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第二章
7★
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時間は少し遡り、王都で愛理がクリスティアーヌとして目覚めてから二十日程経った頃。
王都から遥か北に位置するベルトラン砦では、前線にある野営地から多くの兵士たちが帰還していた。
「お疲れ様です」「ご苦労様です」
次々と馬に乗った兵士が降り立つなかを、砦に仕える侍従の年若い青年が皆に声をかけながら目当ての人物目指して走っていた。
「負傷者を先に入れろ。健康な者は中に入るのを手伝ってやれ。手の空いている者は荷物を運べ」
やがて紺色の軍服に身を包む者が大勢いる中、銀色の肩章を付けた人物を見つけ青年は駆け寄った。
「副官、リンドバルク卿」
一ヶ月近くの野営地での勤務を終え、着ている軍服はいささか埃にまみれていたが、着崩れることなくきちんと身に付けている様子は少しも疲れを見せない。
「ハットンか、どうした?」
未だ騎乗にあって彼は青年を見下ろす。
「オリヴァー殿下が、第二皇子がすぐに来られるようにと」
「殿下が?わかった。馬の世話を頼む」
ルイスレーンは馬を降りて手綱をハットンに預けると、足早に上官であり総大将である第二皇子の待つ部屋へと急いだ。
帰還の報告に必ず向かうことになっていたので、遅かれ早かれ面会に行くつもりであったが、早々に来るように遣いを寄越すとは、何かあったに違いない。
彼が通りすぎる度に皆が会釈してくるのを、片手を上げて挨拶しながら砦にある城に足を踏み入れると、意外にもそこにオリヴァー殿下が立っていて驚いた。
「殿下、只今帰還いたしました」
執務室でなく玄関まで出迎えてくれていることに驚きながら、片膝をついて前に膝まずき帰還の挨拶を述べる。
「ご苦労…それで?」
「やはり今回も見えた旗印は国王のそれのみ。大公の旗は現れませんでした」
カメリア国はエリンバルアと同じく現在は王政をしいているが、かつてはカラトゥリとリアベリーという名の二人の領主がそれぞれの領地を治めていた。
ある時カラトゥリの領主とリアベリーの一人娘とが婚姻により結ばれたため、ひとつの国となった。
それがカメリア国の誕生である。
その時に新たに王として立ったのが今の国王の先祖になるが、両家の地位はそのまま残った。
それが大公。
大公の権力は国王に匹敵する。国王が即位するときには両大公の承認が必要であり、今も王とは別に権力を握っていると聞く。
「そうか……やはり何かあるのだな」
これまで幾度となく交戦してきたが、常に見えるあちらの軍旗は王のものばかり。カラトゥリとリアベリー両大公の旗は一度も確認できていない。
王の兵士ばかりなら数は今のところほぼ互角だった。
だがここで全力で討って出て横から大公の軍が参戦してくるとなると、忽ちこちらが不利となる。
なぜ両大公の軍が姿を現さないのか。
相手の動きを謀れないまま、小競り合いが続いていた。
「既に戦争が始まって半年以上経つ。そろそろ何か打開策を考えねばな」
「……向こうの懐に人を差し向けますか?」
「そうだな……その件は後でゆっくり話そう。実はそなたを早急に呼んだのは、これがあったからだ」
顔をあげる彼の目の前に殿下が手紙が差し出す。
「二週間前に届いた。ちょうど前線が緊迫していた頃だから、中を改めさせてもらった。そなたに余計な心配をさせて指揮に乱れが出てはと知らせずにいた。許せ」
差し出された手紙を手に取りながら、彼は差出人を見る。
それは王都の屋敷に仕える執事からだった。
殿下自ら預かり渡してくれるとは、余程大事なことが書かれているのだろうか。
「今すぐ読みなさい」
命令され、失礼致しますと言って手袋を外して脇に挟んで手紙の文面に目を通す。
そこには見慣れた執事の筆跡で、妻が倒れたことと、すぐに目覚めたが記憶を失くしていたことが書かれていた。
王都から遥か北に位置するベルトラン砦では、前線にある野営地から多くの兵士たちが帰還していた。
「お疲れ様です」「ご苦労様です」
次々と馬に乗った兵士が降り立つなかを、砦に仕える侍従の年若い青年が皆に声をかけながら目当ての人物目指して走っていた。
「負傷者を先に入れろ。健康な者は中に入るのを手伝ってやれ。手の空いている者は荷物を運べ」
やがて紺色の軍服に身を包む者が大勢いる中、銀色の肩章を付けた人物を見つけ青年は駆け寄った。
「副官、リンドバルク卿」
一ヶ月近くの野営地での勤務を終え、着ている軍服はいささか埃にまみれていたが、着崩れることなくきちんと身に付けている様子は少しも疲れを見せない。
「ハットンか、どうした?」
未だ騎乗にあって彼は青年を見下ろす。
「オリヴァー殿下が、第二皇子がすぐに来られるようにと」
「殿下が?わかった。馬の世話を頼む」
ルイスレーンは馬を降りて手綱をハットンに預けると、足早に上官であり総大将である第二皇子の待つ部屋へと急いだ。
帰還の報告に必ず向かうことになっていたので、遅かれ早かれ面会に行くつもりであったが、早々に来るように遣いを寄越すとは、何かあったに違いない。
彼が通りすぎる度に皆が会釈してくるのを、片手を上げて挨拶しながら砦にある城に足を踏み入れると、意外にもそこにオリヴァー殿下が立っていて驚いた。
「殿下、只今帰還いたしました」
執務室でなく玄関まで出迎えてくれていることに驚きながら、片膝をついて前に膝まずき帰還の挨拶を述べる。
「ご苦労…それで?」
「やはり今回も見えた旗印は国王のそれのみ。大公の旗は現れませんでした」
カメリア国はエリンバルアと同じく現在は王政をしいているが、かつてはカラトゥリとリアベリーという名の二人の領主がそれぞれの領地を治めていた。
ある時カラトゥリの領主とリアベリーの一人娘とが婚姻により結ばれたため、ひとつの国となった。
それがカメリア国の誕生である。
その時に新たに王として立ったのが今の国王の先祖になるが、両家の地位はそのまま残った。
それが大公。
大公の権力は国王に匹敵する。国王が即位するときには両大公の承認が必要であり、今も王とは別に権力を握っていると聞く。
「そうか……やはり何かあるのだな」
これまで幾度となく交戦してきたが、常に見えるあちらの軍旗は王のものばかり。カラトゥリとリアベリー両大公の旗は一度も確認できていない。
王の兵士ばかりなら数は今のところほぼ互角だった。
だがここで全力で討って出て横から大公の軍が参戦してくるとなると、忽ちこちらが不利となる。
なぜ両大公の軍が姿を現さないのか。
相手の動きを謀れないまま、小競り合いが続いていた。
「既に戦争が始まって半年以上経つ。そろそろ何か打開策を考えねばな」
「……向こうの懐に人を差し向けますか?」
「そうだな……その件は後でゆっくり話そう。実はそなたを早急に呼んだのは、これがあったからだ」
顔をあげる彼の目の前に殿下が手紙が差し出す。
「二週間前に届いた。ちょうど前線が緊迫していた頃だから、中を改めさせてもらった。そなたに余計な心配をさせて指揮に乱れが出てはと知らせずにいた。許せ」
差し出された手紙を手に取りながら、彼は差出人を見る。
それは王都の屋敷に仕える執事からだった。
殿下自ら預かり渡してくれるとは、余程大事なことが書かれているのだろうか。
「今すぐ読みなさい」
命令され、失礼致しますと言って手袋を外して脇に挟んで手紙の文面に目を通す。
そこには見慣れた執事の筆跡で、妻が倒れたことと、すぐに目覚めたが記憶を失くしていたことが書かれていた。
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