恋人は謎多き冒険者

七夜かなた

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第4章 魔物の氾濫

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 ギルド長の要請に応じ、軍や魔道騎士団の反応は早く、次の日の昼にはやってきた。

 天馬が王都の方角の空から次々と大軍で現われ、地上に降り立つ。
 軍と魔道騎士団はそれぞれ別の機関だが、そのトップが国王であるのは同じ。
 普段は別々の任務に当たっているが、こういうときには協力体制を取っている。

「今回の軍の責任者はオリヴァー=ドウェストか」
「お久しぶりです。ルヴォリさん」

 オリヴァー=ドウェストは階級は上級大将。ギルド長とも顔見知りなのか、笑顔で握手する。

「ようこそ、副ギルド長のマルセル=イクリです」

 副ギルド長も挨拶を交わす。ドウェストはそちらにも愛想良く挨拶した。

「魔道騎士団副団長のアベル=ラストラスです」

 白銀の甲冑に身を包んだ男性も挨拶する。魔道騎士団の団長は黒の甲冑だと聞いていたが、副団長は眩しいまでの白く輝く甲冑だった。
 兜を取ったその顔は惚れ惚れするほどの美しさで、柔らかいウェーブのかかったプラチナブロンドに濃い緑の瞳は、いかにも育ちのいい貴族そのものだ。

 オリヴァーはギルド長と年まわりも近い屈強な体格をしている。
 アベルはすらりとした体格で、ずっと若い。年齢で言えばマリベルと同じくらいか少し上だろうか。
 甲冑を着て立つアベルに、周りの女性から熱いため息が漏れた。

「副団長?」
「団長は別の任務に当たっていて、直接現場に来ると思います」
魔物の反乱スタンビートより大事な任務か?」
魔物の反乱スタンビートより先に受けた任務です。それに、団長は無口で愛想が無くて人嫌いなので、こういった挨拶も普段から私の仕事なんです」
「今の魔道騎士団団長はマウリシオ=オーギルの後継者だったか。黒衣の鎧も引き継いだそうだな」
「魔力は前団長より上です。どれくらいなのか、副団長の私もはっきり知りません」
「化け物だな。しかし頼もしいことだ」
「それより状況は?」

 一通りの挨拶を済ませると、ドウェストの表情が険しくなった。

「今朝も偵察に行かせましたが、昨日より確実に状況は悪くなっています」
「精鋭でチームを組んでもう少し状況を探りましょう。何がどれだけいるのか、レベルの低い魔物ばかりなら問題ないが、S級クラスの魔物がいるとかなりやっかいです」
「もっともです」
「では、魔道騎士団から隠蔽魔法が得意な者を出しましょう」
「それは凄い。さすが魔道騎士団ですね」
「お世辞は結構です」

 副ギルド長の上滑りな言葉をラストラスは一蹴した。

「お世辞では・・」

 副ギルド長の笑顔が一瞬強張り、すぐにまいったな、ハハハハと笑った。
 自分よりかなり若いラストラスの態度に明らかに苛立っている。

 そんなやりとりをマリベル達は遠巻きに眺めていた。

「すごい、本物の魔導騎士団だ」
「軍の人たちもかっこいいわね」

 ギルド職員だけで無く、噂を聞きつけた街の人たちが羨望の眼差しで見つめる。
 普段ギルドにやってくる冒険者達は装備は似たようなものでも、基本は私服だ。
 パリッとした軍服や鎧を身につけた集団は、圧巻の眺めだった。

「おいおい、俺たちはどうでもいいのか」

 軍や騎士団とは別に集まってきた冒険者達が、そっちの方ばかりに気を取られていることに文句を言う。

「冒険者なんて普段からいやってくらい見ているけど、あっちは滅多に見られるものじゃないもの」
「俺たちだってB級やA級だ。デストーニア中の冒険者の中でも全体の25%しかいないぞ」
「それはそうですけど、やっぱり制服って格好いいじゃない」
「なら服だけ眺めていればいいだろ」
「着る人によるわ。軍や魔導騎士団ってエリートでしょ。やっぱり憧れるわ。貴族も多いし」
「なんだ、やっぱりそっちか。悪かったな、俺たち平民で。しかし本気でお貴族様が平民のあんたたちを相手にするわけないだろ」
「そんなことわかっているわ。別に付き合いたいとか、結婚したいとか思っているわけじゃないわ」
「そうよ、あくまで目の保養よ。あなたたちだって美人やスタイルのいい人は高嶺の花だと思っても思わず見るでしょ」
「それはまあ、男だからな」
「女でも同じよ。美形や品のある人は見ていてうっとりするし、ねえマリベル」
「え、あ、何?」

 皆の会話を側で聞きながら、フェルの方を見ていたマリベルは、不意に声を掛けられ慌てた。

「マリベルったら、どこ見ているのよ。せっかく軍人さんや騎士団の人たちが向こうにいるのに」
「マリベルは興味ないみたいよ。何しろつきあいたてほやほやの恋人があそこにいるから」
「やだ、そんなんじゃ」
「え、マリベルちゃん、恋人出来たの?」

 冒険者の一人が驚いて訊ねた。

「そうよ。しかもあそこにいる背の高い男前」

 エレンが指差し、皆がそっちを見る。フェルも軍隊や騎士団が気になるのか、少し離れたところからそちらを見ていた。
「まじか」「確かに男前だ」「いや俺の方が・・」などと彼らは口々に言う。
 自分に視線が向けられていることに気づいたフェルが気づいて、マリベル達の所に近づいてきた。
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