レイテの逆光 帝国海軍最後の勝利

みにみ

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決戦への序曲

日吉台の決断

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昭和十九年(1944年)九月下旬——神奈川県 日吉台 連合艦隊司令部地下壕

 分厚いコンクリートに覆われた地下壕の奥深く、連合艦隊司令部の作戦室には、
重苦しい空気が満ちていた。照明の薄暗い光の下、海図を囲む幕僚たちは、誰もが険しい表情をしている。

 机上に広げられたのは、フィリピン・レイテ湾周辺の海図。
刻一刻と迫る決戦に向け、彼らは最後の戦略を詰めていた。

 中央には、連合艦隊司令長官豊田副武大将の姿があった。
 彼は深く腕を組み、参謀たちの意見を聞いている。

「第一遊撃部隊は、パラワン水道を突破し、レイテ湾に向かう。
 旗艦大和を中心に武蔵、長門、金剛、榛名が続く」

 作戦主任参謀の一人が、栗田艦隊の行動を指し示しながら説明した。

「その一方で、第二遊撃部隊、西村艦隊はスリガオ海峡を突破し、敵艦隊を南北から挟撃する」

 その言葉に、別の幕僚が慎重に口を開く。

「しかし、現状の西村艦隊の戦力では、スリガオ海峡の突破は困難です」

 会議室が静まり返る。

 戦艦山城、扶桑に重巡最上、そして駆逐艦数隻。それが西村艦隊の全戦力だった。

 米軍の動向は完全には掴めていなかったが、スリガオ海峡の出口には、
 敵戦艦・巡洋艦が待ち構えていると推測されていた。
 ここを突破できなければ、栗田艦隊の進撃も危うくなる。

「では、第二遊撃部隊を増強するべきか?」

 豊田が低い声で問いかけると、参謀の一人が進み出た。

「そこで提案します。戦艦大和を西村艦隊に投入し、旗艦とする。
 さらに、重巡鈴谷・熊野*、第二駆逐隊を増援とし、艦隊の戦力を倍増させます」

 会議室内に、一瞬沈黙が落ちた。

「戦艦大和を、第二遊撃部隊に?」

 幕僚たちは驚きを隠せない様子だった。

「大和は我が海軍の象徴だ。それを栗田艦隊ではなく、
 西村艦隊に配備するというのか?」

「その通りです」

 参謀は海図を指さしながら説明を続ける。

「大和の主砲火力、対弾装甲が加われば、
 敵の待ち伏せを強行突破することが可能になります。
 さらに、鈴谷・熊野の砲撃支援、第二駆逐隊の雷撃によって、
 敵艦隊を攪乱しながら突破できる確率は飛躍的に向上します」

「しかし、第一遊撃部隊から大和を外せば、そちらの戦力が弱体化するのではないか?」

 豊田が問いただすと、参謀は冷静に頷いた。

「確かに、大和が抜けるのは痛手です。しかし、
 第一遊撃部隊にはなお、武蔵、長門、金剛、榛名の四隻が残ります。
 武蔵を旗艦とし、長門以下の戦力をもって敵艦隊を叩くのは十分可能です
 それに武蔵の方が内装が綺麗ですし」

 豊田は腕を組み、再び沈黙した。

 確かに、スリガオ海峡の突破はこの作戦の成否を左右する重要な要素だった。
 西村艦隊が突破できなければ、栗田艦隊は孤立し、
 米艦隊の反撃を受けて壊滅する可能性が高い。

 決断の時が来ていた。

 豊田は海図を見つめ、静かに命じた。

「よろしい。戦艦大和を第二遊撃部隊に編入する。
 また、重巡鈴谷・熊野、第二駆逐隊を増強部隊として加える。
 第二遊撃部隊を強化し、スリガオ海峡突破の可能性を高めるのだ」

「はっ!」

 参謀たちは直ちに命令を各所へ伝えるため、部屋を出ていった。

 日本海軍は、レイテ決戦に向けて、かつてない大きな決断を下したのだった
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