82 / 266
第七章
5
しおりを挟む
「なぜ手を?」
ルイスレーン様が訊ねる。
既に手は握ってはいないが、私の取った行動に戸惑われているのがわかる。
「泣いていらっしゃると思ったので……私には何も出来ませんが……」
「励ましてくれようとしたのか」
「すいません……おこがましいですよね。今のは忘れてください」
考えてみれば余計なお世話だ。泣いているように見えたのは私の思い込みかもしれないのに。何を勘違いして立派な男性の彼を慰めようとしたのか。穴があったら入りたいとはこういうことだ。
「クリスティアーヌ……あなたが私を気遣ってくれたことをどうして忘れろと言うのだ。謝ることではない。むしろこちらが感謝したいくらいだ」
「それなら……良かった」
余計なことをしたと怒られるかと思ったが受け入れてもらえて嬉しかった。
「あなたは優しいな……人の痛みがわかる方だ」
「そんないいものではありません」
私ならこういう時、こうして欲しいと思ったことをしただけだ。それよりルイスレーン様の話し方は、ストレート過ぎて聞いているこちらが気恥ずかしくなる。
私の性格に対する評価など何の役にも立たないというのに。
「それに美しい」
「え!」
驚いて見上げると見下ろすルイスレーン様の瞳と視線がぶつかった。面と向かってそんなことを言われたことがないので、一瞬頭が真っ白になった。
「そのドレスも宝石も良く似合っている。あなたの白い肌に映えて……」
耳元に寄せる彼の唇から紡がれる言葉と、むき出しの背中の肩甲骨の辺りに触れるルイスレーン様の温かい手が私の神経を研ぎ澄ます。
優しいとか言われるのも照れるが、美しいと言われるともっと恥ずかしい。
マリアンナたちに言われるのと訳が違う。
同性の、しかも侯爵邸に仕える彼女たちが、仮にも主の妻を誉めるのはある意味当然だ。
一見無愛想で社交辞令のひとつも言わないようなルイスレーン様に言われると、彼女たちには悪いが、比ではないくらいインパクトがある。
「お世辞でも嬉しいです」
『愛理』の時は父を除けば誰にも言ってもらえなかった言葉だ。
「クリスティアーヌ、世辞では……」
「やあ、リンドバルク卿」
私たちに気づいたオリヴァー殿下が手を上げ近づいてくる。アンドレア殿下もいて、そこにエレノア妃、そしてイヴァンジェリン妃の姿を認め、少し前の茶会でのことが頭を過る。
アンドレア殿下は国王陛下と面差しがよく似ている。
イヴァンジェリン妃の側に立つオリヴァー殿下は国王陛下よりは王妃様に似ているのだろう。ルイスレーン様と年も近そうで、彼のことを気に入っているのがわかる。
どちらも総じて美形なので、それぞれのお妃様と並んでいると畏れ多くて近寄りがたい。
ルイスレーン様が訊ねる。
既に手は握ってはいないが、私の取った行動に戸惑われているのがわかる。
「泣いていらっしゃると思ったので……私には何も出来ませんが……」
「励ましてくれようとしたのか」
「すいません……おこがましいですよね。今のは忘れてください」
考えてみれば余計なお世話だ。泣いているように見えたのは私の思い込みかもしれないのに。何を勘違いして立派な男性の彼を慰めようとしたのか。穴があったら入りたいとはこういうことだ。
「クリスティアーヌ……あなたが私を気遣ってくれたことをどうして忘れろと言うのだ。謝ることではない。むしろこちらが感謝したいくらいだ」
「それなら……良かった」
余計なことをしたと怒られるかと思ったが受け入れてもらえて嬉しかった。
「あなたは優しいな……人の痛みがわかる方だ」
「そんないいものではありません」
私ならこういう時、こうして欲しいと思ったことをしただけだ。それよりルイスレーン様の話し方は、ストレート過ぎて聞いているこちらが気恥ずかしくなる。
私の性格に対する評価など何の役にも立たないというのに。
「それに美しい」
「え!」
驚いて見上げると見下ろすルイスレーン様の瞳と視線がぶつかった。面と向かってそんなことを言われたことがないので、一瞬頭が真っ白になった。
「そのドレスも宝石も良く似合っている。あなたの白い肌に映えて……」
耳元に寄せる彼の唇から紡がれる言葉と、むき出しの背中の肩甲骨の辺りに触れるルイスレーン様の温かい手が私の神経を研ぎ澄ます。
優しいとか言われるのも照れるが、美しいと言われるともっと恥ずかしい。
マリアンナたちに言われるのと訳が違う。
同性の、しかも侯爵邸に仕える彼女たちが、仮にも主の妻を誉めるのはある意味当然だ。
一見無愛想で社交辞令のひとつも言わないようなルイスレーン様に言われると、彼女たちには悪いが、比ではないくらいインパクトがある。
「お世辞でも嬉しいです」
『愛理』の時は父を除けば誰にも言ってもらえなかった言葉だ。
「クリスティアーヌ、世辞では……」
「やあ、リンドバルク卿」
私たちに気づいたオリヴァー殿下が手を上げ近づいてくる。アンドレア殿下もいて、そこにエレノア妃、そしてイヴァンジェリン妃の姿を認め、少し前の茶会でのことが頭を過る。
アンドレア殿下は国王陛下と面差しがよく似ている。
イヴァンジェリン妃の側に立つオリヴァー殿下は国王陛下よりは王妃様に似ているのだろう。ルイスレーン様と年も近そうで、彼のことを気に入っているのがわかる。
どちらも総じて美形なので、それぞれのお妃様と並んでいると畏れ多くて近寄りがたい。
59
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる