61 / 91
61 もうすぐ卒業②
しおりを挟む
「クッキー?君が作ったの?」
「はい。昔、お姉さまとよく作って…」
「どのお姉さまと?」
「え?」
彼女がレーヌと仲良くクッキーを焼くとは思えない。だとすれば、どこのお姉さまのことを言っているのかと、ギャレットは尋ねた。
「あの、おっしゃる意味が…」
「アベリー侯爵家のご子息に嫁がれたレーヌ様ですわ。ミーシャのお姉さまは彼女一人で他に姉妹はおりませんもの」
ミーシャの隣りにいた女子生徒が説明する。
「レーヌ様のことは知っている。だが、レーヌ様が彼女とクッキーを焼く姿が想像できなかっただけだ」
「た、確かに…姉と私は八歳離れておりますから…」
ギャレットの言葉にミーシャはモゴモゴと補足する。
「悪いけど、それはいらない。君たちで食べるといい」
「え、でも」
「得体のしれないものは食べない。僕は決まった人が作ったものしか口にしない」
ギャレットはキッパリ撥ね退けた。
「で、でも…私…」
拒絶されてミーシャは俯き、泣きそうな声で呟く。
「ギャレット、下級生を苛めるなよ」
「苛めていない。頼んでもいないのに、手作りだと言って押し付ける方がどうかと思うが。そもそも僕が誰から差し入れも受け取らないのは、周知の事実だ。マルセルも知っているじゃないか」
「それはそうだけど…」
これまでも差し入れだと称して食べ物を持ってこられたりしたが、そのどれもギャレットは受け取ったことがなかった。
「知らなかったのかもしれないので、伝えておくけど、今後こういうことはしなくていい。ほしいものがあれば自分で手配できるから」
「ミーシャ、話が違うわ」
後ろにいた子がぼそりと言った。
「し、黙っててよ」
それに向かってミーシャは物凄い形相で睨みつけ、すぐに悲しそうな表情を取り繕ってこちらを見た。
「申し訳ございません。ギャレット様はレーヌお姉さまとも、アベリー侯爵家とも家族ぐるみでお付き合いされていらっしゃるので、私のこともお見知り置き頂いて…」
「もちろん君が誰かは知っている。悪いけど、君とはステファンたちの結婚式以降会うのは初めてだ。僕は君のことを顔と名前以外知らないし、知るつもりも知りたいとも思わない」
母親と一緒になってミーシャが姉を苛めていたことは、ステファンと結婚した後、レーヌから聞いた。
ステファンも気づいていたが、それまでレーヌは彼女らを庇って口を噤んでいた。
真実を知ってステファンもアベリー家の人たちも抗議しようとしたが、レーヌがそれを止めた。
彼女たちがいつか改心してレーヌに謝ってくることはないだろうが、レーヌは家のため何もしないでくれと頼んだ。
なぜ彼女がそこまでオハイエ家のことを気にするのかわからなかったが、ギャレットもミーシャの本性をわざわざ告げることはしないつもりだった。
「だから学園で見かけても、わざわざ話しかけてくれなくてもいい」
「わ、私…」
冷たいギャレットの突き放した言い方にミーシャは驚いている。
なぜそこまで言われるのかわからないと言った表情に、ギャレットは呆れるしかなかった。
確かに容姿は整っているが、本性を知っているギャレットから見れば、ヘドロのような腐った悪臭が身内から漂っているのがわかる。
「おいおい、ギャレット、そこまで言わなくても」
「これでも穏便に言っているつもりだ。そういうことだから…」
「あ、あの…ギャレット様」
立ち去ろうとするギャレットにミーシャが袖を掴んで引き止めた。
「離せ、それから、君はどのクラスだ?」
「え、あ、あの…Eクラスです」
「E? レーヌ様はずっと特進だったのに?」
そう言うと、ミーシャは顔を赤らめた。
「あ、姉は…勉強だけが取り柄で…父も母も女なら学よりもっと大切なものがあると…だから私は他のことで…」
姉を貶める言い方をギャレット鼻で笑った。
「人にはそれぞれ持って生まれた才能が違う。成績だけで人を判断するのは平等とはいわないし、馬鹿にするつもりもない。努力の結果が今の成績なら今から頑張ればいいし、たとえ結果が伴わなくても、努力したことは評価すべきことだ。でも姉を誇りに思えないその言い方は気に入らない。血の繋がりがなくても、目標にして尊敬することは出来た筈だ。ご両親はそのことを君に教えず、努力するということを放棄したようだな」
オハイエ伯爵夫人がレーヌのことを、勉強ばかりの人間だとお茶会などで吹聴していたのは、ナディアたちから聞いていた。
たとえ特進に入れる頭脳がなかったとしても、それは仕方がないことだ。しかし、たとえ血の繋がりがなくても、姉のことを自慢できないのは、彼女たちがレーヌを大事に思っていないからだ。
「わ、私…」
「ごめん、友人を待たせているからもう行くよ、行こうマルセル」
「あ、ああ…」
黙り込んでしまったミーシャを置いてギャレットは立ち去った。
「はい。昔、お姉さまとよく作って…」
「どのお姉さまと?」
「え?」
彼女がレーヌと仲良くクッキーを焼くとは思えない。だとすれば、どこのお姉さまのことを言っているのかと、ギャレットは尋ねた。
「あの、おっしゃる意味が…」
「アベリー侯爵家のご子息に嫁がれたレーヌ様ですわ。ミーシャのお姉さまは彼女一人で他に姉妹はおりませんもの」
ミーシャの隣りにいた女子生徒が説明する。
「レーヌ様のことは知っている。だが、レーヌ様が彼女とクッキーを焼く姿が想像できなかっただけだ」
「た、確かに…姉と私は八歳離れておりますから…」
ギャレットの言葉にミーシャはモゴモゴと補足する。
「悪いけど、それはいらない。君たちで食べるといい」
「え、でも」
「得体のしれないものは食べない。僕は決まった人が作ったものしか口にしない」
ギャレットはキッパリ撥ね退けた。
「で、でも…私…」
拒絶されてミーシャは俯き、泣きそうな声で呟く。
「ギャレット、下級生を苛めるなよ」
「苛めていない。頼んでもいないのに、手作りだと言って押し付ける方がどうかと思うが。そもそも僕が誰から差し入れも受け取らないのは、周知の事実だ。マルセルも知っているじゃないか」
「それはそうだけど…」
これまでも差し入れだと称して食べ物を持ってこられたりしたが、そのどれもギャレットは受け取ったことがなかった。
「知らなかったのかもしれないので、伝えておくけど、今後こういうことはしなくていい。ほしいものがあれば自分で手配できるから」
「ミーシャ、話が違うわ」
後ろにいた子がぼそりと言った。
「し、黙っててよ」
それに向かってミーシャは物凄い形相で睨みつけ、すぐに悲しそうな表情を取り繕ってこちらを見た。
「申し訳ございません。ギャレット様はレーヌお姉さまとも、アベリー侯爵家とも家族ぐるみでお付き合いされていらっしゃるので、私のこともお見知り置き頂いて…」
「もちろん君が誰かは知っている。悪いけど、君とはステファンたちの結婚式以降会うのは初めてだ。僕は君のことを顔と名前以外知らないし、知るつもりも知りたいとも思わない」
母親と一緒になってミーシャが姉を苛めていたことは、ステファンと結婚した後、レーヌから聞いた。
ステファンも気づいていたが、それまでレーヌは彼女らを庇って口を噤んでいた。
真実を知ってステファンもアベリー家の人たちも抗議しようとしたが、レーヌがそれを止めた。
彼女たちがいつか改心してレーヌに謝ってくることはないだろうが、レーヌは家のため何もしないでくれと頼んだ。
なぜ彼女がそこまでオハイエ家のことを気にするのかわからなかったが、ギャレットもミーシャの本性をわざわざ告げることはしないつもりだった。
「だから学園で見かけても、わざわざ話しかけてくれなくてもいい」
「わ、私…」
冷たいギャレットの突き放した言い方にミーシャは驚いている。
なぜそこまで言われるのかわからないと言った表情に、ギャレットは呆れるしかなかった。
確かに容姿は整っているが、本性を知っているギャレットから見れば、ヘドロのような腐った悪臭が身内から漂っているのがわかる。
「おいおい、ギャレット、そこまで言わなくても」
「これでも穏便に言っているつもりだ。そういうことだから…」
「あ、あの…ギャレット様」
立ち去ろうとするギャレットにミーシャが袖を掴んで引き止めた。
「離せ、それから、君はどのクラスだ?」
「え、あ、あの…Eクラスです」
「E? レーヌ様はずっと特進だったのに?」
そう言うと、ミーシャは顔を赤らめた。
「あ、姉は…勉強だけが取り柄で…父も母も女なら学よりもっと大切なものがあると…だから私は他のことで…」
姉を貶める言い方をギャレット鼻で笑った。
「人にはそれぞれ持って生まれた才能が違う。成績だけで人を判断するのは平等とはいわないし、馬鹿にするつもりもない。努力の結果が今の成績なら今から頑張ればいいし、たとえ結果が伴わなくても、努力したことは評価すべきことだ。でも姉を誇りに思えないその言い方は気に入らない。血の繋がりがなくても、目標にして尊敬することは出来た筈だ。ご両親はそのことを君に教えず、努力するということを放棄したようだな」
オハイエ伯爵夫人がレーヌのことを、勉強ばかりの人間だとお茶会などで吹聴していたのは、ナディアたちから聞いていた。
たとえ特進に入れる頭脳がなかったとしても、それは仕方がないことだ。しかし、たとえ血の繋がりがなくても、姉のことを自慢できないのは、彼女たちがレーヌを大事に思っていないからだ。
「わ、私…」
「ごめん、友人を待たせているからもう行くよ、行こうマルセル」
「あ、ああ…」
黙り込んでしまったミーシャを置いてギャレットは立ち去った。
62
あなたにおすすめの小説
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる