転生して要人警護やってます

七夜かなた

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182 公爵領での残りの日々

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翌朝、フランツさん一家が領主館を訪れた。
一家と言ってもモリーはまだ看病があり、母親も側に付き添うため、やって来たのはフランツさんとマリー、ミーシャさん夫婦だった。

一日経ってようやくティモシーの容態が落ち着いているということだった。

「彼の実家は今、繁忙期で両親もすぐには来られないということで、我々が責任をもって彼を看るつもりです」

殴られた顔や体の腫れ、骨折はいずれ治るとのことだが、歯が何本か抜かれ、爪も剥がされていた分は一生戻ることはない。

「結婚は予定どおりに行いますが、結婚式は延期してティモシーの体の具合を見て行う時期を考えたいと思います」

「今度のこと……こちらの事情に巻き込んで申し訳なかった。私が直接出向かなければならないところを、足を運んでもらってすまない。ティモシー君の治療に必要な費用や仕事に復帰するまでの生活はこちらで面倒をみよう」

フィリップ司祭たちのことはまだ世間には知らせていないが、司祭がいなくなったことはすぐに噂になるだろう。

フィリップ司祭たちの身分はここだけの話として、フランツさんたちに伝えた上で、殿下が謝った。

グスタフたちがどういう意図であの男たちを殺したのかは、今のところ不明だ。

殿下からの謝罪と申し出にフランツさんは慌ててて断ろうとしたが、頑として譲らない殿下に結局はその申し出を受け入れることにした。

フランツさんたちが帰るのと入れ替わりに警羅隊長がやってきた。

「………お申し付けどおり名前の上がっていた顔役は皆、拘束いたしました。皆、デリヒ氏の訃報をきいて抵抗は観念したようで、横領について白状いたしました。主犯格はやはりデリヒ氏だったようです。横領したお金は遊興や貴金属などの贅沢品の購入などに使用したとこのことです。殿下のおっしゃるとおりにそれらお金に変換できるものは変えて、不当に高額な負担を強いられていた者に返すなどの手筈を整えます」

「………デリヒの家族はどうしている?」

今回もっとも厳しいと言える罰を下されるべきデリヒ氏はすでに亡くなっている。
残る家族にはその罪を償うべく、私的財産は没収。妻には孤児院へ下働きの奉公を言い渡され、娘は規律が厳しいと評判の修道院に放り込まれる。

「奥方は………泡を吹いてその場に卒倒しました。娘は金切り声を上げて殿下の名を呼んでいました。………まことの相手を見捨てるのかとか何とか………」

隊長の顔には困り果てた表情が浮かんでいる。

「彼女の預け入れ先が決まるまで、もう少し辛抱して欲しい」

まだすぐには警羅隊の留置所預かりとなるため、殿下は申し訳なさそうに告げた。

「…………後少しとわかれば、幾分気も楽になりました」

諦めぎみに隊長がボソボソと呟く。
わめき散らすアネット嬢に対峙しなければならない過酷さを思うと同情を禁じ得ない。

殿下は彼らの働きに敬意と感謝を込めて励ました。

そして、全ての隊員に金一封を約束した。

その次の日、殿下はアリアーデ様とウィリアムさん、レイさんと共に王都へ旅立った。

私はもう暫く後、滞在先が決まってから向かうことになった。
エリックさんが護衛も兼ねて残ってくれ、クリスさんも思うところがあるらしく、同じく居残りとなった。

それからまもなくアネット嬢については、ネヴィルさんが探した受け入れ先の修道院に移送されることが決まった。
母親の方も行き先の孤児院が見つかり、夫の葬儀を終えてすぐにそちらへ送られた。

修道院は王都から北に、母親の受け入れ先となった孤児院は南にある。

デリヒ氏の葬儀はごく身内だけの細やかなものだった。
遺体は領内の共同墓地に埋葬された。

娘のアネット嬢も参列を特別に許可されたが、かつての華やかさは失われ、久々の母と娘の対面はただ二人泣きじゃくるだけだった。


殿下が王都に戻ると宣言し、ウィリアムさんたちも共に王都へ戻り元の職務に戻ることとなった。

クリスさんが今しばらく残りたいと申し出たのは、ミーシャさんとのことで色々とけじめをつけたいと考えてのことだった。


「もう支度は済んだの?」

部屋で荷物を片付けているときにマーサさんが部屋に入ってきた。

「短い間でしたが、お世話になりました」

作業していた手を止め、マーサさんに向き直る。

「私がしたのはお説教くらいよ。王都に戻っても、私のことはもう一人のお母さんだと思って何かあったらいつでも連絡してね」

既にマーサさんにも私がローリィ・ハインツになる前のことについては伝えられている。
そのせいか、彼女は私に対していくらか過保護になったように感じる。

「……気を遣っていただいてありがとうございます。父母とは死に別れましたが、こうして皆さんが私を気にかけてくれて、本当にうれしいです」

師匠夫妻やウィリアムさんたち、マーサさんや皆が私を気にかけて支えてくれる。
それが本当に心の支えになっていた。それに……

「キルヒライル様もおりますしね」

私の頭の中を読んだのか、マーサさんの言葉にどきりとした。

「……年を取ると色々な経験をしますから、表情を見ればわかります。キルヒライル様のことを考えているときは、ちゃんと女性の顔ですから」

マーサさんの表現に私は顔を赤くした。耳まで赤くなっているのがわかる。

「そ、そんなにわかりやすいですか?」

マーサさんはメンタリストの技術でもあるのだろうか。

ウィリアムさんたちは元の職に戻ることが決まっている。私の元職(?)は舞屋の居候兼用心棒だが、それでは無用心過ぎる。いつグスタフたちに遭遇するかわからない。

私のメイドとしての力量はたかが知れている。所詮は付け焼き刃の技術のみ。警護という付加価値があってこそ及第点と言える。

「こちらへ来る前にお世話になったハレス子爵のお屋敷で受け入れていただけることになりました」

「どこに行っても自分の体を大切にね。決して無茶をして怪我なんかしないでね。キルヒライル様のためにも。あなた、夢中になると無茶するから」

マーサさんはキルヒライル様のためにも、という部分を強調する。

「はい、キルヒライル様の足手まといになって余計な心配をかけないようにします」

私がそう答えると、マーサさんは複雑な顔をした。

「………そう言う意味では……もちろん、あなたが怪我をすれば殿下は心配でしょうが……女の子があまり体に傷を作るのは………」

ボソボソとマーサさんが呟く。前世で三十まで生きていた私はローリィとしてなら気づかなかったマーサさんの含みに気づいた。

「マーサさん、それは飛躍し過ぎです。私とキ……殿下は何も………」

殿下を育てた乳母のマーサさんからそんな風に思われていたのかと、恥ずかしい限りだ。

「………もちろん、将来のことは誰にもわかりません……自分を大事にすることは忘れないでね」

あまりそのことについて色々言ってもと思ったのか、マーサさんはそのことにはそれ以上何も言わず、ただ私のことを心配してくれた。

その日の夜は皆でお別れの宴を催した。

こうして私の公爵領での皆と別れ、再び王都へと向かった。


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