超甲巡 筑波        いざ太平洋へ出撃せん

みにみ

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ミッドウェーの盾

二空母被弾

日本時間6月5日午前6時40分
南雲機動部隊は、空母から発進した敵機動部隊からの攻撃隊と遭遇した。
それは、ミッドウェー基地からの反撃とは比較にならない、
本格的な航空攻撃の始まりだった。直掩の零戦隊が、
先行するTBD艦上攻撃機群と交戦を開始する中
「筑波」と「生駒」は、空母部隊の盾として、その対空砲の砲身を空に向けた。

「敵雷撃機、来襲!」

「筑波」の防空指揮所から、甲高い声が響き渡る。
低空を縫うように、米海軍のTBDアヴェンジャー雷撃機が波間をかすめ
空母へと猛スピードで迫ってくるのが視認できた。
護衛戦闘機のない彼らは、まさに自殺行為にも等しい勇敢さで
日本の空母群へと肉薄しようとしていた。

「対空戦闘 目標接近中の敵雷撃機! 機関全速一杯!」

黒島艦長の声が艦橋に響き渡る。海野信一郎少尉は
砲術科の防空指揮所で、九四式高射装置の照準を敵機へと合わせる。
長10cm高角砲の砲手が、緊張した面持ちで砲弾を装填していく。
25粍機関砲の砲手は、息を詰めて引き金を引く寸前だ。

「撃ち方始め!」

号令と共に、「筑波」と「生駒」の艦体が、一斉に火を噴いた。
まず、八基の九八式10cm連装高角砲が、凄まじい轟音と共に一六発の砲弾を吐き出す。
その砲弾は、まるで意志を持つかのように、一直線に敵雷撃機へと向かっていく。
それに続き、両艦合計で128門にも及ぶ25粍機関砲が
ダダダダダダダダッと狂ったように火を噴いた。
無数の曳光弾が空を切り裂く音は、地獄のオーケストラのようだった。

赤く光る曳光弾の筋が、幾重にも重なり
空に鉄の弾幕を張り巡らせる。低空を飛ぶTBD雷撃機は
その弾幕の中を必死で突き進もうとするが、まるで網に絡め取られた魚のように
次々と機体が空中分解したり火を吹いて撃墜されていく。

「右舷前方、敵機命中弾!」

「目標、炎上!海面に突入!」

観測手からの報告が、間断なく海野の耳に飛び込んでくる。
一機のTBDアヴェンジャーが、翼から火を噴き、そのまま海面に激突して爆発する。
別の機は、機体から部品を撒き散らしながら
コントロールを失って真っ逆さまに落ちていった。

「筑波」と「生駒」は、まるで牙を剥いた巨大な獣のように
その対空火力を遺憾なく発揮した
64門もの25粍機関砲が吐き出す弾丸の量は想像を絶し
低空を侵入しようとする敵機にとっては、まさに死の壁となった
空母部隊の他の護衛艦艇もまた、渾身の対空砲火を浴びせている。

数分の間に、TBD雷撃機群は壊滅的な打撃を受けた
勇猛果敢な米軍パイロットたちは、勇敢にも空母へと魚雷を投下しようと試みるが
ほとんどの魚雷は目標に届くことなく、虚しく海面に突入した
数機が投下した魚雷も、巧みに回避する歴戦の艦長達の腕によって
その目標を捉えることはできなかった。

「やった!雷撃機隊撃退だ!」

「筑波」の対空指揮所では、安堵と歓喜の声が上がった。
海野も、額ににじむ汗を拭いながら、胸を撫で下ろした。
彼らの筑波型は、与えられた「盾」の役割を完璧に果たし
脅威から空母を守り抜いたのだ。松本上等兵曹もまた
無数の火線を浴びせ続けた砲身を見上げ、わずかに口角を上げた。

しかし、その安堵と勝利の感情は、
次の瞬間に、へと打ち砕かれることになる。

低空の雷撃機隊に全神経を集中させていた、その一瞬の隙。


最初に飛龍の高角砲が赤城の上空に高角砲を放った
後から思えば警告の射撃だったのかもしれない


「上空!上空から敵機来襲! 敵機 母艦直上急降下!」 


海野が顔を上げた瞬間、彼の視界に、碧い空から真っ逆さまに落ちてくる、
無数の影が飛び込んできた。SBDドーントレス急降下爆撃機。
その存在を、艦隊は完全に看過していたのだ。
低空の雷撃機に気を取られている間に、高空から忍び寄っていた、真の殺し屋たち。

「馬鹿な!見張りは!」

「筑波」の艦橋では、黒島艦長の絶叫が響き渡った。
しかし、既に手遅れだった。彼らは、艦隊を覆い隠すような高さから
目標である大きな空母「赤城」と「加賀」へ、正確な急降下爆撃を敢行していた。

キィィィィィンというエアブレーキを展開しながら
急降下する音が響き渡ったと思った瞬間

「赤城」の飛行甲板が、まず一つ目の炸裂に揺れた。
500lb爆弾が、エレベーター付近に命中したのだ。飛行甲板が破裂し火花が散る。
しかし、それが始まりに過ぎなかった。
二発目、三発目の爆弾が、立て続けに「赤城」の飛行甲板に命中した。

ドゴォォォォォン!!

耳をつんざくような爆音と共に、「赤城」の飛行甲板が大きく抉られ
炎と黒煙が天高く舞い上がった。
平時であれば、500lb爆弾の数発命中程度では
航行不能に陥るほどの致命傷とはならない。
赤城は天城型巡洋戦艦を改装した母艦で
装甲や排水量は正規空母の飛龍や蒼龍とは段違いである
しかし、この時、「赤城」の飛行甲板や格納庫には
陸用爆弾から対艦用兵装へと換装しきれていない爆弾や魚雷
そして燃料を満載した航空機が所狭しと並べられていたのだ。

命中した爆弾は、これらの無造作に置かれた航空燃料や
剥き出しの魚雷、そして陸用爆弾を次々と誘爆させた。

轟音は、もはや爆発の音ではなかった。
それは、艦の全身が内部から引き裂かれるような、
地鳴りのような連続した爆発音だった。
まるで、二〇発以上の爆弾を同時に受けたかのような
凄まじい連鎖的爆発が「赤城」の艦内で発生した。艦体は大きく傾き、
炎は制御不能なまでに燃え上がり、機関室へと黒煙が侵入していく。

「赤城」に続いて、隣に停泊していた「加賀」にも
猛烈な爆弾の雨が降り注いだ。一発、二発、三発、そして四発目
立て続けに炸裂する500lb爆弾が
「加賀」の巨大な飛行甲板と格納庫を破壊し尽くした。

ドォォォォォォンッ!

「加賀」もまた、「赤城」と同様に、誘爆の連鎖に見舞われた
格納庫に置かれていた大量の爆弾や魚雷、そして燃料が
次々と大規模な爆発を引き起こした。艦体は激しく揺れ
たちまちのうちに猛烈な炎と黒煙に包まれる
艦載機が次々と炎上し、爆発する音が、悲鳴のように響き渡った。

海野は、「筑波」の防空指揮所から
その光景をただ呆然と見つめるしかなかった
つい数分前まで、低空の雷撃機を撃墜し、勝利に沸いていた彼らの目の前で
日本海軍の誇るべき空母が、無残にも炎上し、爆発のるつぼと化していく。

「赤城、火災!加賀、大炎上!機関部に煙が侵入、航行不能!」

悲痛な報告が、次々と無線から流れてくる。
空母を炎上させたSBD爆撃機は、その役割を終え、悠然と飛び去っていく。

「馬鹿な…」

海野は、目の前の光景が信じられなかった。
筑波型は、あれほど凄まじい対空火力を備えていたはずだ
低空の雷撃機は確かに撃退した。しかし、上空からの一撃を防ぐことはできなかった。

「筑波」の対空指揮所に、絶望的な無力感が満ちていた。
彼らは、「盾」として空母を守るべく、全力を尽くしたはずだった。
しかし、最も肝心な、敵の決定的な一撃を防ぐことができなかった。
まるで、分厚い盾を構えた兵士が、頭上から降り注いだ矢に貫かれたかのようだった。

松本上等兵曹は、蒼白な顔で、炎上する「赤城」と「加賀」を見つめていた。
彼の表情には、怒りや悲しみよりも、深い絶望と
そしてある種の諦めが浮かんでいた。
彼は、この戦いの恐ろしさを、誰よりも早く予感していたのだろう。

「航行不能…」

海野は、その言葉を繰り返した。炎上する二隻の空母は、
もはやただの燃え盛る鉄の塊と化し、海上に停止していた。
日本の機動部隊の牙である空母が、その能力を存分に発揮することなく、
たった数分の間に、無力化されてしまったのだ。
海戦は、始まったばかりだというのに、すでに決定的な転換点を迎えていた。
海野の胸には、自らの艦が持つ対空火力を存分に発揮することなく
最も守るべきものを失ったことへの、言いようのない無力感と、そして後悔が苛まれていた。
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