If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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来たるべき敵

夜の帷の中

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1944年3月20日午後。九州南方沖の広大な海域で
日米両海軍の命運を賭けた激突が刻一刻と迫っていた。
佐世保を抜錨した古賀峯一中将座乗の
戦艦「武蔵」を旗艦とする日本艦隊は、その巨体を波間に進め
猛牛ハルゼーの囮艦隊であるスプルーアンス艦隊へと迫っていた。


古賀艦隊は、索敵のために零式水上偵察機と
九五式水上偵察機を発艦させていた。
偵察機は、晴れ渡った午後の空を飛び、広大な海域を丹念に捜索した。
やがて、その努力は実を結ぶ。宮崎沖100km地点で
米戦艦部隊、すなわちスプルーアンス艦隊の姿を捉えたのだ。

「敵艦隊、発見!宮崎沖100km!」

無線から飛び込んできた報告は、古賀艦隊の全艦艇に緊張感をもたらした。
計算によれば、日が変わる前までには、両艦隊が接触できる見込みとなった。

一方、スプルーアンス艦隊も、日本の偵察機を警戒していた。
ウェーク島への砲撃後、日本軍が反撃に出てくることは十分に予測していたからだ。
彼らはレーダーによる監視を継続し
さらに数機の水上偵察機を飛ばして警戒網を広げていた。
しかし、日本の偵察機は、米軍の索敵網を巧みにかいくぐり
その姿を捉えることに成功したのだった。


日没が迫り、太平洋の空は茜色から漆黒へと変わっていった。
午後6時。太陽が水平線に沈みきると同時に、日本の基地航空隊が攻撃を開始した。
鹿屋航空隊からは、長大な航続距離を誇る一式陸攻28機が
轟音と共に夜空へと舞い上がった。そのうち数機は
最新鋭の試製三式空六号無線電信機(改良型レーダー)を搭載しており
夜間における索敵と照準の精度向上に期待が寄せられた。
さらに、高速の彗星一二型戊24機も続々と離陸し、敵艦隊へと向かった。

驚くべきことに、古賀艦隊に同行していた航空戦艦「伊勢」と「日向」からも
彗星二二型がそれぞれ16機、計32機が発艦した。
艦載機運用の経験が少ない航空戦艦からの夜間発艦は極めて困難な作業だったが
熟練の搭乗員と整備兵の連携により、全機が無事夜闇へと飛び立った。
彼らは、電探を頼りに、夜闇に紛れて米艦隊へと接近していく。

スプルーアンス艦隊は、日本の夜間航空攻撃に対し、直ちに対空砲火で応戦した。
米軍の艦艇は、日本に比べ精度の高いレーダーを装備しており
夜間でも目標を捕捉する能力は高かった。
駆逐艦や巡洋艦から放たれる高角砲弾が、火花を散らしながら夜空を切り裂く。
自動装填される40mmボフォース機関砲や20mmエリコン機関砲が
曳光弾の光の筋となって、夜闇を照らし出した。

しかし、米軍は夜間戦闘に不慣れな部分があった。
特に、日本軍がこれまで経験してきたような
基地航空隊による大規模な夜間攻撃は想定していなかったのだ。
日本機は、低空を高速で飛行し
米軍のレーダー網の隙間を縫うように接近する。
米軍の対空砲火は激しいものの、経験不足と夜間の視界不良により
その命中精度は限定的だった。

「左舷!雷撃機接近!」

見張りの兵士が叫ぶ。夜闇の中から、日本の航空機が放った魚雷が
白い航跡を描いて艦艇へと迫る。
米艦艇は、必死に回避運動を行うが、既に手遅れの艦もあった。


特に、重巡洋艦「ウィチタ」は
この夜間攻撃で甚大な被害を受けた艦の一つだった。
午後7時45分頃、艦隊の警戒網をすり抜けて接近した一式陸攻の一編隊が
「ウィチタ」に狙いを定めた。レーダー照準器で正確に捉えられた
「ウィチタ」は、その巨体をわずかながら左右に振って回避運動を試みた。

「取舵いっぱい!対空砲火、撃ち続けろ!」

艦橋では、艦長が叫び声を上げる。レーダー員が敵機の接近を告げ
高角砲が轟音を上げて弾幕を張る。しかし、日本機は熟練の操縦で
その弾幕を縫って接近した。
突如、機首が光り、曳光弾がウィチタの艦橋めがけて放たれる。

ドォォォンッ!

その直後、一式陸攻から投下された800kg徹甲爆弾が
「ウィチタ」の艦橋直上の構造物に命中した。装甲を貫通し
内部で炸裂した爆弾は、司令部要員が配置されていた区画に壊滅的な被害をもたらした。

爆発と共に、艦橋は激しい閃光と爆音に包まれた。
衝撃波が内部を駆け抜け、鉄骨がねじ曲がり
計器類が吹き飛ぶ。火災が発生し、煙と塵が視界を遮る。

「艦長!艦長はご無事か!」

副長の声が、混乱の中で響く。しかし、艦橋中央は
爆弾の直撃を受け、見るも無残な状態となっていた。
通信機器は破壊され、操舵装置も一部が機能不停止に陥る。
艦長以下、主要な士官が死傷し、艦橋は完全に圧壊していた。
残された兵士たちは、茫然自失となりながらも
消火活動と負傷者の救助に当たる。その後の戦闘において
「ウィチタ」は事実上、指揮系統を失い、戦闘能力を著しく低下させることとなった。


日本の夜間航空攻撃は、米艦隊に確かなダメージを与えた。

米軍の被害は
駆逐艦数隻が被弾・損傷。特に「マッコード」「ウォーカー」は
機関部に直撃を受け、航行に支障をきたした。

重巡洋艦「ウィチタ」の艦橋が圧壊し
艦長以下多数の幹部が死傷、指揮系統が麻痺する甚大な被害を受けた。

その他、艦艇に軽微な被弾や火災が発生。

米軍は日本に比べ精度の高いレーダーを持っていたが
夜間戦闘の経験不足と、日本機の変則的な攻撃パターンに苦戦した結果だった。


対して日本側は
攻撃機数機が対空砲火で撃墜された。
彗星艦爆は2機、一式陸攻は3機が未帰還となり、28人の搭乗員全員が戦死した。

伊勢型から発艦した彗星は、着艦できないため
そのまま鹿屋基地へと撤退を開始した。
多くの機体が燃料ギリギリでの撤退となった。

午後8時。夜間攻撃は終了し、日本の航空隊は基地へと撤退を開始した。
夜闇の中を、被弾した機体や、燃料の尽きかけた機体が
必死に母基地を目指す。彼らは、わずかな犠牲と引き換えに
米艦隊に貴重なダメージを与え、夜間砲撃戦への布石を打ったのだ。


夜間航空攻撃の後、海域は一時的な静寂に包まれた。
しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
スプルーアンス艦隊は、被弾艦艇の被害状況を評価し
同時に日本の艦隊の接近を警戒していた。
レーダーには、南西から迫る日本の艦影が明確に映し出されている。

スプルーアンスは、旗艦「アイオワ」の艦橋で、冷静に事態を分析していた。
日本の航空攻撃は予想よりも巧妙だった。
しかし、彼の艦隊には、まだ圧倒的な火力が残されている。

一方、古賀艦隊も、夜闇の中、米艦隊との距離を詰めていた。
レーダー員は、敵艦隊の輪郭を捉え、主砲の発射準備を促す。
戦艦「武蔵」の巨大な主砲は、すでに敵艦隊へと向けられ
その威容は夜闇に紛れてもなお、周囲を威圧していた。

夜間航空攻撃は、あくまで序曲に過ぎない。
この後、太平洋の闇夜で、日米の主力艦隊による
壮絶な砲撃戦が繰り広げられることになるだろう。
両軍の将兵は、迫り来る艦隊決戦を前に
静かに、しかし確かな覚悟を固めていた
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