その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

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第四章 白薔薇を愛でる会

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「殿下もベルクトフ小侯爵のことはご存知ですよね」
「も、もちろん」
「まさに芸術。神が造った奇跡。そう思われませんか」
「え、ま、まあ…」

 ベルテも彼の顔の良さは認める。
 昨日も何度も目が潰れそうになった。

「兄をそこまで評価していただけるのは有りがたいのですが、兄は神でもなければ鑑賞物でもありません。生身の人間です」
「そ、それは分かっておりますわ。生きているからこそ、同じ世界に同じ時代にいることを感謝しております」

 三人は手を合わして指を絡ませ、祈るようなポーズを取る。
 聞けば聞くほどヴァレンタインに対する思い入れが強く、ここで自分と彼が婚約をしたと言おうものなら、どう豹変されるかわからない。

「せっかくですが、兄は私の婚約については一切口出しをしませんでした。私の婚約であって兄の婚約ではありませんでしたから。冷たいように聞こえますが、兄の婚約について、私が勝手に話をするべきことではないと思っております。ですから、そのことで私に質問されても私は何も話しません」

 シャンティエはきっぱりと言い切った。

「もし兄が婚約したとして、それは兄自身が決めたことです。兄が望んだのなら、私はその意見を尊重します。あなた方がどれほど兄のことをご存知で、兄を大事に思われていても、兄の人生を左右する権利はありません。兄に命令できるのは国王陛下と家長である父だけです」
「そ、そんなこと…わかっておりますわ」
「なら、兄の婚約について、二度と私に聞いてこないで下さい」
「ということは、婚約は陛下と侯爵様がお決めになり、ほぼ確実ということかしら」

 うまく自分に話を振られないよう言ったつもりだったが、ルイーズたちはなおも言質を取るために食い下がった。

「『白薔薇を愛でる会』がどんな会で、どれほどの方々がいらっしゃるか存じませんが、個人のことにそこまで詮索する権利はありませんわ」
「わ、私達は、ただ…」

 シャンティエにきつく言われ、ルイーズたちはたじたじになった。
 周りもその成り行きを見守っていたが、ちょうどその時昼休憩の終わりを告げる鐘が鳴った。

「失礼、もう午後の授業が始まりますわ」

 ガタンとシャンティエがトレイを持って立ち上がった。

「ではベルテ様、私は級長ですので、遅れるわけにまいりません。これで失礼しますわ」
「へ、あ、はい。頑張って下さい」
「ありがとうございます。ベルテ様も、頑張って下さい。またお昼をご一緒してもよろしいですか?」
「あ、はい」

 にこりとシャンティエはベルテに微笑みかける。ヴァレンタイン・ベルクトフが白薔薇なら、シャンティエは白ユリのようだ。
 氷の美姫とも言われる彼女の微笑みは、ルイーズ達も一瞬見惚れて言葉を失っていた。
 これほどの美女を袖にしてカトリーヌに入れ込んだアレッサンドロの気がしれない。
 彼女がシャンティエに勝っていたのは、胸の大きさくらいだ。

「では皆さんも、ごきげんよう」

 そう言ってベルテやルイーズたちを置いてシャンティエは食堂を出て行った。

「結局、小侯爵は婚約するのかしら」
「そうねぇ、どっちだと思う?」

 残った者達の間で、そんな話が交わされた。

(うう、やっぱりあんな目立つ人と婚約だなんて、私には無理。これ以上ここにいてこっちに話が飛んでこないとも限らないわ。さっさと立ち去らないと)

 ベルテはそっと立ち上がってその場から立ち去ろうとした。

「王女様」
「は、はい!」

 そんなベルテにルイーズが声をかけてきた。

「アレッサンドロ様とベルクトフ嬢との婚約は、残念でしたわ。王女様も小侯爵様と義理とは言え、お身内になれましたのにね」
「い、いえ…私は別に…」

 勝手に残念がられても困る。ベルテは最初から何とも思っていなかったのだから。

「でも、小侯爵様は義理の兄弟になったからと、気安くお声をかけるような方ではありませんし、王女殿下のお立場をもってしても、何も変わりませんわね」
「え、だから、兄とシャンティエ様の婚約が決まってからも、ベルクトフ家の方々とそこまで仲良くは…」
「小侯爵様が仕えるのは国と陛下にであって、王女殿下ではありませんから、そこは勘違いなさらないほうがよろしいですわ」

 ベルテの否定をルイーズはまったく聞いていない。
 ベルテが王女としての立場と、義理の兄弟という状況を利用して、ヴァレンタインに近づこうと目論んでいたような言いようだった。

(『白薔薇を愛でる会』ってもしかして、皆こんな人なの?)

 そうだとしたら、まったく話が通じない。話が通じないのはアレッサンドロも同じだったが、彼はベルテを無視する人だったので、基本関わりは薄かった。

(や、やっぱり今日にでも彼に手紙を送って、考え直してもらおうかしら)

 ベルテは心の中でそう思った。
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