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第九章 好きな人
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王都の一番賑やかな場所である大通りの入口で馬車を降り、二人は歩くことになった。
これまでベルテはこんなふうに王都の中を歩いたことがない。それだけで目新しい気持ちだった。
認識阻害の魔法のお陰で、目立つヴァレンタインの容姿に誰も気づかない。
「いつもその眼鏡を掛けていればいいのでは?」
「今回はベルテ様と出かけるために許可をいただきましたが、変装魔法や認識阻害の魔道具の使用は犯罪にも使われることが多いので、簡単には使うことができません」
「なるほど」
確かに犯罪者が逃げ隠れするために使用しては問題だ。
「ここです」
話をしているうちに、目的地に辿り着いた。大通りから一本入った少し狭い通りの両脇に、テントを張った露店がいくつも並んでいる。
「ここは?」
そこは市場のようだった。
「骨董市です」
「骨董市‼」
「骨董品、お好きですよね」
「はい」
ベルテは目をキラキラさせて、一番近くの店に並んでいる品々を見た。
そこは主に花瓶や壺など陶器を扱っている。
向かいの店は金属類のようだ。
「ここは年代物から、比較的新しく造られた工芸品なども扱っています。必ずしも高価な物ばかりではありませんが、いい物が揃っています」
「そうみたいですね」
店先に高価な品を置いているわけもないので、軒先にある物はそれほど高くない。
それでもベルテは見ているだけで楽しかった。
「気に入った物があれば、言ってください。値段交渉します。こういうところでは、値切るのが当たり前ですから」
「値切るのですか?」
王女なので、学園での購買以外で、ベルテは買い物をしたことがない。
「ええ」
「へえ」
それを聞いて、ベルテは自分が世間知らずだということを実感した。
「とりあえず、端までひと通り見てから、後で気に入った店に寄りましょう」
「はい」
初めて来た骨董市にベルテはすっかり心を奪われていた。
それこそ同伴者がヴァレンタインだということも忘れるほどに。
しかし、ベルテが目を留めた品を買う際には、必ず彼が店主と交渉をしてくれて、お金も払ってくれた。
「ありがとうございます」
店主との交渉など、ベルテ一人では決して出来なかっただろう。
素直にベルテはお礼を言った。
その日ベルテが買ったのは、ガラスペンと一輪挿し、そしてブローチなどの装飾品だった。
ブローチはひとつはエンリエッタに。そしてもうひとつはシャンティエにあげるために買った。
「お金は後でお返しします」
ベルテは現金を持っていないので、すべてヴァレンタインがお金を払った。
「いえ、これはベルテ様に差し上げるつもりで買いましたから、お金は返していただく必要はありません」
「え、駄目ですよ。私がほしくて買ったのです。あなたのお金を遣わせるなんて…」
「私はあなたの喜ぶ顔が見られたことで、十分です」
「そ、そんなこと…」
「お嬢さん、彼氏に良いところを見させてあげなよ」
お金について話しているのを聞いた金物屋の店主が、そこに割って入った。
「そうだよ。女の子に払わせるなんて、男が廃るってもんだ。いらないって言ってるんだから、遠慮せず好意を受け取りな」
その隣にいた小間物屋の女性も賛同する。
「でも…」
「皆さんの言うとおり。ここは自分に花を持たせてください」
周りからそうだそうだと声がかかり、ベルテは不承不承ながらそれを受け入れた。
市場を後にして、別の通りへと向かった。
そこは食料品などが売られていて、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「では、今度私が何かあなたに買います」
「そんな気を遣わなくても。これくらいのお金は、騎士団の給料で払えます。侯爵家のお金ではなく、私が貰っている給金の範囲で買ったものですから、お気になさらないでください」
「いいえ、借りっぱなしは駄目です」
「では、今度、騎士団で遠征に行く際に、見送りに来ていただけますか?」
「遠征?」
「はい。近いうちに魔獣駆除に騎士団が派遣されます」
毎年春先と夏の終わりに魔獣が繁殖期を迎える。その頃に増えすぎた魔獣を討伐に騎士団を二つに分けて交互に派遣されている。
夏の終わりの討伐は、ヴァレンタインも加わるという。
「それはいつ頃ですか?」
「来月後半には出発します」
「それに婚約者として見送りに?」
「ええ。いつもは家族が来てくれていましたが、今年はベルテ様に来てもらえると嬉しいです」
「本当に、そう思いますか?」
ヴァンがヴァレンタインのことを良く知れば、彼がどんな人間かわかると言っていた言葉を信じ、彼のことを知ろうとするが、今日の彼は終始ニコニコしていて、とらえどころがない。
ベルテとの時間をとても楽しんでいるようにも思えるが、本当にそうなのだろうか。
「どういう意味ですか?」
「あなたも色々大変みたいですから、私みたいなものでも虫除けに役立っているようですけど、それなら私でなく、本当に好きな人が側にいた方がいいのではないですか?」
あれこれ詮索したり匂わせるのは得意ではないベルテは、率直に疑問をぶつけた。
これまでベルテはこんなふうに王都の中を歩いたことがない。それだけで目新しい気持ちだった。
認識阻害の魔法のお陰で、目立つヴァレンタインの容姿に誰も気づかない。
「いつもその眼鏡を掛けていればいいのでは?」
「今回はベルテ様と出かけるために許可をいただきましたが、変装魔法や認識阻害の魔道具の使用は犯罪にも使われることが多いので、簡単には使うことができません」
「なるほど」
確かに犯罪者が逃げ隠れするために使用しては問題だ。
「ここです」
話をしているうちに、目的地に辿り着いた。大通りから一本入った少し狭い通りの両脇に、テントを張った露店がいくつも並んでいる。
「ここは?」
そこは市場のようだった。
「骨董市です」
「骨董市‼」
「骨董品、お好きですよね」
「はい」
ベルテは目をキラキラさせて、一番近くの店に並んでいる品々を見た。
そこは主に花瓶や壺など陶器を扱っている。
向かいの店は金属類のようだ。
「ここは年代物から、比較的新しく造られた工芸品なども扱っています。必ずしも高価な物ばかりではありませんが、いい物が揃っています」
「そうみたいですね」
店先に高価な品を置いているわけもないので、軒先にある物はそれほど高くない。
それでもベルテは見ているだけで楽しかった。
「気に入った物があれば、言ってください。値段交渉します。こういうところでは、値切るのが当たり前ですから」
「値切るのですか?」
王女なので、学園での購買以外で、ベルテは買い物をしたことがない。
「ええ」
「へえ」
それを聞いて、ベルテは自分が世間知らずだということを実感した。
「とりあえず、端までひと通り見てから、後で気に入った店に寄りましょう」
「はい」
初めて来た骨董市にベルテはすっかり心を奪われていた。
それこそ同伴者がヴァレンタインだということも忘れるほどに。
しかし、ベルテが目を留めた品を買う際には、必ず彼が店主と交渉をしてくれて、お金も払ってくれた。
「ありがとうございます」
店主との交渉など、ベルテ一人では決して出来なかっただろう。
素直にベルテはお礼を言った。
その日ベルテが買ったのは、ガラスペンと一輪挿し、そしてブローチなどの装飾品だった。
ブローチはひとつはエンリエッタに。そしてもうひとつはシャンティエにあげるために買った。
「お金は後でお返しします」
ベルテは現金を持っていないので、すべてヴァレンタインがお金を払った。
「いえ、これはベルテ様に差し上げるつもりで買いましたから、お金は返していただく必要はありません」
「え、駄目ですよ。私がほしくて買ったのです。あなたのお金を遣わせるなんて…」
「私はあなたの喜ぶ顔が見られたことで、十分です」
「そ、そんなこと…」
「お嬢さん、彼氏に良いところを見させてあげなよ」
お金について話しているのを聞いた金物屋の店主が、そこに割って入った。
「そうだよ。女の子に払わせるなんて、男が廃るってもんだ。いらないって言ってるんだから、遠慮せず好意を受け取りな」
その隣にいた小間物屋の女性も賛同する。
「でも…」
「皆さんの言うとおり。ここは自分に花を持たせてください」
周りからそうだそうだと声がかかり、ベルテは不承不承ながらそれを受け入れた。
市場を後にして、別の通りへと向かった。
そこは食料品などが売られていて、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「では、今度私が何かあなたに買います」
「そんな気を遣わなくても。これくらいのお金は、騎士団の給料で払えます。侯爵家のお金ではなく、私が貰っている給金の範囲で買ったものですから、お気になさらないでください」
「いいえ、借りっぱなしは駄目です」
「では、今度、騎士団で遠征に行く際に、見送りに来ていただけますか?」
「遠征?」
「はい。近いうちに魔獣駆除に騎士団が派遣されます」
毎年春先と夏の終わりに魔獣が繁殖期を迎える。その頃に増えすぎた魔獣を討伐に騎士団を二つに分けて交互に派遣されている。
夏の終わりの討伐は、ヴァレンタインも加わるという。
「それはいつ頃ですか?」
「来月後半には出発します」
「それに婚約者として見送りに?」
「ええ。いつもは家族が来てくれていましたが、今年はベルテ様に来てもらえると嬉しいです」
「本当に、そう思いますか?」
ヴァンがヴァレンタインのことを良く知れば、彼がどんな人間かわかると言っていた言葉を信じ、彼のことを知ろうとするが、今日の彼は終始ニコニコしていて、とらえどころがない。
ベルテとの時間をとても楽しんでいるようにも思えるが、本当にそうなのだろうか。
「どういう意味ですか?」
「あなたも色々大変みたいですから、私みたいなものでも虫除けに役立っているようですけど、それなら私でなく、本当に好きな人が側にいた方がいいのではないですか?」
あれこれ詮索したり匂わせるのは得意ではないベルテは、率直に疑問をぶつけた。
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