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221 私の方が若いです

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子爵の声かけで急遽始まった師匠の練習は、かつてウィリアムさんと私が剣を交えた場所で行われた。

急に決まったこととは言え、非番の者を除いたハレス邸にいる騎士団上がりの使用人たちの殆どが集まり、いつも以上の賑わいでまるで騎士団の修練場のようになった。

最初は一対一から始まった試合が、次から次へと向かってくるので面倒だという師匠の一言で、私と師匠のチーム対全員に発展していった。

仕事のため見学できないことを子爵はとても残念がっていた。

周りではアンジェリーナ様を始め皆が見物して、一大イベントのようになっていた。

皆で打ち合いの後で定番となった私のレシピで厨房の人が作ってくれたスポーツ飲料を飲んでいると、傍らに師匠が近づいてきた。

「王都行きを進めたのは俺だが、ウィリアムたちがいるとは言え、都会でやっていけるか心配だったが、皆、いい人ばかりだな」
「はい。エドワルド公爵領の皆さんもいい人ばかりですよ」

同じように飲み物を飲みながら談笑している皆を眺めて私も頷く。特段苦労もなく舞屋の皆や子爵邸の方たちと出会えたのは運がいいとしか思えない。

「その分、厄介な出会いもあったみたいだがな」

グスタフやフィリップ司祭たちのことを示唆しているとわかり、私はまた頷く。

「王族の方々と出会える機会なんて、普通にしていてそうあるもんじゃない。そこを引き当てるってのは運がいいのか悪いのか……いい方なんだろうとは思うが……もしこの先、王弟殿下に関わっていくなら苦労するのはお前だぞ」

師匠の言わんとする意味はわかる。ロイシュタール国王の弟で公爵。そんなハイブランドの殿下と元貴族の娘とのいく先にある困難を危惧し心配してくれているのだ。

「弟子を信用してください」

何の根拠もないが、互いの気持ちが変わらない限り、案外何でも乗り越えられる気がしている。

口に杯を傾けながら見下ろしていた師匠が、ごくりと一口飲んでから残った中身を見つめふっと笑った。

「時々お前は俺より年上なんじゃないかと思う」

その言葉に頭の中で計算してみる。前世と合わせて四十九。(アイスヴァインを出た頃は十八だったが、いつの間にかひとつ年を取っていた)

「師匠は今年いくつですか?」
「もうすぐ五十八になる」
「じゃあ、まだまだ私の方が若いです」

どれくらい離れているかは言わず、そう言うと師匠はコツンと私の頭を叩く。

「当たり前だ」










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