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リラックサ
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俺、グリーンは冒険者以外にパーティのメンバーに黙ってサイドビジネスをしている。なぜかって? それは違法ドラッグを扱っているからだ。その商品はリラックサという。俺がリラックサを開発し、民間療法の痛み止めとして販売している。
リラックサの元となる草は地球の植物でいえば限りなく大麻に近い植物だ。この植物は直径1センチくらいの実を付ける。それをグライダーで砕いて使用する。煙を吸って摂取する場合、タバコなどを燃え殻にして嗜む。なぜなら、この植物は燃えにくく、火を付けても直ぐに消えるからだ。或いは、料理などに草を直接、放り込んで使う方法もある。俺の扱うリラックサは後者だ。この草には痛み止めの効能と共に幻覚効果がある。これが麻薬認定された理由の一つだ。
これらの商品は異世界でも人気がある。街の住民には嗜好品として、冒険者にはその場しのぎの痛み止めとしてだ。そりゃあそうだろう。異世界では魔法あるが、残念な事に人は病気になるし、怪我もする。これが出回る前は、治療には主にポーションが使われていた。だがだ、ポーションはかなり高い。より効能があるポーションはより高額で取引されている。中にはポーション1本で家が一軒買える程、高額なポーションもある。
なぜ、こんなにポーションがこんなに高価なのかって? それはポーションを作るギルドが価格をコントロールしているからだ。ポーション・ギルドは所属していない職人のポーション作成を絶対に認めないからな。
ギルドは闇でポーションを作って闇市でポーションを販売する事を違法行為として国に認めさせ、厳重に取り締まりをさせている。これによって市場に出回るポーションの量を制限して、ポーションの価格を吊り上げているのだ。商人みたいな金持ち平民なら普通にポーションを買えるが、それ以外の平民ではポーションは高すぎて手が届かない。だから、皆、困っている。だから、我々がやっている闇ビジネスが成立する。
それに、ポーションが高すぎるだけがポーションのマイナス点のでない。ポーションには賞味期限がある。だいたい平均3ヶ月前後だ。街に住んでいれば必要な時に買えばいいが、我々冒険者達は遠征時に必要になるのがほとんどだ。なぜなら、冒険者はいつ怪我をするのはかはわからないし、たいていポーションが必要な時は人里離れた所だからな。そうするとある程度、在庫を持っていなければならない。でも使わなければ無駄になる。
その上、ポーションの入れ物がガラス製なのも問題だ。持ち運び時に割れる可能性もあるからだ。そんな高価な物が簡単に割れてもらっては困る。だから、一般の冒険者はあまりポーションの所持を好まない。高価だが有効期限が短く、遠征時に容器が割れやすい。最悪の商品だ。だから、金のないパーティは民間療法の薬を好む。
民間療法はポーションみたいに病気を治療したり怪我を直す効果が低いが、値段が圧倒的に安い。それに痛み止めになるので、手当中、患者が苦しまなくてすむ。それだけで効能は十分だ。
俺の所属するバーティは勇者パーティなのでお金に余裕がある。であるから、勇者ユーキはポーションの使用を好む。民間療法である痛み止めはパーティ内で使用を禁止している。なぜか? それは違法ドラッグであるからだ。これはポーション・ギルドが国に圧力をかけて違法ドラッグにしたからだ。ユーキは勇者パーティとしての体面を非常に重んじる。そんな違法な物を使用していてはいい社会の見本にならないと思っている。違法になった背景とかは全く考慮に入れていない。この件に関しては白か黒以外の意見は聞く耳を持たないっといった感じだ。
それに、ユーキは勇者パーティには俺という治癒師がいるから民間療法はいらないとも思っている。痛みは俺の治療が終わり次第、直ぐに解消する。だから、ユーキは民間療法である違法ドラッグの使用を禁止したのだ。俺は国とギルドとユーキから見つからないように違法ビジネスをしなければならなかった。
話は少し変わるが、勇者パーティはいつも遠征に出ている訳ではない。だいたい年の3分の1は拠点にいる。拠点にいる時はそれぞれ自由に行動している。例えば、訓練したり、ご奉仕したりといったところだ。
前衛のユーキとスタンをそれぞれ剣と槍の訓練。エリーシャは魔法の練習。ホリーは教会でお務め。アイシャは道具のメンテなどの雑用。ロバは貸し出している。ロバを使った町中での運搬は需要が多いので、俺達が街にいる間、ロバにはしっかりと路銀を稼いでもらっている。俺はというとサイドビジネスに精を出している。ユーキ達は俺が治癒師だから、俺達パーティが街にいる時は、俺が慈善活動をしていると思っている。まぁ、俺はそんな事をするような善人ではないが。
街では俺は自分が治癒師の地位を利用してリラックサの販売をしている。治癒師はレアな職業だから街の人達からも一目置かれている。リラックサの元となる植物は悪徳貴族から仕入れている。奴らは特権だけでなく、俺が持っていない土地も持っており、そこで植物を栽培している。俺は彼らから植物を買い取って販売をしている。
街にいる間、俺はリラックサの販売に忙しい。俺は草本体を直接売らない。見つかればすぐにバレるからな。だから、俺は草を食品に加工してから売ることにしている。その商品は地球の食品に例えるならグミやハイチューみたいなお菓子だ。それに草を混ぜて売っている。これだと見た目、すぐに違法ドラッグとわからない。そこで俺はバードの振りをしてリラックサを売り歩いていた。俺は一見、チンケな冒険者達を見つけると、奴らに近づいて、歌を歌いながら一発かました。
「ヨーヨー、そこのチンケなクソ野郎ども。テメーら、何、時化た面してるんだ。コノヤロー。気分がハ~イになりたいか? だったら俺の秘薬を食いやがれ。欲しけりゃ、テメーが持っているクソ銀貨を俺の手の中に入れやがれ。クソッタレが!」
こんなことを何度もしていると、いつかは憲兵隊に見つかる。そして、心配していたその日は遂にやって来てきてしまった。俺達は物を交換しているところを街の警備隊に見られたのだ。
——ヤッバーッ! どうしよう。今、ここで動揺してはダメだ。
「おい、コラ、テメーら。そこで何、してるんだ?」
俺達は皆、平穏を装った。俺達は見知らぬ顔して、その場に留まった。逃げれば逆にやましい事をしていると言っているようなものだからな。
「いーや、特に何もしてないが。何か、問題でも?」
俺はそっけなく答えた。
「はぁ~。だったら、お前の手の中にある銀貨は何なんだ。今すぐ説明しろや」
「あぁ、これはチップだよ。俺はバードで、どうやら奴らは俺の歌が気に入ったみたいなので恵んでくれたんだよ」
「はぁ~。マジかよ~。たかが歌で銀貨1枚かよ。信じられるかよー」
警備隊は俺達を疑いの目で見た。
「そうか? 価値なんて人、それぞれだからな。勝手に決め付けられても困る」
俺はそっけなく言うと、さらに続けた。
「それに俺の歌には治癒効果もあるしな」
「あっ!」
警備隊は何か気付いたように声を上げた。
「お前、もしかして……あの勇者パーティの治癒師のグリーンなのか?」
「おぅ、そうだが」
「⋯⋯そ、そうなのか。悪かったなー。変に因縁付けて。もう、行っていいぞ」
「わかった。じゃあな」
俺は軽く手を振ると、その場から歩き去った。今回も、俺は上手く切り抜ける事ができた。
だが、幸運も長く続かなかった。俺は勇者パーティのリーダーのユーキに俺のサイドビジネスの事がバレてしまったのだ。
あれは、俺達が魔物刈りの遠征していた時だ。あの日は道中で面倒くさいトラブルに見舞われた。その所為でかなりの時間を費やしてしまった。俺達は予定していた野営地まで急行したが、野営地に着いた頃にはかなり薄暗くなっていた。皆はもう、クタクタだった。俺達は暗くなる前に、急いで野営の準備を始めた。
俺は気分転換の為、皆に見られないようにリラックサが入った袋をリュックの中から出すと、袋から一つ取り出して口の中へ放り込んだ。これを食べると疲れがかなり取れるんだよな。
——疲れた? だったらこれを食いやがれ、って感じだ。
リラックサを自分の口に放り込むと、俺はそのまま袋をリュックの中に投げ込んだ。忙しかったからか、俺はリュックの口は絞らず、そのまま自分のすべき作業に戻った。
ここで、俺は大きなミスをしでかした。どうやらそれをアイシャに見られていたのだ。アイシャはきっと俺が間食したのがズルいと思ったのだろう。アイシャは勝手に俺のリュックの中を探ると、リュックからリラックサの入った袋を取り出した。そして、あろうことか、リラックサを取り出すと貪り食った。やばい、と思い俺がアイシャの所へ戻ると、アイシャの様子がどうもおかしい。目が虚ろで、視点が合っていない。コイツ、いくつリラックサを食ったんだよー?
「アイシャ、どうした? 気分でも悪いのか?」
「はぁ~。見りゃ、わかるでしょう。メチャ、気分がいいわ」
アイシャはリラックサを一気に沢山食べたので、体はフラフラ状態だ。体は左右に揺れて、不安定だ。それに呂律も回っていない。
「お前、いくつ食べたんだ!」
「しーらない。たーくさんだよ」
これは完全に気分がハイになって、ラリっている。
——どうすればいい、俺。考えろ、俺。
俺はない知恵を絞ると、近くに置いてあった酒を持って来て、アイシャの口に突っ込んだ。そして、アイシャの服にも酒をかけた。そうしている間に、アイシャの意識はだんだんと薄らいでいった。
ここで、異常事態に気付いたホリーは俺とアイシャの間に割って入った。
「グリーン。お前、アイシャに何してるんだ?」
「何だよ、ホリー。嫉妬かよ! ……ったく」
「んーなわけあるかよー、ボケー。頭、湧いてるんじゃねーよ。お前、今、明らかにアイシャに対して変な事、してただろう」
「別に何もしてないけど。てか、変な事って何だよー」
「自分の心に聞け!」
俺は自分の心臓に手を当てて、いかにも自分の心に聞いている振りをした。
「変な事なんかしてねーよ。アイシャがちょっと酔っ払ったみたいだったから、介抱してたんだよ」
アイシャは見た感じ、確かに酔っ払って寝ているように見えるが…… それは、ホリーにも明らかだった。だが、状況的に見て、これがおかしいのは明白だ。だいたい、野営地に着いてすぐ、アイシャが酒を飲むわけない。そんな事は、今迄、一度もなかった。
ホリーは状況を確認すると、アイシャに魔法をかけた。
「ピューリフィケーション」
ホリーが宣言すると、アイシャの服が綺麗になった。そして、酒から出る匂いが一瞬で消し飛んだ。
——やばい! 折角、誤魔化す為に酒をアイシャにぶっ掛けたのに。
そこへ、ユーキとスタンが薪を持って森から戻って来た。ユーキはアイシャの元へ歩み寄ると、アイシャの症状を見定めた。ユーキはアイシャが毒に侵されているのではないかと疑い、アイシャの口を強引に開けた。そして、口の中を丹念に調べると、口の中に残っていた小さな固形物を見つけた。ユーキはそれをアイシャの口からほじくり出しすと、自分の口の中にいれた。そして、それを軽く噛んで、唾と一緒に吐き出した。ユーキは自分の口の中に残るそれの味をじっくりと味わうと言った。
「これは……ひょっとして、例の違法ドラッグではないのでは?」
ユーキの口の中では、あの独特の甘ったるい香りがほのかにだたよっていた。そして、ユーキは俺を見た。
——ヤッーべー、終わったな、俺。
ユーキが俺を見た瞬間、俺はそう感じた。ユーキはアイシャがあの違法ドラッグに関わっているとは一ミリも思っていないのは明らかだからな。ユーキは俺を見ると非難するように言った。
「お前、アイシャに何を食わした!」
「あああ! ……別になにも。アイシャが俺のリュックから俺の嗜好品を勝手に盗んで……」
「人のせいにするな。そもそも、お前が禁制品を持ってくるのが悪いのだろうが。てか、どうやって手に入れた?」
俺はユーキと他のメンバーに追求されると、俺のサイドビジネスが彼らにバレてしまった。そして、彼らはリラックサを俺から取り上げると、焚き火の中に放り込んだ。
「グリーン。もし今度、お前が違法ドラッグに関わっている所を俺が見つけたら、ぶっ殺す! わかったかー!」
俺はユーキから脅されると首を縦に振るしかなかった。
ユーキは俺を役人に差し出すつもりはなかった。それは勇者パーティの恥になるからな。ユーキにとって勇者パーティの体面の方が法律よりも重要だったのだ。
リラックサの元となる草は地球の植物でいえば限りなく大麻に近い植物だ。この植物は直径1センチくらいの実を付ける。それをグライダーで砕いて使用する。煙を吸って摂取する場合、タバコなどを燃え殻にして嗜む。なぜなら、この植物は燃えにくく、火を付けても直ぐに消えるからだ。或いは、料理などに草を直接、放り込んで使う方法もある。俺の扱うリラックサは後者だ。この草には痛み止めの効能と共に幻覚効果がある。これが麻薬認定された理由の一つだ。
これらの商品は異世界でも人気がある。街の住民には嗜好品として、冒険者にはその場しのぎの痛み止めとしてだ。そりゃあそうだろう。異世界では魔法あるが、残念な事に人は病気になるし、怪我もする。これが出回る前は、治療には主にポーションが使われていた。だがだ、ポーションはかなり高い。より効能があるポーションはより高額で取引されている。中にはポーション1本で家が一軒買える程、高額なポーションもある。
なぜ、こんなにポーションがこんなに高価なのかって? それはポーションを作るギルドが価格をコントロールしているからだ。ポーション・ギルドは所属していない職人のポーション作成を絶対に認めないからな。
ギルドは闇でポーションを作って闇市でポーションを販売する事を違法行為として国に認めさせ、厳重に取り締まりをさせている。これによって市場に出回るポーションの量を制限して、ポーションの価格を吊り上げているのだ。商人みたいな金持ち平民なら普通にポーションを買えるが、それ以外の平民ではポーションは高すぎて手が届かない。だから、皆、困っている。だから、我々がやっている闇ビジネスが成立する。
それに、ポーションが高すぎるだけがポーションのマイナス点のでない。ポーションには賞味期限がある。だいたい平均3ヶ月前後だ。街に住んでいれば必要な時に買えばいいが、我々冒険者達は遠征時に必要になるのがほとんどだ。なぜなら、冒険者はいつ怪我をするのはかはわからないし、たいていポーションが必要な時は人里離れた所だからな。そうするとある程度、在庫を持っていなければならない。でも使わなければ無駄になる。
その上、ポーションの入れ物がガラス製なのも問題だ。持ち運び時に割れる可能性もあるからだ。そんな高価な物が簡単に割れてもらっては困る。だから、一般の冒険者はあまりポーションの所持を好まない。高価だが有効期限が短く、遠征時に容器が割れやすい。最悪の商品だ。だから、金のないパーティは民間療法の薬を好む。
民間療法はポーションみたいに病気を治療したり怪我を直す効果が低いが、値段が圧倒的に安い。それに痛み止めになるので、手当中、患者が苦しまなくてすむ。それだけで効能は十分だ。
俺の所属するバーティは勇者パーティなのでお金に余裕がある。であるから、勇者ユーキはポーションの使用を好む。民間療法である痛み止めはパーティ内で使用を禁止している。なぜか? それは違法ドラッグであるからだ。これはポーション・ギルドが国に圧力をかけて違法ドラッグにしたからだ。ユーキは勇者パーティとしての体面を非常に重んじる。そんな違法な物を使用していてはいい社会の見本にならないと思っている。違法になった背景とかは全く考慮に入れていない。この件に関しては白か黒以外の意見は聞く耳を持たないっといった感じだ。
それに、ユーキは勇者パーティには俺という治癒師がいるから民間療法はいらないとも思っている。痛みは俺の治療が終わり次第、直ぐに解消する。だから、ユーキは民間療法である違法ドラッグの使用を禁止したのだ。俺は国とギルドとユーキから見つからないように違法ビジネスをしなければならなかった。
話は少し変わるが、勇者パーティはいつも遠征に出ている訳ではない。だいたい年の3分の1は拠点にいる。拠点にいる時はそれぞれ自由に行動している。例えば、訓練したり、ご奉仕したりといったところだ。
前衛のユーキとスタンをそれぞれ剣と槍の訓練。エリーシャは魔法の練習。ホリーは教会でお務め。アイシャは道具のメンテなどの雑用。ロバは貸し出している。ロバを使った町中での運搬は需要が多いので、俺達が街にいる間、ロバにはしっかりと路銀を稼いでもらっている。俺はというとサイドビジネスに精を出している。ユーキ達は俺が治癒師だから、俺達パーティが街にいる時は、俺が慈善活動をしていると思っている。まぁ、俺はそんな事をするような善人ではないが。
街では俺は自分が治癒師の地位を利用してリラックサの販売をしている。治癒師はレアな職業だから街の人達からも一目置かれている。リラックサの元となる植物は悪徳貴族から仕入れている。奴らは特権だけでなく、俺が持っていない土地も持っており、そこで植物を栽培している。俺は彼らから植物を買い取って販売をしている。
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「ヨーヨー、そこのチンケなクソ野郎ども。テメーら、何、時化た面してるんだ。コノヤロー。気分がハ~イになりたいか? だったら俺の秘薬を食いやがれ。欲しけりゃ、テメーが持っているクソ銀貨を俺の手の中に入れやがれ。クソッタレが!」
こんなことを何度もしていると、いつかは憲兵隊に見つかる。そして、心配していたその日は遂にやって来てきてしまった。俺達は物を交換しているところを街の警備隊に見られたのだ。
——ヤッバーッ! どうしよう。今、ここで動揺してはダメだ。
「おい、コラ、テメーら。そこで何、してるんだ?」
俺達は皆、平穏を装った。俺達は見知らぬ顔して、その場に留まった。逃げれば逆にやましい事をしていると言っているようなものだからな。
「いーや、特に何もしてないが。何か、問題でも?」
俺はそっけなく答えた。
「はぁ~。だったら、お前の手の中にある銀貨は何なんだ。今すぐ説明しろや」
「あぁ、これはチップだよ。俺はバードで、どうやら奴らは俺の歌が気に入ったみたいなので恵んでくれたんだよ」
「はぁ~。マジかよ~。たかが歌で銀貨1枚かよ。信じられるかよー」
警備隊は俺達を疑いの目で見た。
「そうか? 価値なんて人、それぞれだからな。勝手に決め付けられても困る」
俺はそっけなく言うと、さらに続けた。
「それに俺の歌には治癒効果もあるしな」
「あっ!」
警備隊は何か気付いたように声を上げた。
「お前、もしかして……あの勇者パーティの治癒師のグリーンなのか?」
「おぅ、そうだが」
「⋯⋯そ、そうなのか。悪かったなー。変に因縁付けて。もう、行っていいぞ」
「わかった。じゃあな」
俺は軽く手を振ると、その場から歩き去った。今回も、俺は上手く切り抜ける事ができた。
だが、幸運も長く続かなかった。俺は勇者パーティのリーダーのユーキに俺のサイドビジネスの事がバレてしまったのだ。
あれは、俺達が魔物刈りの遠征していた時だ。あの日は道中で面倒くさいトラブルに見舞われた。その所為でかなりの時間を費やしてしまった。俺達は予定していた野営地まで急行したが、野営地に着いた頃にはかなり薄暗くなっていた。皆はもう、クタクタだった。俺達は暗くなる前に、急いで野営の準備を始めた。
俺は気分転換の為、皆に見られないようにリラックサが入った袋をリュックの中から出すと、袋から一つ取り出して口の中へ放り込んだ。これを食べると疲れがかなり取れるんだよな。
——疲れた? だったらこれを食いやがれ、って感じだ。
リラックサを自分の口に放り込むと、俺はそのまま袋をリュックの中に投げ込んだ。忙しかったからか、俺はリュックの口は絞らず、そのまま自分のすべき作業に戻った。
ここで、俺は大きなミスをしでかした。どうやらそれをアイシャに見られていたのだ。アイシャはきっと俺が間食したのがズルいと思ったのだろう。アイシャは勝手に俺のリュックの中を探ると、リュックからリラックサの入った袋を取り出した。そして、あろうことか、リラックサを取り出すと貪り食った。やばい、と思い俺がアイシャの所へ戻ると、アイシャの様子がどうもおかしい。目が虚ろで、視点が合っていない。コイツ、いくつリラックサを食ったんだよー?
「アイシャ、どうした? 気分でも悪いのか?」
「はぁ~。見りゃ、わかるでしょう。メチャ、気分がいいわ」
アイシャはリラックサを一気に沢山食べたので、体はフラフラ状態だ。体は左右に揺れて、不安定だ。それに呂律も回っていない。
「お前、いくつ食べたんだ!」
「しーらない。たーくさんだよ」
これは完全に気分がハイになって、ラリっている。
——どうすればいい、俺。考えろ、俺。
俺はない知恵を絞ると、近くに置いてあった酒を持って来て、アイシャの口に突っ込んだ。そして、アイシャの服にも酒をかけた。そうしている間に、アイシャの意識はだんだんと薄らいでいった。
ここで、異常事態に気付いたホリーは俺とアイシャの間に割って入った。
「グリーン。お前、アイシャに何してるんだ?」
「何だよ、ホリー。嫉妬かよ! ……ったく」
「んーなわけあるかよー、ボケー。頭、湧いてるんじゃねーよ。お前、今、明らかにアイシャに対して変な事、してただろう」
「別に何もしてないけど。てか、変な事って何だよー」
「自分の心に聞け!」
俺は自分の心臓に手を当てて、いかにも自分の心に聞いている振りをした。
「変な事なんかしてねーよ。アイシャがちょっと酔っ払ったみたいだったから、介抱してたんだよ」
アイシャは見た感じ、確かに酔っ払って寝ているように見えるが…… それは、ホリーにも明らかだった。だが、状況的に見て、これがおかしいのは明白だ。だいたい、野営地に着いてすぐ、アイシャが酒を飲むわけない。そんな事は、今迄、一度もなかった。
ホリーは状況を確認すると、アイシャに魔法をかけた。
「ピューリフィケーション」
ホリーが宣言すると、アイシャの服が綺麗になった。そして、酒から出る匂いが一瞬で消し飛んだ。
——やばい! 折角、誤魔化す為に酒をアイシャにぶっ掛けたのに。
そこへ、ユーキとスタンが薪を持って森から戻って来た。ユーキはアイシャの元へ歩み寄ると、アイシャの症状を見定めた。ユーキはアイシャが毒に侵されているのではないかと疑い、アイシャの口を強引に開けた。そして、口の中を丹念に調べると、口の中に残っていた小さな固形物を見つけた。ユーキはそれをアイシャの口からほじくり出しすと、自分の口の中にいれた。そして、それを軽く噛んで、唾と一緒に吐き出した。ユーキは自分の口の中に残るそれの味をじっくりと味わうと言った。
「これは……ひょっとして、例の違法ドラッグではないのでは?」
ユーキの口の中では、あの独特の甘ったるい香りがほのかにだたよっていた。そして、ユーキは俺を見た。
——ヤッーべー、終わったな、俺。
ユーキが俺を見た瞬間、俺はそう感じた。ユーキはアイシャがあの違法ドラッグに関わっているとは一ミリも思っていないのは明らかだからな。ユーキは俺を見ると非難するように言った。
「お前、アイシャに何を食わした!」
「あああ! ……別になにも。アイシャが俺のリュックから俺の嗜好品を勝手に盗んで……」
「人のせいにするな。そもそも、お前が禁制品を持ってくるのが悪いのだろうが。てか、どうやって手に入れた?」
俺はユーキと他のメンバーに追求されると、俺のサイドビジネスが彼らにバレてしまった。そして、彼らはリラックサを俺から取り上げると、焚き火の中に放り込んだ。
「グリーン。もし今度、お前が違法ドラッグに関わっている所を俺が見つけたら、ぶっ殺す! わかったかー!」
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