9 / 21
9 婚約とお妃教育
しおりを挟む
お嬢様が十歳になった時、シナリオ通り王子様との婚約が決まった。
その発表を聞いて、意外に思ったのか「考え直して貰う」と言ってすぐにお嬢様は王宮へ向かわれたが、戻ってきた時には結局婚約を受け入れることになったとおっしゃった。
ただし、互いにあくまで仮にということで成人した時に正式に婚約するということだった。
シナリオでは仮なんて付いていたかな?仮ということでも婚約破棄騒動が起きるのだろうか?
お嬢様はそれからほぼ毎日、お妃教育のために王宮へ通われることになった。
相変わらず私を側に置いて溺愛して可愛がってくれるが、以前ほど構ってはくれなくなった。
あの七歳の時に二週間近くお嬢様と離れて寂しく思ったが、そっけなくされるとそれはそれで気にはなるものだ。
お妃教育が始まって一年後。お嬢様はまた倒れられた。
「コリンヌ、ねえねは?ねえねはどうしたの?」
「アシュリー様は少しお疲れが出たみたいですね。大丈夫ですよ。ビアンカ様が生まれたばかりの頃もすぐに元気になりましたから」
自分に言い聞かせるように離れに移された姉君も心配するビアンカ様に説明したが、心配が顔に出ないようにするのが大変だった。
三年前に通り抜けられた離れへと通じる穴は、今の私ではもう抜けることができなくなっていた。
メイド長にも様子を訊ねるが、大事ないから心配は無用だとの一辺倒だった。
今度も体の成長に薬の効果が合わなくなってきたからだと言われたが、そもそも何の病なのかまったく聞かされていないので、ますます心配になる。
「お嬢様、お加減はよろしいのですか?」
ようやくお嬢様の体調が良くなり、離れから戻ってきたのは一週間経ってからだった。
「コリンヌ。ええ、心配かけたわね」
心なしかやつれて肌も青白く見えたが、心配させまいとして微笑んでいる。
「何か私に出来ることはありませんか? お好きなチーズケーキでも焼きましょうか? それともクッキー? ケーク・サレ?」
甘いものが苦手なお嬢様が口にするのは、甘さ控え目のニューヨークチーズケーキかハーブのクッキーか、ハムやチーズ、野菜を混ぜたケーク・サレだ。それも料理長が作ったものではなく、私が作ったものだけ。
嫌いなだけで、別にアレルギーがあるわけではないので、お茶会に参加するときは、主催者を気遣って、無理矢理口にしているのだが、帰ってくると、口直しに私の特性ハーブティーを飲む。
「ありがとう。でも、今は何もいらないわ。お腹が空いていないの」
「でも…」
病み上がりの人間がいらないと言っているのに、あれこれ食べろとは言えない。
何もしてあげられなくて、無力なのを嘆いていると、じゃあ、とお嬢様が提案してきた。
「今夜は一緒に寝てくれる?」
「え?」
「だめ? コリンヌが側にいなくて寂しかったの。コリンヌは? 寂しかった?」
使用人の私がお嬢様に添い寝とか。普通に考えれば無理に決まっている。
「いくら私でも主であるお嬢様と同じ寝台になど…」
ウルウルした目で見つめられて、私に否とは言えるはずもなく。
メイド長には内緒にするという条件で引き受けた。
「私は別にバレてもいいけど」
「駄目です、絶対に! 仕えるお嬢様と同じ寝台で寝るなんてメイド長に知られたら、もうお嬢様付きではいられなくなるかも知れません」
「それは困るわ。だってあなたには、学園に入学する時についてきてほしいもの」
「が、学園…」
それは「青い薔薇と救世の乙女」のメイン舞台であるあの学園のことだ。
そこで攻略対象たちとヒロインが出会い、そしてアシュリーお嬢様が婚約破棄される。
結局私はお嬢様の願いを断れず、寝る支度をして夜にひっそりとお嬢様の部屋にやってきた。
互いに手を広げて寝てもぶつからないくらい広い寝台で、なぜかお嬢様は私にピタリと身を寄せてくる。
「ここまで寄り添わなくても…」
「そんなの一緒に寝る意味がないわ。私はこうしてコリンヌの体温を感じるくらい近くにいたいの。お祝いなんだから、私のしたいようにさせて」
「わかりました…」
お妃教育も始まり、体調を崩し、ようやく元に戻ったのだから、私で出来る我儘は聞いてあげよう。
でないと、どこに悪役令嬢へと進むルートが潜んでいるかわからない。
その発表を聞いて、意外に思ったのか「考え直して貰う」と言ってすぐにお嬢様は王宮へ向かわれたが、戻ってきた時には結局婚約を受け入れることになったとおっしゃった。
ただし、互いにあくまで仮にということで成人した時に正式に婚約するということだった。
シナリオでは仮なんて付いていたかな?仮ということでも婚約破棄騒動が起きるのだろうか?
お嬢様はそれからほぼ毎日、お妃教育のために王宮へ通われることになった。
相変わらず私を側に置いて溺愛して可愛がってくれるが、以前ほど構ってはくれなくなった。
あの七歳の時に二週間近くお嬢様と離れて寂しく思ったが、そっけなくされるとそれはそれで気にはなるものだ。
お妃教育が始まって一年後。お嬢様はまた倒れられた。
「コリンヌ、ねえねは?ねえねはどうしたの?」
「アシュリー様は少しお疲れが出たみたいですね。大丈夫ですよ。ビアンカ様が生まれたばかりの頃もすぐに元気になりましたから」
自分に言い聞かせるように離れに移された姉君も心配するビアンカ様に説明したが、心配が顔に出ないようにするのが大変だった。
三年前に通り抜けられた離れへと通じる穴は、今の私ではもう抜けることができなくなっていた。
メイド長にも様子を訊ねるが、大事ないから心配は無用だとの一辺倒だった。
今度も体の成長に薬の効果が合わなくなってきたからだと言われたが、そもそも何の病なのかまったく聞かされていないので、ますます心配になる。
「お嬢様、お加減はよろしいのですか?」
ようやくお嬢様の体調が良くなり、離れから戻ってきたのは一週間経ってからだった。
「コリンヌ。ええ、心配かけたわね」
心なしかやつれて肌も青白く見えたが、心配させまいとして微笑んでいる。
「何か私に出来ることはありませんか? お好きなチーズケーキでも焼きましょうか? それともクッキー? ケーク・サレ?」
甘いものが苦手なお嬢様が口にするのは、甘さ控え目のニューヨークチーズケーキかハーブのクッキーか、ハムやチーズ、野菜を混ぜたケーク・サレだ。それも料理長が作ったものではなく、私が作ったものだけ。
嫌いなだけで、別にアレルギーがあるわけではないので、お茶会に参加するときは、主催者を気遣って、無理矢理口にしているのだが、帰ってくると、口直しに私の特性ハーブティーを飲む。
「ありがとう。でも、今は何もいらないわ。お腹が空いていないの」
「でも…」
病み上がりの人間がいらないと言っているのに、あれこれ食べろとは言えない。
何もしてあげられなくて、無力なのを嘆いていると、じゃあ、とお嬢様が提案してきた。
「今夜は一緒に寝てくれる?」
「え?」
「だめ? コリンヌが側にいなくて寂しかったの。コリンヌは? 寂しかった?」
使用人の私がお嬢様に添い寝とか。普通に考えれば無理に決まっている。
「いくら私でも主であるお嬢様と同じ寝台になど…」
ウルウルした目で見つめられて、私に否とは言えるはずもなく。
メイド長には内緒にするという条件で引き受けた。
「私は別にバレてもいいけど」
「駄目です、絶対に! 仕えるお嬢様と同じ寝台で寝るなんてメイド長に知られたら、もうお嬢様付きではいられなくなるかも知れません」
「それは困るわ。だってあなたには、学園に入学する時についてきてほしいもの」
「が、学園…」
それは「青い薔薇と救世の乙女」のメイン舞台であるあの学園のことだ。
そこで攻略対象たちとヒロインが出会い、そしてアシュリーお嬢様が婚約破棄される。
結局私はお嬢様の願いを断れず、寝る支度をして夜にひっそりとお嬢様の部屋にやってきた。
互いに手を広げて寝てもぶつからないくらい広い寝台で、なぜかお嬢様は私にピタリと身を寄せてくる。
「ここまで寄り添わなくても…」
「そんなの一緒に寝る意味がないわ。私はこうしてコリンヌの体温を感じるくらい近くにいたいの。お祝いなんだから、私のしたいようにさせて」
「わかりました…」
お妃教育も始まり、体調を崩し、ようやく元に戻ったのだから、私で出来る我儘は聞いてあげよう。
でないと、どこに悪役令嬢へと進むルートが潜んでいるかわからない。
26
あなたにおすすめの小説
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 暗躍編ー
愚者 (フール)
恋愛
エテルネルの筆頭公爵令嬢プリムローズ・クラレンスは、周りが誰もが認める才女。
わずか10歳で自国の学業を終えて、孤高の島国ヘイズへ意気揚々留学をしに向かっていた。
彼女には何やらどうも、この国でしたい事があるようだ。
未開の地と他国から呼ばれる土地へお供するのは、専属メイドのメリーとヘイズに出身で訳ありの護衛ギル。
飼い主のプリムローズと別れたくない、ワガママな鷹と愛馬までついて来てしまう。
かなり変わった、賑やかな珍道中になりそう。
その旅路のなかで、運命的な出逢いが待っていた。
留学生活はどうなるのか?!
またまた、波乱が起きそうな予感。
その出会いが、彼女を少しだけ成長させる。
まったりゆったりと進みますが、飽きずにお付き合い下さい。
幼女編 91話
新たなる王族編 75話
こちらが前作になり、この作品だけでも楽しめるようにしております。
気になるかたは、ぜひお読み頂けたら嬉しく思います。
『平民を人間扱いしない公爵令息、あなたも平民です! ~系譜検察官の目は欺けません~
鷹 綾
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。
公爵令息アドリアン・ジオニックは、平民の少女を連れて現れ、堂々と言い放った。
「身分など関係ない。彼女こそ、私の真実の愛だ」
だがその一方で、彼は平民や下級貴族を露骨に見下し、使用人を人間扱いすらしない傲慢な人物だった。
そんな彼の振る舞いに違和感を抱いたのは、王宮図書室に通う地味な令嬢アウレリア。
古文書や家系記録を研究する彼女の正体は、王国の貴族制度を守るために存在する一族――系譜検察官の家系の娘だった。
「公爵家にしては……家系が妙です」
調査を進めるアウレリアは、やがて驚くべき事実に辿り着く。
――その公爵家の家系図は、偽造されたものだった。
王宮舞踏会での公開の場。
提出された調査報告書により、王命が下る。
爵位剥奪。
財産没収。
そして貴族身分の完全剥奪。
貴族を名乗り、平民を見下していた男に突きつけられる残酷な真実。
「私は貴族だ!」
叫ぶ元公爵令息に、アウレリアは静かに告げる。
「いいえ。あなたは――ただの平民です」
平民を人間扱いしなかった男が、自らも平民だったと知るとき。
王国史に残る、最も皮肉なざまぁ事件が幕を開ける。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる