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第7章 専属契約
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この前の女性がマティの妻だと知り、イヴォンヌは驚いたが、アネカはわかっていたらしく、驚くそぶりを見せなかった。
「アネカは知っていたのですか?」
「紹介者が同じ人物だったし、聞いた状況からそうだと思っていた」
「そう……だったんですね」
「黄昏の家」に来る事情は聞いても、相手の素性は聞かないのがここの決まりだ。だから気づいていても、しらないフリをしたそうだ。
「兄が悩んでいたように、義姉も悩んでいたそうです。兄夫婦が決められた日に床を共にしていたのは、既にご承知のことと思いますが、昨晩がちょうどその日でした」
エーリヒが、兄夫婦のことについて説明を始めた。
「その時、夜の夫婦生活についての考えを、兄は初めて彼女から聞いたそうです。そして、夫婦の夜についての認識が間違っていたことを知り、これから変えて行きたいと言われたそうです。夫婦の寝室で、兄は初めて彼女と目を合わせたと、申しておりました」
きっと彼女はこれまでは目を閉じて、ただ夫が行為を終えるのを待っていたのだろう。
「二人で話し合い、今後は別々でなく、二人で『房中術』を実践していこうということになったそうです」
「まあ、それは良かったです」
一度会っただけで、ジルのすべてを知っているわけではないが、夫に打ち明けることは、崖から飛び降りるくらいの勇気がいったに違いない。
「ここに来たおかげだと、感謝しておりました」
「そんな……ありがとうございます」
ジルが己の殻を破り、一歩を踏み出したのが、ここに来たのがきっかけだと聞き、誰かの役に立てたことに、イヴォンヌは誇らしく思った。
「少しでもお二人の力になれるよう、これから頑張ります」
「ついては、改めて日程を調整し、二人一緒にお願いしたいと言うことです。構わないでしょうか」
「もちろん、こちらは構いません。ね、イヴィ」
「はい。かしこまりました」
真っ直ぐに背筋を伸ばし、イヴォンヌは二人の顔をはっきり見て言った。胸には誇らしさが沸き上がる。
その気持ちがイヴォンヌの水色の瞳をいきいきと輝かせ、エーリヒがそれに目を奪われたことに、気づいていたのはアネカだけだった。
「それで、相談なのだが、兄夫婦二人一緒になると、街中まで出てくるのは難しい。申し訳ないが馬車を手配するので、兄達の住む場所まで出張してもらえないだろうか」
「わかりました」
マティとエーリヒが初めて利用した時も、彼らが用意した屋敷に招かれたので、今度もそうなのだろうと返事をした。
「では、さっそく明後日にお願いしたい」
「明後日ですね。承知致しました。引き続き担当はイヴィで構いませんか?」
元々その日がエーリヒ達との約束の日だった。
「ああ、義姉も彼女を希望している。だが、この前の場所より少し遠いので、時間もかかるだろう。その日は泊まりになる心づもりをしてもらいたい。その分報酬は弾む」
「泊まりに……」
アネカにそれでもいいかと確認するつもりで彼女を見ると、アネカはコクリと頷いた。
「こちらは特に問題はありません。でもそんな話なら、手紙で済んだのでは?」
「そ、それは……」
アネカがそう言うと、エーリヒが戸惑いを見せた。
「手紙より、こちらに直接伺って伝えた方が早いと思ったのです。ちょうど街へ出る用事もありましたし」
「そうですか。わざわざご丁寧にありがとうございます。それでは明後日、お時間はこの前と同じ時間でよろしいですか?」
「はい。その時間に馬車を寄越します」
「では、よろしくお願いいたします。イヴィ、お二人をお見送りして差し上げて」
「わかりました」
アネカに言われ、イヴォンヌは立ち上がった。
「それではエーリヒ様、カイン様、本日はわざわざお越しいただきありがとうございました」
出会い頭は色々あったが、話は良い方向に進んだと、イヴォンヌは晴れやかな気持ちで出入り口まで案内した。
「その……ひとつ聞いても構わないか?」
イヴォンヌのすぐ後ろをエーリヒが、彼の後ろをカインが歩く。その後ろからアネカもついてくる形で店先に辿り着くと、彼が遠慮がちに聞いてきた。
「なんでございましょう」
何を聞かれるのかと、イヴォンヌは少し緊張しながら尋ね返した。
「……今日ぶつかった時、泣いていたように思ったが、何かあったのか」
「え」
「イヴィ、それは本当?」
それほど大きな声ではなかったが、アネカの耳にもその問いは聞こえたらしく、アネカが問い質してきた。
「アネカは知っていたのですか?」
「紹介者が同じ人物だったし、聞いた状況からそうだと思っていた」
「そう……だったんですね」
「黄昏の家」に来る事情は聞いても、相手の素性は聞かないのがここの決まりだ。だから気づいていても、しらないフリをしたそうだ。
「兄が悩んでいたように、義姉も悩んでいたそうです。兄夫婦が決められた日に床を共にしていたのは、既にご承知のことと思いますが、昨晩がちょうどその日でした」
エーリヒが、兄夫婦のことについて説明を始めた。
「その時、夜の夫婦生活についての考えを、兄は初めて彼女から聞いたそうです。そして、夫婦の夜についての認識が間違っていたことを知り、これから変えて行きたいと言われたそうです。夫婦の寝室で、兄は初めて彼女と目を合わせたと、申しておりました」
きっと彼女はこれまでは目を閉じて、ただ夫が行為を終えるのを待っていたのだろう。
「二人で話し合い、今後は別々でなく、二人で『房中術』を実践していこうということになったそうです」
「まあ、それは良かったです」
一度会っただけで、ジルのすべてを知っているわけではないが、夫に打ち明けることは、崖から飛び降りるくらいの勇気がいったに違いない。
「ここに来たおかげだと、感謝しておりました」
「そんな……ありがとうございます」
ジルが己の殻を破り、一歩を踏み出したのが、ここに来たのがきっかけだと聞き、誰かの役に立てたことに、イヴォンヌは誇らしく思った。
「少しでもお二人の力になれるよう、これから頑張ります」
「ついては、改めて日程を調整し、二人一緒にお願いしたいと言うことです。構わないでしょうか」
「もちろん、こちらは構いません。ね、イヴィ」
「はい。かしこまりました」
真っ直ぐに背筋を伸ばし、イヴォンヌは二人の顔をはっきり見て言った。胸には誇らしさが沸き上がる。
その気持ちがイヴォンヌの水色の瞳をいきいきと輝かせ、エーリヒがそれに目を奪われたことに、気づいていたのはアネカだけだった。
「それで、相談なのだが、兄夫婦二人一緒になると、街中まで出てくるのは難しい。申し訳ないが馬車を手配するので、兄達の住む場所まで出張してもらえないだろうか」
「わかりました」
マティとエーリヒが初めて利用した時も、彼らが用意した屋敷に招かれたので、今度もそうなのだろうと返事をした。
「では、さっそく明後日にお願いしたい」
「明後日ですね。承知致しました。引き続き担当はイヴィで構いませんか?」
元々その日がエーリヒ達との約束の日だった。
「ああ、義姉も彼女を希望している。だが、この前の場所より少し遠いので、時間もかかるだろう。その日は泊まりになる心づもりをしてもらいたい。その分報酬は弾む」
「泊まりに……」
アネカにそれでもいいかと確認するつもりで彼女を見ると、アネカはコクリと頷いた。
「こちらは特に問題はありません。でもそんな話なら、手紙で済んだのでは?」
「そ、それは……」
アネカがそう言うと、エーリヒが戸惑いを見せた。
「手紙より、こちらに直接伺って伝えた方が早いと思ったのです。ちょうど街へ出る用事もありましたし」
「そうですか。わざわざご丁寧にありがとうございます。それでは明後日、お時間はこの前と同じ時間でよろしいですか?」
「はい。その時間に馬車を寄越します」
「では、よろしくお願いいたします。イヴィ、お二人をお見送りして差し上げて」
「わかりました」
アネカに言われ、イヴォンヌは立ち上がった。
「それではエーリヒ様、カイン様、本日はわざわざお越しいただきありがとうございました」
出会い頭は色々あったが、話は良い方向に進んだと、イヴォンヌは晴れやかな気持ちで出入り口まで案内した。
「その……ひとつ聞いても構わないか?」
イヴォンヌのすぐ後ろをエーリヒが、彼の後ろをカインが歩く。その後ろからアネカもついてくる形で店先に辿り着くと、彼が遠慮がちに聞いてきた。
「なんでございましょう」
何を聞かれるのかと、イヴォンヌは少し緊張しながら尋ね返した。
「……今日ぶつかった時、泣いていたように思ったが、何かあったのか」
「え」
「イヴィ、それは本当?」
それほど大きな声ではなかったが、アネカの耳にもその問いは聞こえたらしく、アネカが問い質してきた。
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