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第1章 酒は飲んでも飲まれるな
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「え、えっと…では、マ、マリベル…さん」
「はい、フェルさん」
モジモジしながら名前を呼ぶフェルに対し、マリベルが答える。
「マリベル…さん」
「はい」
「マリベルさん」
「はい、何でしょう」
何度も何度もマリベルの名前を呼ぶ。その度に返事をしていい加減にしてと、言おうとしたが、不意にフェルが笑顔を曇らせた。
「ギルド長には、彼が冒険者の頃にお世話になりました。孤児の俺が養父に出会えたのも、マリベルさんのお父上のお陰なんです」
「え、そうなんですか」
さっきのマリベルの質問に対する返答が今になって返ってきた。
質問したマリベルもうっかり忘れるところだった。
マリベルの父が冒険者だったのはかなり昔。その頃のことはマリベルははっきり言ってあまり憶えていない。憶えているのは母親の死と、その後この街へ越してきたことくらいだ。
「知りませんでした。父はそんなことひと事も…」
「奥様を亡くした頃でしたし、色々とバタバタしていましたから…」
「だからこの街へ?」
「はい。ずっと会いたかったんですが、会う自信がなくて、ようやく胸を張って会いに来られたんです」
「・・・そう・・なんですか」
会う自信って何だろう。マリベルにとっては優しくて自慢の父だけど、運動不足で少しお腹も出てきた普通のおじさんだった。ギルド長という地位と言っても、貴族でもないしそんなに身構えるようなものでもない。
「ちょうどギルド長が亡くなった時、俺は遠くにいて、何を置いても飛んでくるべきだったと後悔しています。亡くなったと聞いて驚きました。とても残念です。彼のことは養父《ちち》と同じくらい尊敬していました」
「ありがとうございます。娘として、自分の父親のことをそんな風に思ってもらえて嬉しいです」
「本当に・・本当に、残念です。いつかあの人のことをゴニョゴニョ」
「え?」
「あ、いえ、何でも・・ゴニョゴニョ」
「・・・・」
どうも言葉の最後が聞き取りにくい。気にすることではないかも知れないけど、彼の口数が少ないのも人と話をするのに慣れていないのかも。
昨晩は色々迷惑をかけたみたいだが、父のことを尊敬してくれていて、その娘であるマリベルのことも気に掛けて世話をしてくれたんだろう。
「お世話になりました。何てお礼を言ったらいいか・・それに、この部屋・・もしかしてここって、クロステルですか」
よく見れば彼が持っているタオルも、さっきマリベルが寝ていた寝台のシーツにも、「CR」のマークが付いている。
「ホテル・クロステル」
ラセルダ一高級なホテル。
宿泊客も王侯貴族や富裕層ばかりの高級ホテル。これまで前を通ったことは何度かあっても、マリベルのお給料ではラウンジでお茶を飲むのが精一杯。
しかもこの広さと豪華さはスイートルームではないだろうか。
「クロステル・・・そんな名前だったか・・」
マリベルの問いに対し、フェルは口に手を当てて小首を傾げる。
まさか自分がどんなホテルに泊まっているのかわかっていなかったというのか。
「ラセルダへ行くならここがいいと知り合いが勧めてくれた。最初ここへ来たとき、どの部屋がいいか聞かれたから、紹介してくれた知り合いの名前を言ったらここに通されて、それから月に一回泊まるたびにこの部屋に通される」
「え、まさかフェルさん、ラセルダへ来る度にここに泊まっていたんですか?」
驚いてそう尋ねるマリベルに、フェルはこくりと頷いた。
「フェルさんって・・一体何者なんですか?」
はっきりは知らないが、一泊でマリベルの一ヶ月分のお給料は軽く飛ぶのは間違いない。そんな高級ホテルを常宿にするくらいお金持ちだとは思わなかった。
どこかの王侯貴族か何かかもという噂は、あながち憶測ではなかったのかも知れない。
「俺は・・冒険者だ」
どんと裸の胸を突き出し、彼からそんな言葉が返ってきた。
「はい、フェルさん」
モジモジしながら名前を呼ぶフェルに対し、マリベルが答える。
「マリベル…さん」
「はい」
「マリベルさん」
「はい、何でしょう」
何度も何度もマリベルの名前を呼ぶ。その度に返事をしていい加減にしてと、言おうとしたが、不意にフェルが笑顔を曇らせた。
「ギルド長には、彼が冒険者の頃にお世話になりました。孤児の俺が養父に出会えたのも、マリベルさんのお父上のお陰なんです」
「え、そうなんですか」
さっきのマリベルの質問に対する返答が今になって返ってきた。
質問したマリベルもうっかり忘れるところだった。
マリベルの父が冒険者だったのはかなり昔。その頃のことはマリベルははっきり言ってあまり憶えていない。憶えているのは母親の死と、その後この街へ越してきたことくらいだ。
「知りませんでした。父はそんなことひと事も…」
「奥様を亡くした頃でしたし、色々とバタバタしていましたから…」
「だからこの街へ?」
「はい。ずっと会いたかったんですが、会う自信がなくて、ようやく胸を張って会いに来られたんです」
「・・・そう・・なんですか」
会う自信って何だろう。マリベルにとっては優しくて自慢の父だけど、運動不足で少しお腹も出てきた普通のおじさんだった。ギルド長という地位と言っても、貴族でもないしそんなに身構えるようなものでもない。
「ちょうどギルド長が亡くなった時、俺は遠くにいて、何を置いても飛んでくるべきだったと後悔しています。亡くなったと聞いて驚きました。とても残念です。彼のことは養父《ちち》と同じくらい尊敬していました」
「ありがとうございます。娘として、自分の父親のことをそんな風に思ってもらえて嬉しいです」
「本当に・・本当に、残念です。いつかあの人のことをゴニョゴニョ」
「え?」
「あ、いえ、何でも・・ゴニョゴニョ」
「・・・・」
どうも言葉の最後が聞き取りにくい。気にすることではないかも知れないけど、彼の口数が少ないのも人と話をするのに慣れていないのかも。
昨晩は色々迷惑をかけたみたいだが、父のことを尊敬してくれていて、その娘であるマリベルのことも気に掛けて世話をしてくれたんだろう。
「お世話になりました。何てお礼を言ったらいいか・・それに、この部屋・・もしかしてここって、クロステルですか」
よく見れば彼が持っているタオルも、さっきマリベルが寝ていた寝台のシーツにも、「CR」のマークが付いている。
「ホテル・クロステル」
ラセルダ一高級なホテル。
宿泊客も王侯貴族や富裕層ばかりの高級ホテル。これまで前を通ったことは何度かあっても、マリベルのお給料ではラウンジでお茶を飲むのが精一杯。
しかもこの広さと豪華さはスイートルームではないだろうか。
「クロステル・・・そんな名前だったか・・」
マリベルの問いに対し、フェルは口に手を当てて小首を傾げる。
まさか自分がどんなホテルに泊まっているのかわかっていなかったというのか。
「ラセルダへ行くならここがいいと知り合いが勧めてくれた。最初ここへ来たとき、どの部屋がいいか聞かれたから、紹介してくれた知り合いの名前を言ったらここに通されて、それから月に一回泊まるたびにこの部屋に通される」
「え、まさかフェルさん、ラセルダへ来る度にここに泊まっていたんですか?」
驚いてそう尋ねるマリベルに、フェルはこくりと頷いた。
「フェルさんって・・一体何者なんですか?」
はっきりは知らないが、一泊でマリベルの一ヶ月分のお給料は軽く飛ぶのは間違いない。そんな高級ホテルを常宿にするくらいお金持ちだとは思わなかった。
どこかの王侯貴族か何かかもという噂は、あながち憶測ではなかったのかも知れない。
「俺は・・冒険者だ」
どんと裸の胸を突き出し、彼からそんな言葉が返ってきた。
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