頂いたお題に沿って。

天之奏詩(そらのかなた)

文字の大きさ
1 / 3

宝石になった僕の話。

しおりを挟む
 ある日、僕の体液は宝石になった。
 なんて突然言われても、誰もが言っている意味を理解しないだろう。いいや、理解しようとしないと言うのが正しいか。
 そうだな、ああ、たしかに言葉足らずだった。
 ある日、僕の体液は体外で固まると宝石化するようになった。血や涙、汗、脂。ふと想像して貰えれば、きっとその思い描いた宝石で間違いないだろう。なんせ、宝石にも色んな見た目がある。だけど、僕の体液から成る宝石は、種類が豊富た。無色透明なダイヤモンドや、紫に輝くアメジスト。僕は宝石に詳しいわけではないので、他にどんなものがあるかと聞かれれば答えるには少しばかり時間を要する。しかし、とにかく僕の体液は宝石化するのだ。
 お察しの事と思うが、勿論のこと治し方も、原因すら分かっていない。所謂【奇病】というやつだ。
 そして、そんな奇病にかかった人間は僕以外にも居た。背中に突如として蝶の羽が生え始めてきたボクサー、脳みそがスーパーコンピュータ並に進化したコメディアン、どんな生き物ともコミュニケーションを取れるようになった生物学者、そのた諸々。世界中に、ある日を境にしてそんな奇病が現れた。まるで、超能力を持ったような。僕のはそんなでもないけどね。
 そしてそれから、皮肉なことに、そういう奇病を患った人間は当然の如く差別され始めた。
 僕も例外じゃない。学校は虐めの激化で退学せざるを得なかったし、町でも暮らしていけるかどうか怪しかったから家族に黙って家を出た。今自分が何処にいるのかも分からない。
 だが、そう、これだけは理解できる。

 ここは、奇病を患った者達が自然と導かれる【集いの森】だ。





 奇病を患った者同士でも、差別が生まれた。具体的に言うと、僕達はグループに分かれて互いを隔離し合った。見た目や体内の変化による価値観の違いが生んだ、争い以外の和解策だったのだ。
 体外に変化の出た者同士、例えば例のバタフライボクサー。体内に変化の出た者同士、例えば例のコメディアンと生物学者。そして、例外、僕のことだ。普段は見た目に変化はない。体内の変化とも捉えることができるようだが、体液が体表を濡らせば条件が変わってしまう。だから例外だそうだ。
 結果的に言うと、ここに集まった奇病者はこの三種類に分けられた。そのうち例外に当たるのは僕だけのようだ。
 他のグループは、一体この奇病は何なのかの回答を求めて話合いや実験を進めている。
 しかし、僕は独り、何も出来ることはなかった。不思議と腹は減らなかった。ただぼーっと流れる雲を目で追って、皆が寝静まった頃、その夜空に何を求めることなく頬に宝石を転がす。気が付けばそうして月日が過ぎて、僕の足元には宝石が砂のように散らばっていた。
 
 そして、ある夜意味は顕になった。
 それは、満月の夜だった。
 とても大きな月と、黒く澄んだ空。その中を瞬く星々の欠片を、僕の宝石は反射した。
 全身を奮い立たせる興奮と、僕の身を包む無数の星々に魅了される全ての生き物。
 この場に集うた者皆が目を疑った。
 その美しさに、その神々しさに!
 そして、森に集まったのは僕らだけじゃなかった。世界中の誰もが、ぞろぞろとこの森に足を運び、僕を見た。人間は勿論、ライオンやトラ、コンドル、ネズミ、イルカや魚達は近くの湖から、虫も、植物だって根や茎、つるを伸ばして僕を見にやってきた。
 何故だ? 皆は何故ここにやってきた? 何に導かれた?
 男の子が零す、その一言。

「宝石が、とても綺麗だった!」

 僕は皆の足元を見渡す。
 見ろ、僕の宝石だ!
 妊婦が微笑んで夜空を指さした。
 
「ふふっ」

 僕は再び、その広大な空を見た。
 見ろ、僕の宝石だ!
 見ろ、見ろ、見ろ!
 星だ、宝石だ!
 とてもとても、美しい。
 一人一つずつ、黙って足元の宝石を拾う。そしてそれを、この月に掲げて。

 月光が、僕らを眩しく、照らしたんだ。




 ニュースキャスターが言った。
「月曜日、天気は快晴! 私達は目覚めました、今日この日!」
 あとから知った話だ。
 地球上の誰もが、ある日を堺に眠りについた。
 そうしてずっと夢を見ていた者たちがいる。彼らは考え、求めた。僕らの回答を。
 彼ら以外は目覚め際に夢を見た。
 宝石に、導かれる夢を。
 世界が、一つになる、そんな夢を。

 ボクサーは復帰、コメディアンも生物学者も、誰も彼も日常に帰った。
 そして僕は、宝石になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...