
「…兵站が、決定的に足りないんだ…」
再び、誰にも聞こえない声で、彼は呟いた。
その声は、会議室の熱気にかき消され、音もなく消えた。
広大な太平洋の彼方で、日本の進むべき針路が、熱狂と楽観論
そして現実からの逃避によって、誤った方向へと向けられようとしていた。
野上誠一郎は、その光景をただ見ていることしかできなかった。
彼の苦渋の表情は、日本の未来に垂れ込める暗雲をそのまま映し出しているかのようだった。
日本の取るべき進路を巡る議論は、日に日に熱を帯び
その様相は剣呑さを増していった。中でも、国家の命運を左右する
最高意思決定の場の一つである大本営政府連絡会議
あるいはそれに類する軍と政府の合同会議は、緊迫した空気に満ちていた
この日の会議も例外ではなかった。首相官邸の重厚な扉の奥にある大会議室は
厚手のカーテンが光を遮り、シャンデリアの鈍い光だけが
集まった陸海軍の首脳部、内閣の閣僚たちの顔を照らしていた
部屋の空気は湿気を帯び、出席者たちの抑えきれない熱気と
あるいは不安からくる汗の匂いが混じり合っていた
誰もがこの会議で下されるであろう決定の重大さを理解しており
張り詰めた沈黙が支配する中にも、これから始まるであろう激論の予感が満ちていた。
会議が始まると、議事進行役が形式的な開会の辞を述べた後
議題はすぐに本質へと移った。すなわち
南方の石油や資源を確保するために武力を行使すべきか否か
そしてその場合、アメリカ、イギリス、オランダといった西欧列強と
どのように向き合うべきかという問題である
既に結論は出ているかのような雰囲気すら漂っていた
南進論は、資源枯渇という日本の喫緊の課題に対する唯一の解決策として
軍部内で圧倒的な支持を得ていた。しかし
問題は、その過程でアメリカとの戦争が不可避であるという事実
そしてその戦争に勝てる見込みがあるのか、ということであった。
口火を切ったのは、陸軍を代表する強硬派の一人
富永恭二少将だった。彼は航空本部長という要職にあったが
その発言は単なる航空戦略に留まらず
常に積極的な攻勢と精神論を強調するものであった
その日に至るまで、彼は様々な会議で「戦機はまさに至れり」
「今を措いて他に好機はない」と繰り返してきた。
彼は席から立ち上がると、部屋の中央に置かれた大きな地図を指さし
感情を高ぶらせながら語り始めた。
「現在の帝国を取り巻く情勢は、誠に重大なる局面を迎えております!
米、英、蘭、蒋による非道な経済封鎖は
帝国の生存権そのものを脅かすものであります。
我々は、ただ手を拱いて餓死を待つわけにはいかない!
南方には、帝国の生存に必要な全ての資源が眠っております。
石油、ゴム、錫…これらを確保せずして、大東亜の共栄などあり得ない!
そして、これらの資源は、残念ながら西欧列強の鉄の手に握られている!」
富永少将の声は次第に大きくなり、部屋中に響き渡った。
彼の目は爛々と輝き、まるで自らが
既に戦場の最前線に立っているかのような熱気を帯びていた。
「一部には、対米開戦の危険性を指摘する声もあります。
しかし、御英霊に対し、そして一億の国民に対し、私は断言する!
今こそ、帝国が立ち上がる時である! 米英は欧州での戦いに手一杯であり
極東に十分な兵力を割く余裕はない。この隙に乗じ、一挙に南方を制圧し
鉄壁の資源圏を確立するのだ! そして、もしアメリカが帝国に弓引くというのならば――」
ここで富永少将は言葉を区切り、出席者たちの顔を一人一人見回した。
その眼光は鋭く、反対意見を封じ込めるかのような威圧感を放っていた。
「――断固としてこれを叩く! ハワイの米太平洋艦隊を奇襲し、
その主力を壊滅させる! これぞまさに『一撃講和』の機であり、
短期のうちにアメリカの戦意を喪失させ、帝国に有利な条件で
講和を結ぶ唯一の道である! 機は熟した! もはや議論の段階ではない!
我々は既に開戦という名の『バス』に乗り込み、走り出しているのだ!」
「バスは出た」「一撃講和」。これらの言葉は、
強硬派の間で共有されるスローガンであり、論理的な詰めの甘さを、
勢いと精神論で覆い隠すかのような響きを持っていた。
彼らは、奇襲によって得られる短期的な勝利の果実のみを見ており、
その後の長期にわたる泥沼の可能性、アメリカという国家の
底知れぬ生産力と継戦能力を、意図的にか、あるいは無能力ゆえにか
見ようとしなかった。彼らにとって、国力や兵站といった冷徹な現実は
日本の「国体」や「大和魂」といった精神的な力の前には
些細な問題に過ぎなかった。あるいは、短期決戦で勝てなければ
日本の未来はないという、ある種の破滅的な思想が根底にあったのかもしれない
富永少将の演説が終わると、会議室のあちこちから同意を示す頷きや
控えめながらも賛同の意を表す声が上がった。場の空気は、一気に開戦へと傾いたように見えた。
会議室の隅の方で、野上誠一郎陸軍省軍務局員は
富永少将の熱弁を聞きながら、内臓を締め付けられるような苦痛を感じていた
彼は四十代前半、無駄のない引き締まった体つきだが
その顔には場違いなほど苦渋の色が浮かんでいた
彼の視線は、富永少将が指差す地図上の広大な太平洋と
その彼方にあるアメリカ大陸に注がれていた。
野上は、日中戦争において大陸の戦場を経験していた
彼は最前線で指揮を執った経験こそないものの
兵站の担当者として、あるいは作戦立案に関わる幕僚として
中国大陸の戦いにおける現実を誰よりも深く理解していた。大陸は広大だった
鉄道は少なく、道路は未整備。部隊を移動させるにも
物資を補給するにも、途方もない時間と労力がかかった
雨季になれば道は泥濘と化し、疫病が兵士を襲った
前線では常に弾薬と食料が不足し、兵士たちは飢えと疲労に苦しんでいた
局地的な勝利を収めても、広大な中国から
蒋介石政権を完全に駆逐することはできず
占領地の維持には絶えず兵力を張り付けなければならなかった
それは、まるで底なし沼に砂を投入し続けるかのような、終わりなき消耗戦だった。
「兵站が全てだ…」
野上は心の中で呟いた。戦争は精神力だけでは勝てない。
兵士が腹を空かせ、弾薬が尽きれば、
いかに勇猛であっても戦うことはできないのだ。
中国大陸ですらあれほどの苦労だったのだ。
これから戦おうとしている相手は、
アメリカ、イギリス、オランダといった、グローバルな補給網を持ち
工業力に裏打ちされた物量を誇る国家である。
富永少将の言う「南方資源地帯の確保」は
確かに日本の喫緊の課題を解決する魅力的な響きを持っていた
しかし、野上は地図を見て、その広大さに愕然としていた
フィリピン、マレー半島、蘭印、ニューギニア…これらを占領し
さらにそれを維持するためには、どれだけの兵力が必要になるのか?
どれだけの輸送船が必要になるのか? そして、アメリカとの戦争になれば、
その輸送船は常に敵の潜水艦や航空機の脅威に晒されることになる。
中国大陸での補給の困難さなど、可愛いものに思えるほど
太平洋という広大な舞台での兵站は絶望的な困難を伴うだろう。
さらに、富永少将が軽視するアメリカの工業力と継戦能力。
野上は高倉義人が作成したであろう、アメリカの生産能力に関する報告書の
内容を思い浮かべていた。桁違いの数字。
もしアメリカが本格的に戦争体制に入れば、
日本の生産能力など子供のおもちゃのように見えるだろう。
短期決戦でアメリカの戦意を挫く? そんなことが本当に可能なのか?
アメリカという国家の持つ回復力、そして国民の団結力が
真珠湾の攻撃ごときで瓦解するなど、野上にはとても信じられなかった。
野上は、会議の議長を務める人物(首相や陸軍大臣)に視線を向けた。
発言の機会は与えられるだろうか?
彼は、自分が持つ兵站の現実、大陸での経験から来る戦争の非情さ
そしてアメリカの国力を数字で示すことによって
この場の熱狂を少しでも冷ますことができるのではないかと考えた
彼は椅子に座ったまま、無意識のうちに拳を握りしめた
言わなければならない。このままでは
日本は取り返しのつかない過ちを犯すことになる。
しかし、場の空気は野上の勇気をくじいた。
富永少将に続いて発言した別の将官も、同様に威勢の良い言葉で
南進論と対米早期開戦論を主張した。彼らはまるで
目の前の危機を直視せず、勇気と精神力さえあれば全て解決できるという
ファンタジーの世界に生きているかのようだった。
彼らの言葉には、具体的な数字に基づいた戦略も
長期的な展望も欠けていた。あるのは、感情と願望だけだった。
野上は、発言を求めて手を挙げようかと思ったが、躊躇した。
もしここで自分が発言すれば、場の勢いを止めるどころか、
かえって「弱腰」「非国民的」といった非難を浴びせられるだけではないか?
自分の意見は、この熱狂の中では泡のように消えてしまうのではないか?
過去にも、同様の懸念を示した者が、非主流派として冷遇されるのを見てきた。
組織の中で生きていくためには、場の空気を読むことも重要だ。
しかし、いま目の前で決められようとしていることは、
野上にとって、あまりにも重大すぎた。
彼はもう一度、議長を見た。議長は、強硬派の発言に対し、
時折頷きながら聞いている。他の閣僚たちも、
軍の意見に異を唱えることに及び腰であるように見えた。
この会議で、合理的な議論がなされる余地は、
極めて限られているのかもしれない。野上の心に、
無力感の波が押し寄せた。自分がここで何を言っても、
この決定的な流れを変えることはできないのかもしれない。
「…兵站が、決定的に足りないんだ…」
再び、誰にも聞こえない声で、彼は呟いた。
その声は、会議室の熱気にかき消され、音もなく消えた。
広大な太平洋の彼方で、日本の進むべき針路が、熱狂と楽観論
そして現実からの逃避によって、誤った方向へと向けられようとしていた。
野上誠一郎は、その光景をただ見ていることしかできなかった。
彼の苦渋の表情は、日本の未来に垂れ込める暗雲をそのまま映し出しているかのようだった。
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