【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
182 / 266
第十三章

3

しおりを挟む
ルイスレーンが出ていき、私は扉の前に座って合図を待った。

彼の匂いが残るジャケットに頬擦りすると、彼への気持ちが溢れて止まらない。

彼は私がクリスティアーヌとして転生したことが、彼との出会いのためだったと言ってくれた。そもそも転生というものは、何のためにあるのだろう。

クリスティアーヌとして生まれても、私には俗に言うチート能力などない。この世界も魔法なんて無く、せいぜい魔石が存在する程度。それもどちらかと言えば自然派エネルギーと言ったところで、それを活かす魔道具も昭和の頃の家電レベル。だからこの世界を変えるとか魔王を倒すとか、そんな使命などない。日々生きて生活するだけの普通の転生だから。

コンコン

背中を預けている扉を誰かが叩いた。

ルイスレーンが戻ってきたのだろうか。

「だ……誰?」

「私……ケイトリンよ、開けてもらえる?」
「ケイトリン……!」

扉を開けようして思いとどまる。ルイスレーンが来るまでは開けないように言われているからだ。

「どうしたの?開けてもらえないの?」

心細そうにケイトリンが尚も開けて欲しいと言う。

「あの……」

「お願い、誰もいないなら……開けて、助けて!」

「ケイトリン!」

彼女も変な輩から逃げているのかも知れない。
その声を聞いて慌てて鍵を回して扉を開けると、そこに 一人で立っているケイトリンがいた。

「どうしたの?」

彼女は扉越しに聞いた声とは裏腹に落ち着き払っている。

戸口から顔を出して廊下の左右を見て誰もいないのを確認して訊ねる私を無視して、ケイトリンはすっと前に歩を進めて部屋の中に入ってきた。

「本当に誰もいないのね……」

部屋を見渡してからケイトリンがこちらを向く。

「お客はどこに行ったの?」

横目で寝台の様子を見てケイトリンが訊ねる。
なぜそんなことが気になるのか、それよりも彼女の様子がいつもと違う。

「ケイトリン………あなた見えないんじゃ……」
「私が訊いてるのよ答えて!?」
「…………帰ったわ」
「そう……それで、扉の側で何をしていたの?」
「な、何も……ケイトリン……どうして?」
「あなたには今から別の場所へ移ってもらうわ、ケイレブ」

後ろに人の気配がして振り返ると、大柄の男が立ち塞がり、逃げようとした私を羽交い締めにする。

「やめて、離して!」

ここから連れ出されたらせっかくルイスレーンが助け出そうとしてくれているのに、無駄になってしまう。何とか騒ぎが起こるまで時間を稼がないと。

「残念だけど、私は女たちが変な行動を起こさないよう見張るのが仕事なの。盲目なのも油断させるための演技よ。ケイレブ、騒ぎ立てないようにして」

「はい、お嬢様」

男が返事をすると、鼻と口を何かで塞がれた。

「や、やめ……」

気分が悪くなり目が回りだした。
カシャンと音がして、ルイスレーンがくれた短剣が落ちた。

「こんなもの、いつの間に……」

薄れ行く意識の中でケイトリンの顔がぼやけていく。

ルイスレーン……助けて……




「クリスティアーヌー、どこにいる~?」

甘い猫撫で声が聞こえる。私は母に言われたとおり慌ててクローゼットの奥の戸棚に隠れた。

「やめてミゲル、あの子をどうしようと言うの?」

「何もしないさ……今はな……あの子の面倒を見たいと言う御仁が何人かいるんだ。贈り物には綺麗な箱とリボンが必要だろう?綺麗に着飾らせてやろうと言うんだ」

「あの子をどこかの妾にするって言うの?」
「その方があの子のためさ。今さら貴族社会に戻ったところで苦労するのはあの子だぞ。デビューはしたが、貴族の令嬢らしい教養なんて身に付けていないじゃないか、それなら平民でもどこかの金持ちに囲ってもらった方がずっと幸せってもんだ。体を預けるだけで生活の面倒を見てくれるんだからな」

階段付近で叔父と母のやり取りが聞こえる。

母が病気になってから叔父はまた様子が変わった。その表情は何かに取りつかれたかのように目が落ち窪み、遠回しに私を見る目付きが次第に厭らしくなっていった。

叔父が来ると母は私を閉じ込め、いつも出掛けていると言って誤魔化して帰していたが、その日はしつこく食い下がった。

「クリスティアーヌ、どこにいる?」
「お願い……あの子は出掛けているわ」

二階へ叔父が辿り着いたのがわかった。

「嘘をつくな。今日はこの家から一歩も出ていない。ちゃんと調べはついているんだ」

二間しかない場所では探す場所などたかが知れている。

一つ目の部屋を探し終わると、すぐに私が隠れている部屋にやってきた。

「ね、いないでしょ?あなたの気のせいよ」

クローゼットの中の羽目板を外した奥に隠れる私は、悟られないよう必死で息を殺した。

「ここか?」

クローゼットが開き、叔父が多くない衣裳を掻き分ける。

結局は見つかった。

「やはり隠れていたか、私をこけにしやがって!」

手首を掴まれ引きずり出され、そのまま部屋の外へ連れ出された。

「痛い!離して、お母様、いやよ」

「お願い、やめて、この子は……この子だけは」

「うるさい!」

階段まで叔父に手首を掴まれたまま引きずられる私と叔父の間に割って入る形で、母が取りすがった。

「きゃああーーー!」

その時、母の悲鳴が聞こえた。何が起こったのか、一瞬わからなかった。

叔父に振り払われた母は病気で弱っていたため体重も軽くなっていて、簡単によろめいた。そしてそのまま階段を落ちていった。

グキッ

何かが折れる音がした。

それは頭から落ちた母の首が折れた音だった。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...