幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

文字の大きさ
25 / 77
第2章

第25話

しおりを挟む
 ちび助は深雪の腕を掴んで、揺らす。
 それで、深雪は正気に戻った。

「あ、えっと、ごめんね。少しだけ、熱く語っちゃったかも……しれないよね」

 深雪はうなだれると、藤宮に対して謝罪した。

「別に、構わないわ」

 と、彼女にしては珍しく温かなお言葉。

「私は構わなくなんかないですよー」

 ちび助は上目遣いで、深雪を見上げる。

「えっと……どうしてかな?」
「だってー、私の前でいちゃいちゃしてぇ、嫌がらせのように見せつけてくるんですからー。きっと、嫉妬した私を見てにやにやするつもりですね!」
「そ、そんなつもりなんてないからね」
「じゃあー、どんなつもりなんですかー」

 ちび助の言葉で、深雪は困惑した顔をする。

「桜井」

 藤宮はちび助の、名字を口にした。

「あなたはさっさとその服を着て、水瀬に見せたら? がっかりされるのは早めに済ませた方がいいわよ。そうしたら、その服を買う必要がないと分かるのだから」

 その言葉に、ちび助はムスッとした。深雪の腕から手を離し、何故か私の方に顔を向けた。

「藤宮先輩は頑なに、私に名前を呼ばれることも、呼ぶことも許してくれませんでした。それは何故か――奈々先輩は分かります?」

 話の流れが理解できない。

「さぁ」

 私の態度を見て、ちび助は何故か笑みを浮かべる。
 
「それはですねぇ、藤宮先輩は名前を呼ぶのも、呼ばれるのも、奈々先輩からだと決めて――」

 驚くべき速さで、チビ助の口が藤宮の手により塞がれる。

「あなたの妄想を垂れ流さないでくれるかしら?」

 藤宮は笑っている。笑っているが――なんか、怖い。

 ちび助は自力で抜け出すと、深雪の後ろに逃げ込んだ。そして少しだけ顔を覗かせると、二人は睨み合う。

 深雪は戸惑った表情で、体を震わせた。

「小春、いいからさっさと着替えてきたら?」

 私の言葉に、不満そうにしながらも、深雪の手を掴んで更衣室の方に向かった。

「か、勘違いしないでよ」

 藤宮は顔を向けず、そんなことを言った。

 正直、何のことを言っているのかが分からない。そのため、無難に返事をしておいた。

 しばらく、無言が続く。

「……二人っきりにさせていいのかしら?」

 その言葉に、私は苦笑してしまう。

 二人だけでどこかへ遊びに行っていることも知っているし、二人だけのメッセが大量に積み重なっていることも知っている。
 しかし、私は何もせずに諦観するだけ。

「いいんだよ、別に」

 二人が付き合うと分かっても、私は何もせずにただ苦笑するだけなのだろうか?

 藤宮はちらりと私の方に視線を向けたが、何も言わずにすぐに背けた。



 ちび助はコスプレしたまま、恥ずかしげもなく深雪と一緒に衣装選びをしている。

 完全に二人だけの世界だ。

 私と藤宮はそれを遠巻きに眺めている。

「藤宮はプリクラしたことある?」
「……あなたは、あるの?」
「まあ、一応は」

 たった一度だけの話だが。

「……そう」

 冷たい反応だ。

「一緒に撮らない?」
「……何故?」
「何故って――一緒に撮りたいから?」
「何故、疑問系なのよ」

 藤宮は私を見て、眉を顰める。

「上手い言葉が見つからなかっただけ。一緒に撮りたいって気持ちに嘘はないから」

 そう言って、私は藤宮の傍に寄る。

「駄目なの?」
「……別に、駄目って訳じゃないわ」

 藤宮はそっぽ向く。

「じゃあ、一緒に撮るってことで。その前に、せっかくだから衣装も一緒に探そうか」

 私は藤宮の服の裾を引っ張った。

「分かったから、裾は引っ張らないでくれる?」

 手を離しても、藤宮は私の後を歩いてくれる。

「勘違いしないでよ」
「何を?」
「こうやって、あなたと一緒に衣装を選ぶのも――既にお金を払ってしまったからよ」
「分かってるから。それでも、私は嬉しいけどね」

 私がそう言うと、藤宮は下を向く。

「……馬鹿」

 何故か、罵倒されてしまった。

 とても、理不尽な話だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...