婚約者を義妹に寝取られ、腹いせのために習った房中術でなぜか王弟殿下を虜にしてしまいました

七夜かなた

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第4章 新たな依頼

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 イヴォンヌは首飾りをぎゅっと握りしめ、その場にうずくまった。

『どうしよう、どうしたらいい?』

 いつまでもここに座り込むんでいるわけにも行かない。暫く待って、向こうが諦めるのを待つことにした。
 しかし、物陰からもう一度店の前を覗き込んだ彼女の顔に、ふっと影が差した。
 異変に気づいたイヴォンヌが振り返ろうとした時、不意に体が持ち上げられた。

「!!!ぐっ!!」

 悲鳴を上げる前に大きな手で顎を捉えられ、壁に体を押し付けられた。

「何者だ!」

 背が高く屈強な体格の男が、殺気のこもった目でイヴォンヌを睨み、凄みを利かせた声で詰問する。
 下顎を大きな手が捉え、体を持ち上げられ、宙に浮いた足をジタバタと揺らした。

「何者だ。ここに潜んで、何をしている?」

 イヴォンヌの目は恐怖で見開き、体はガタガタ震えている。
 男はユラユラと、イヴォンヌの胸の辺りで揺れる首飾りに目を留め、もう片方の手でそれを持ち上げた。
 
「怪しい。これはただの首飾りではないな。術が掛けられている」
「!!!!」

 男は力を込めてイヴォンヌの首飾りを引き千切り、手の中でそれを握り込むと、石を粉々に打ち砕いた。男の握力の強さに目を瞠る。この握力ならイヴォンヌの顎も簡単に砕いてしまいそうだ。

「……やはり術が掛かっていたようだ。女、何者だ。このような怪しい術がかかった物を身に着け、影からあの店の方を探っていたな」
「どうした?」

 更にもう一人、男が近づいてきた。  
 横目で見ると、それは店の様子を窺っていた男だった。

『どうしよう、私…殺されるの?』

「この者は?」
「物陰に潜んで、貴方の様子を窺っておりました。何やら怪しげな気配を漂わせておりましたので、捕らえたところ、奇妙な術がかかった首飾りを身に着けておりました」

 イヴォンヌを捕らえた男は、後から現れた男に状況を説明する。二人は仲間のようだ。
 アネカが術を施してくれた首飾りは砕かれた。
 もし男が自分を探しに来た者だとしたら、連れ戻される。もしくは、ここで殺されるのか。どちらかと言えば、後者のような気がする。
 
『お父様達が雇った者じゃないの?』
 
 そうだとしたら、彼らは何者なのか。
 
「怪しい術?」
「はい。これを付けていた時、この者の顔がよく判別出来ませんでした。壊すと顔の印象が変わった。そのようなことを、普通の人間が出来るはずも、またする必要もない。明らかに怪しい。お尋ね者かも知れません」 
「この娘がか?」

 後から来た男が、イヴォンヌの顔をよく見ようとフードをずらす。
 赤紫の瞳が印象的な、かなりの男前だ。
 イヴォンヌは自分の今の状況を一瞬忘れ、その顔に見入った。

「で…エーリヒ様、どうしますか?」

 イヴォンヌを掴んでいる男が判断を仰ぐ。フードの男の方が決定権を持っているようだ。
 自分は決して怪しい者ではないと、エーリヒと呼ばれた男を縋るような目で見つめた。

「カイン、少し力を緩めろ。それでは喋りたくても喋れまい」
「しかし、もし術者なら呪文か何かを唱えるやも…」
  
 カインと言う名の大男は、ギロリとイヴォンヌを睨んで言った。
 そんなことはしないと、イヴォンヌは更に目で訴える。 
 溢れた涙が頬を伝う。

「たとえそうだとしても、私には効かない。とにかく気を失う前に離せ」

 イヴォンヌを締め上げるカインの腕を掴んでエーリヒが命令する。

「……わかりました」

 不承不承ながらカインは力を緩める。
 体を宙に浮かせていた腕が離れ、イヴォンヌは地面に膝をついた。

「ゲホッ、ゲホッ」

 喉を手で抑え、イヴォンヌは咳き込んだ。吐き気がしたが、お腹が空っぽなので出たのは胃液だけだった。

「ゲホッゲホッ」
 
 下を向いて咳き込み続けるイヴォンヌの首筋に、冷たく固い物が触れ、視線を向けるとそれは研ぎ澄まされた剣先だった。
 
「……!」

 イヴォンヌは身を固くして息を呑んだ。

「答えろ。なぜ身を隠して様子を窺っていた?」
  
 怖くて振り向くことが出来ない彼女の頭の上から、カインの鋭い声が降ってきた。
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