2 / 47
第1章 酒は飲んでも飲まれるな
1
しおりを挟む
これが最後だと言われたエールの、残り半分を飲み終える。
「なんで・・」
空になったコップを見つめながら、マリベルは涙を浮かべて呟く。
「なんで、わたしばっかり」
(お父さん)
心の中で一ヶ月前に事故で亡くなった父親のゲオルグを思い出す。
(お父さん、どうして死んじゃったの)
娘のマリベル同様、甘党なのでお酒は好きではない父が、その日は外でお酒を飲んで酷く酔っ払い溝に落ちて死んだ。
しかも死んでいた場所は裏寂れた人気の無い路地。
誰と飲んでいたのか、なぜそんな所にいたのか未だにわかっていない。
マリベルはデストーニア国の王都の次に大きな街、ラセルダに住んでいる。
母親のフロイラはマリベルが八歳の時に亡くなっていて、冒険者だった父はマリベルを育てるため、引退してラセルダの冒険者ギルドのギルド長になった。
それから十二年。マリベルは二十歳になり、二年前からギルドの受付兼回復術士として働いていた。
彼女の仕事は冒険者登録に関する事務と、冒険者への依頼を受けてその依頼にランク付けをして掲示板に貼りだすこと。それから張り出された依頼を引き受けたいという冒険者に対し、正式に依頼の橋渡しをする。依頼を完了させた冒険者にその実績に見合った報酬を渡すことなど。
受付は常時五人ずつ控えている。
マリベルは治癒魔法が使えるため、医務室に運ばれてくる冒険者の治療にもあたる。
父親が亡くなった日、受付の一人が休みだっため、マリベルは残業になった。
家に帰ったマリベルは、ちょうど出かけようとする父親に出会った。
「遅くなるから先に寝ていなさい」
そう言われ、寝る支度をしてベッドに入って程なくして、マリベルはたたき起されることになった。
死因は溺死だった。
すでに冷たくなった父親の濡れた死に顔を見て、悪夢を見ているのかと思った。
でもそれは現実で、マリベルは自分がひとりぼっちになったと悟った。
父親の葬儀は大勢の人たちが押しかけ、皆がいい人を亡くしたとお悔やみを言う中、マリベルは生気のない状態で対応した。
それが約ひと月前のこと。
葬儀の後は、ギルド長に宛がわれていた宿舎も出て行かなければならず、悲しむ余裕もなく荷物を片付け、住むところを探した。
ギルド職員の伝手を使って条件を言って探していると、ちょうどいい物件が見つかった。
老夫婦が営んでいる下宿屋で、ギルドにも近い。何よりの魅力はその家賃の安さだった。
新しいギルド長はてっきり副ギルド長のマルセロがなるものと思っていたが、意外にも別の人物が就任した。
マルセロは事務職から現在の地位に就いたが、ラドリア=ルヴォリという人物は、この前まで冒険者だった。マリベルの父親も冒険者からいきなりギルド長に抜擢された。
各都市にギルドはあるが、ひとつひとつが大きな冒険者ギルドという組織の支部に過ぎず、本部は王都にある。
副ギルド長とギルド長はその本部で決めることになっているので、決定には従わざるを得ない。
「現場しかしらない人間に組織の運営などできるわけがない」
人事を聞いて悔しそうにマルセロさんがぼやいていた。
しかし、皆マルセロさんがギルド長にならなくてほっとしている。彼はとにかく権威主義で、上にはへいこらするのに、下に対する態度は威圧的でヒステリックで、平然と人を贔屓するいやな人物だった。
ただ、全く新しいボスが来ると聞いて、これまでのように仕事をさせてもらえるかと、職員は心配していた。
組織というものは長が変われば雰囲気はがらりと変わる。
しかし意外にもルヴォリ新ギルド長は気さくで面倒見が良く、何より働いている皆のことを考えてくれる人だった。
マリベルのことも、ギルド長の会議で王都へ行った際に何度か父親と言葉を交わしたと言って、とても気に掛けてくれた。
新しく住むところも安い家賃で良いところが見つかり、突然の父の死から少し前向きになりかけたマリベルに、まだまだショックなことが待ち受けていた。
「なんで・・」
空になったコップを見つめながら、マリベルは涙を浮かべて呟く。
「なんで、わたしばっかり」
(お父さん)
心の中で一ヶ月前に事故で亡くなった父親のゲオルグを思い出す。
(お父さん、どうして死んじゃったの)
娘のマリベル同様、甘党なのでお酒は好きではない父が、その日は外でお酒を飲んで酷く酔っ払い溝に落ちて死んだ。
しかも死んでいた場所は裏寂れた人気の無い路地。
誰と飲んでいたのか、なぜそんな所にいたのか未だにわかっていない。
マリベルはデストーニア国の王都の次に大きな街、ラセルダに住んでいる。
母親のフロイラはマリベルが八歳の時に亡くなっていて、冒険者だった父はマリベルを育てるため、引退してラセルダの冒険者ギルドのギルド長になった。
それから十二年。マリベルは二十歳になり、二年前からギルドの受付兼回復術士として働いていた。
彼女の仕事は冒険者登録に関する事務と、冒険者への依頼を受けてその依頼にランク付けをして掲示板に貼りだすこと。それから張り出された依頼を引き受けたいという冒険者に対し、正式に依頼の橋渡しをする。依頼を完了させた冒険者にその実績に見合った報酬を渡すことなど。
受付は常時五人ずつ控えている。
マリベルは治癒魔法が使えるため、医務室に運ばれてくる冒険者の治療にもあたる。
父親が亡くなった日、受付の一人が休みだっため、マリベルは残業になった。
家に帰ったマリベルは、ちょうど出かけようとする父親に出会った。
「遅くなるから先に寝ていなさい」
そう言われ、寝る支度をしてベッドに入って程なくして、マリベルはたたき起されることになった。
死因は溺死だった。
すでに冷たくなった父親の濡れた死に顔を見て、悪夢を見ているのかと思った。
でもそれは現実で、マリベルは自分がひとりぼっちになったと悟った。
父親の葬儀は大勢の人たちが押しかけ、皆がいい人を亡くしたとお悔やみを言う中、マリベルは生気のない状態で対応した。
それが約ひと月前のこと。
葬儀の後は、ギルド長に宛がわれていた宿舎も出て行かなければならず、悲しむ余裕もなく荷物を片付け、住むところを探した。
ギルド職員の伝手を使って条件を言って探していると、ちょうどいい物件が見つかった。
老夫婦が営んでいる下宿屋で、ギルドにも近い。何よりの魅力はその家賃の安さだった。
新しいギルド長はてっきり副ギルド長のマルセロがなるものと思っていたが、意外にも別の人物が就任した。
マルセロは事務職から現在の地位に就いたが、ラドリア=ルヴォリという人物は、この前まで冒険者だった。マリベルの父親も冒険者からいきなりギルド長に抜擢された。
各都市にギルドはあるが、ひとつひとつが大きな冒険者ギルドという組織の支部に過ぎず、本部は王都にある。
副ギルド長とギルド長はその本部で決めることになっているので、決定には従わざるを得ない。
「現場しかしらない人間に組織の運営などできるわけがない」
人事を聞いて悔しそうにマルセロさんがぼやいていた。
しかし、皆マルセロさんがギルド長にならなくてほっとしている。彼はとにかく権威主義で、上にはへいこらするのに、下に対する態度は威圧的でヒステリックで、平然と人を贔屓するいやな人物だった。
ただ、全く新しいボスが来ると聞いて、これまでのように仕事をさせてもらえるかと、職員は心配していた。
組織というものは長が変われば雰囲気はがらりと変わる。
しかし意外にもルヴォリ新ギルド長は気さくで面倒見が良く、何より働いている皆のことを考えてくれる人だった。
マリベルのことも、ギルド長の会議で王都へ行った際に何度か父親と言葉を交わしたと言って、とても気に掛けてくれた。
新しく住むところも安い家賃で良いところが見つかり、突然の父の死から少し前向きになりかけたマリベルに、まだまだショックなことが待ち受けていた。
2
あなたにおすすめの小説
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
『平民を人間扱いしない公爵令息、あなたも平民です! ~系譜検察官の目は欺けません~
鷹 綾
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。
公爵令息アドリアン・ジオニックは、平民の少女を連れて現れ、堂々と言い放った。
「身分など関係ない。彼女こそ、私の真実の愛だ」
だがその一方で、彼は平民や下級貴族を露骨に見下し、使用人を人間扱いすらしない傲慢な人物だった。
そんな彼の振る舞いに違和感を抱いたのは、王宮図書室に通う地味な令嬢アウレリア。
古文書や家系記録を研究する彼女の正体は、王国の貴族制度を守るために存在する一族――系譜検察官の家系の娘だった。
「公爵家にしては……家系が妙です」
調査を進めるアウレリアは、やがて驚くべき事実に辿り着く。
――その公爵家の家系図は、偽造されたものだった。
王宮舞踏会での公開の場。
提出された調査報告書により、王命が下る。
爵位剥奪。
財産没収。
そして貴族身分の完全剥奪。
貴族を名乗り、平民を見下していた男に突きつけられる残酷な真実。
「私は貴族だ!」
叫ぶ元公爵令息に、アウレリアは静かに告げる。
「いいえ。あなたは――ただの平民です」
平民を人間扱いしなかった男が、自らも平民だったと知るとき。
王国史に残る、最も皮肉なざまぁ事件が幕を開ける。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる