23 / 71
第四章 白薔薇を愛でる会
4
しおりを挟む
その後、二人は教室に戻って授業を受けた。
ロムル王国の王立学園では、貴族の子女は十五歳から十八歳までの間、ここで学ぶ。
一年目は一般教養の授業をAからFクラスに別れて受ける。クラスはもちろん入学前に受けたテストの成績順に振り分けられる。一番上がAクラスで、一番下がFクラスだ。ひとクラス二十人ほどで、シャンティエはA、ベルテはBだった。
二年目からは選択制となり、普通科、特進科、騎士科、魔法科に別れる。
普通科以外の科を選択する際は、適性検査を受ける。
特進科は更に高度な知識を習得しつつ、政治経済などを学ぶ。必要なのは一定以上の学力のため、難問ばかりの筆記試験を受ける。
騎士科はもちろん、武術の腕や体力を測る。
魔法科は魔力量と魔法の精度が求められる。
卒業後すぐに結婚するような令嬢達はほとんどが普通科に進み、令息達は特進科、騎士科、魔法科へ進む。
その人数の割合は時期によって違うそうだ。
将来は王太子妃、そして王妃となる予定だったシャンティエは特進科に進み、ベルテは魔法科へと進んだ。ちなみにアレッサンドロも特進科だった。
彼の成績では特進科に受かるはずもないと思っていたのに、なぜ彼が特進科に入れたのかベルテは不思議に思っていたのだが、受けた試験の結果も不正だったと判明し納得した。
ほかの科でも、最低限魔法の授業はあるのだが、魔法科はカリキュラムの二割が一般教養、五割が実技、後の三割が呪文や薬草、魔法陣などの教養科目という割合だ。
将来錬金術師を目指すベルテは、魔法科一択だった。
学舎の本館一階すべてが一年生のクラスで、二階に特進科と普通科の二、三年生のクラスがある。
魔法科と騎士科は広い裏庭がある北館にあって、北館と本館両方の棟を繋げるように食堂や図書館など共通の施設がある。
ヴァレンタイン・ベルクトフはかつて騎士科に進み、その成績はかなりのものだったらしい。
騎士科で一年に数回行われる総合武術大会において、在籍中は常に優勝候補だったとも聞く。
(美貌と才能、天は二物を与えないと言うけど、そんな人いるのね)
北館と本館を繋ぐ廊下には、学園創設以来行われている武術大会の歴代優勝者の写真と名前が掲示されている。
授業が終わり、食堂へ行くために廊下を歩きながら、ふと目にした彼の輝かしい栄光を、ベルテはぼんやりと眺めていた。
「ベルテ様、こちらです」
食事は並べられた品の中から自分の食べたい物を取ってトレイに乗せる。
ベルテはチキンサンドとスープ、そしてブドウやイチゴのフルーツだった。
空いた席を探していると、ベルテは声をかけられた。
「え、あ、えっとシャンティエ様?」
食堂の中央の辺りで、ベルテに満面の笑みでシャンティエが手を振っていた。
周りの生徒たちがそんなシャンティエとベルテ
を交互に見て注目している。
シャンティエは一人で食べていることが多い。ベルテも同様だったが、シャンティエの場合は、単に皆が彼女を特別視していて近寄り難かったからで、ベルテは無愛想で嫌煙されていたきらいがある。
「シャ、シャンティエ様、な、何か?」
何か用でもあるのかと思い、ベルテは近づいた。出来るだけ人目は集めたくないが、もう無駄だろう。それに、無視すればまた悪目立ちしてしまう。
「北館からはここまで距離がありますでしょ? ですから場所を確保しておきましたわ」
そう言って彼女は自分の前の席を指し示した。
確かに普通科と特進科の方が食堂に近く、魔法科の授業が終わってここに来ると、席がまったく空いていなくて暫く待つか、他へ行くことがある。
「あの、場所って…」
「お友達同士は、お昼を一緒に食べるものでしょう?」
「え?」
それを聞いて、ベルテは目を丸くしてシャンティエを見た。
「私…また何かおかしなことを申しましたか?」
そんなベルテを見て、シャンティエは眉根を寄せた。
「い、いえ…えっと確かに、友人同士でお昼を一緒に食べていますが…」
「あの、朝、お友達になっていただけるとおっしゃっていましたから、てっきりお昼を一緒に食べるものだと…」
友達になるとは言ったが、お昼を一緒に食べる約束はしていない。ほかの人たちも多分事前に約束をしてから食堂で落ち合ったりしているとは思う。じゃあお昼に食堂で、とやり取りしているのを何度かベルテは見たことがある。
が、シャンティエはその辺りのやり取りを目にすることがなかったのだろう。
「それで、お昼を一緒にと、待っていてくれたのですか?」
「ご、ご迷惑でしたか?」
ベルテの様子を窺い、その反応をじっと見守るシャンティエは、これまでの印象とはまったく違っていた。
王太子アレッサンドロの婚約者として、常に他の模範となるべく己を律してきたシャンティは、その仮面を取り払えば、普通の友達づきあいも知らない、気弱な令嬢だった。
「いえ、ありがとうございます」
机の上にトレイを置いて、ベルテはお礼を言った。
お礼を言われたシャンティエは、とても嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、あまり時間がありませんから、早く食べましょう」
「え、ええ」
二人で椅子に座る。
何人かはその様子を物珍しげに眺めていた。
婚約解消した相手の妹と、元婚約者の令嬢が仲睦まじげに食事を取る光景は、他から見れば奇妙に映るかも知れない。
ロムル王国の王立学園では、貴族の子女は十五歳から十八歳までの間、ここで学ぶ。
一年目は一般教養の授業をAからFクラスに別れて受ける。クラスはもちろん入学前に受けたテストの成績順に振り分けられる。一番上がAクラスで、一番下がFクラスだ。ひとクラス二十人ほどで、シャンティエはA、ベルテはBだった。
二年目からは選択制となり、普通科、特進科、騎士科、魔法科に別れる。
普通科以外の科を選択する際は、適性検査を受ける。
特進科は更に高度な知識を習得しつつ、政治経済などを学ぶ。必要なのは一定以上の学力のため、難問ばかりの筆記試験を受ける。
騎士科はもちろん、武術の腕や体力を測る。
魔法科は魔力量と魔法の精度が求められる。
卒業後すぐに結婚するような令嬢達はほとんどが普通科に進み、令息達は特進科、騎士科、魔法科へ進む。
その人数の割合は時期によって違うそうだ。
将来は王太子妃、そして王妃となる予定だったシャンティエは特進科に進み、ベルテは魔法科へと進んだ。ちなみにアレッサンドロも特進科だった。
彼の成績では特進科に受かるはずもないと思っていたのに、なぜ彼が特進科に入れたのかベルテは不思議に思っていたのだが、受けた試験の結果も不正だったと判明し納得した。
ほかの科でも、最低限魔法の授業はあるのだが、魔法科はカリキュラムの二割が一般教養、五割が実技、後の三割が呪文や薬草、魔法陣などの教養科目という割合だ。
将来錬金術師を目指すベルテは、魔法科一択だった。
学舎の本館一階すべてが一年生のクラスで、二階に特進科と普通科の二、三年生のクラスがある。
魔法科と騎士科は広い裏庭がある北館にあって、北館と本館両方の棟を繋げるように食堂や図書館など共通の施設がある。
ヴァレンタイン・ベルクトフはかつて騎士科に進み、その成績はかなりのものだったらしい。
騎士科で一年に数回行われる総合武術大会において、在籍中は常に優勝候補だったとも聞く。
(美貌と才能、天は二物を与えないと言うけど、そんな人いるのね)
北館と本館を繋ぐ廊下には、学園創設以来行われている武術大会の歴代優勝者の写真と名前が掲示されている。
授業が終わり、食堂へ行くために廊下を歩きながら、ふと目にした彼の輝かしい栄光を、ベルテはぼんやりと眺めていた。
「ベルテ様、こちらです」
食事は並べられた品の中から自分の食べたい物を取ってトレイに乗せる。
ベルテはチキンサンドとスープ、そしてブドウやイチゴのフルーツだった。
空いた席を探していると、ベルテは声をかけられた。
「え、あ、えっとシャンティエ様?」
食堂の中央の辺りで、ベルテに満面の笑みでシャンティエが手を振っていた。
周りの生徒たちがそんなシャンティエとベルテ
を交互に見て注目している。
シャンティエは一人で食べていることが多い。ベルテも同様だったが、シャンティエの場合は、単に皆が彼女を特別視していて近寄り難かったからで、ベルテは無愛想で嫌煙されていたきらいがある。
「シャ、シャンティエ様、な、何か?」
何か用でもあるのかと思い、ベルテは近づいた。出来るだけ人目は集めたくないが、もう無駄だろう。それに、無視すればまた悪目立ちしてしまう。
「北館からはここまで距離がありますでしょ? ですから場所を確保しておきましたわ」
そう言って彼女は自分の前の席を指し示した。
確かに普通科と特進科の方が食堂に近く、魔法科の授業が終わってここに来ると、席がまったく空いていなくて暫く待つか、他へ行くことがある。
「あの、場所って…」
「お友達同士は、お昼を一緒に食べるものでしょう?」
「え?」
それを聞いて、ベルテは目を丸くしてシャンティエを見た。
「私…また何かおかしなことを申しましたか?」
そんなベルテを見て、シャンティエは眉根を寄せた。
「い、いえ…えっと確かに、友人同士でお昼を一緒に食べていますが…」
「あの、朝、お友達になっていただけるとおっしゃっていましたから、てっきりお昼を一緒に食べるものだと…」
友達になるとは言ったが、お昼を一緒に食べる約束はしていない。ほかの人たちも多分事前に約束をしてから食堂で落ち合ったりしているとは思う。じゃあお昼に食堂で、とやり取りしているのを何度かベルテは見たことがある。
が、シャンティエはその辺りのやり取りを目にすることがなかったのだろう。
「それで、お昼を一緒にと、待っていてくれたのですか?」
「ご、ご迷惑でしたか?」
ベルテの様子を窺い、その反応をじっと見守るシャンティエは、これまでの印象とはまったく違っていた。
王太子アレッサンドロの婚約者として、常に他の模範となるべく己を律してきたシャンティは、その仮面を取り払えば、普通の友達づきあいも知らない、気弱な令嬢だった。
「いえ、ありがとうございます」
机の上にトレイを置いて、ベルテはお礼を言った。
お礼を言われたシャンティエは、とても嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、あまり時間がありませんから、早く食べましょう」
「え、ええ」
二人で椅子に座る。
何人かはその様子を物珍しげに眺めていた。
婚約解消した相手の妹と、元婚約者の令嬢が仲睦まじげに食事を取る光景は、他から見れば奇妙に映るかも知れない。
38
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる