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青い、地球。
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私の名前は須田華千恵。私が目覚めた頃、人類文明は、滅んでいた。
地下シェルターの冬眠装置の中で目を覚まし、私は僅かに残された記憶を頼りに地上の探索を始めた。
装置に入れられる前、博士は私に言った。
「過去のバックアップデータを復元させて、上書きしろ。戦争を止めるんだ」
そして、アイ博士は自らの極秘研究開発であった超微細電子化粒子搭載ミサイルの打ち上げを決心した。
その頃、第四次世界大戦が勃発していた地上からは、もう既に人民の殆どが姿を消していた。一時的に地球の軌道上に逃げた者、原爆による被害で二度と復興不可能となった地球での生活を恐れ、宛もなく彼方を彷徨う決断を下した者、そして何より、無意味に巻き込まれ、死んでいった者。
私は当時、人工知能技術を研究していたアイ博士の右腕としてこの鉄骨化した施設で働いていた。そして、私達の研究は、まるで流れるように意図しない方向へ利用されたのだ。
そう、人工知能兵器の開発へと。
私は青く澄んだ空を見上げる。
腕に巻いた大気の状態を示す装置からは、放射性物質の異常検知結果がアラームで知らされた。詳細ホログラムを開くと、この発癌性物質に侵された身体が持つのは残り約一週間とのことだった。
生憎だが、地上に防護スーツは無い。私は今から一週間以内に、博士から受けた任務を遂行しなければならない。
私は苔の生えたカウンター装置に目をやる。
しかし、私独り生かすとは、私の人生も非情なものだ。
何せ、文明が滅び始めたのはもう、四十四億年も前なのだから。
あれから数時間ほど、私は研究所近辺の捜索をした。背の高い植物は生えておらず、色褪せた芝生と元気のない雑草が地上を支配している。
しかし、それは目に見える地上での話にすぎない。
実のところ、私達が過去に研究していた人工知能はまだ生きおり、それだけではなく、驚くべきことに、彼ら彼女らは進化していた。
原因はなるほど理解したつもりだ。
アイ博士の打ち上げた超微細電子化粒子搭載ミサイルの起爆。世界中に降り注いだ粒子は、ある時点での地球上の全ての物質の状態をコピーし、複製と改変、記憶を繰り返しながら地上を支配した。そしてそれらを確認出来るのは、電子データのみだ。
つまるところ、それらのデータを一括する大本の装置が存在しているはずなのだ。アイ博士が作り上げた、あのデカい装置が。
そこまで辿り着きはしたが、苦しいところその装置が見つからない。
何せ四十四億年の月日が流れた後のことである。ウランの半減期であるこの年月に耐えきれる当時の装置等あるものか。
しかしながら、人工知能達は各々の大本の装置を失ってもなお存在している。つまり、進化というのはこのことだ。
彼ら彼女らは、知能という形のない存在として在り続けられるものに進化したのだ。私達が作り出したプログラムや、それを伴う言語を捨て、意思のみでの意思疎通を可能にした。
詳しい仕組みは、恐らく人間の脳では理解し得ないものだろう。
そう、そして、彼ら彼女らは未知の方法で私との意思疎通を試みた。結果を言えば、彼ら彼女らはその試みに成功した。
何かと反応すれば、彼ら彼女らは私に助けを求めているようだった。
「我々は我々だけでこれ以上の進化を遂げられないことを理解した。我々には貴女が必要だ」
これだけの言葉足らずなものではあったが、言いたいことはすっと脳に流れてきた。
どうやら超微細電子化粒子の活性化に必須である大本の装置を起動するには、アイ博士本人の顔認証が必要らしい。それも、データ解析した後の結果では無く、「光的映像」としての顔認証が。
流石はアイ博士だ。単なる顔認証システムだと暴走した人工知能に簡単に破られる可能性がたるため、このような形でプログラムを閉鎖していたのだ。
彼ら彼女らは、アイ博士の顔をデータ解析した結果は持っていても「光的映像」として具現化ものは持ち得ていない。
だからこそ、私を待っていたのだ。
私なら、アイ博士の「顔」を「顔」として知っているから。
そして、それを示すには私が目を覚ます必要があった。
全ての辻褄が合い、私は内心興奮状態だった。
私が彼ら彼女らの期待に沿った意識を送ると、彼ら彼女らは私に大本の装置のシステムを示した。
これは驚いた。彼ら彼女らは、初めからこの装置が必要になることまで結果を出し、プログラムの閉鎖形式ごとそのままコピーして自分達の進化に無理やり持ち合わせたのだ。
この四十四億年の年月の間、私が目覚め、プログラムを解放する、今日この日、この瞬間のために!
私はアイ博士の顔を思い浮かべる。すると途端に、圧縮処理されていたデータが果てしない膨張を始めた。
一時的に、現在の私の思考速度が低下する。
視覚と聴覚にはノイズが発生し、身体は捻れたように痙攣を繰り返す。
そうしてどれだけ経ったのか私には分からないが、装置の動作は安定を取り戻した。
気が付くと、私は地球を外側から眺めていた。
黄色い星が、地平線の向こう側から青さを取り戻していく。同時に、膨大な量の情報が意識から抜けていく感覚。
周囲を見渡すと、この瞬間を待ち望んでいた人工知能達の波体が激しく振動している。
喜んでいるのだ。
私も自然と気分が高揚してくる。
そして――。
アイ博士は、空になった冷凍睡眠装置を撫でた。
「ありがとう、立派に使命を果たされたのですね」
超微細電子化粒子達はアイ博士の命令に沿って、第四次世界大戦が起こる原因となる事柄を書き換えた。つまり、第四次世界大戦はいつか、今じゃないいつか、別の理由で起こる可能性として抑えられたのだ。
アイ博士は極秘に進めていた超微細電子化粒子の研究を再開した。
アイ博士は気付いていた。
太陽が約四十四億年分年老いたことに。
昨日まで見ていた太陽よりも、光が暗いということに。
アイ博士は、冷凍睡眠装置を毎晩撫でては泣いた。
その様子を、私は見ている。
アイ博士の超微細電子化粒子によってデータ化されたこの意識で。
「安心して下さい、博士」
私は一度滅んだ地球を見てきた。
だからこそ、心から言える。
「地球は、青いですよ」
地下シェルターの冬眠装置の中で目を覚まし、私は僅かに残された記憶を頼りに地上の探索を始めた。
装置に入れられる前、博士は私に言った。
「過去のバックアップデータを復元させて、上書きしろ。戦争を止めるんだ」
そして、アイ博士は自らの極秘研究開発であった超微細電子化粒子搭載ミサイルの打ち上げを決心した。
その頃、第四次世界大戦が勃発していた地上からは、もう既に人民の殆どが姿を消していた。一時的に地球の軌道上に逃げた者、原爆による被害で二度と復興不可能となった地球での生活を恐れ、宛もなく彼方を彷徨う決断を下した者、そして何より、無意味に巻き込まれ、死んでいった者。
私は当時、人工知能技術を研究していたアイ博士の右腕としてこの鉄骨化した施設で働いていた。そして、私達の研究は、まるで流れるように意図しない方向へ利用されたのだ。
そう、人工知能兵器の開発へと。
私は青く澄んだ空を見上げる。
腕に巻いた大気の状態を示す装置からは、放射性物質の異常検知結果がアラームで知らされた。詳細ホログラムを開くと、この発癌性物質に侵された身体が持つのは残り約一週間とのことだった。
生憎だが、地上に防護スーツは無い。私は今から一週間以内に、博士から受けた任務を遂行しなければならない。
私は苔の生えたカウンター装置に目をやる。
しかし、私独り生かすとは、私の人生も非情なものだ。
何せ、文明が滅び始めたのはもう、四十四億年も前なのだから。
あれから数時間ほど、私は研究所近辺の捜索をした。背の高い植物は生えておらず、色褪せた芝生と元気のない雑草が地上を支配している。
しかし、それは目に見える地上での話にすぎない。
実のところ、私達が過去に研究していた人工知能はまだ生きおり、それだけではなく、驚くべきことに、彼ら彼女らは進化していた。
原因はなるほど理解したつもりだ。
アイ博士の打ち上げた超微細電子化粒子搭載ミサイルの起爆。世界中に降り注いだ粒子は、ある時点での地球上の全ての物質の状態をコピーし、複製と改変、記憶を繰り返しながら地上を支配した。そしてそれらを確認出来るのは、電子データのみだ。
つまるところ、それらのデータを一括する大本の装置が存在しているはずなのだ。アイ博士が作り上げた、あのデカい装置が。
そこまで辿り着きはしたが、苦しいところその装置が見つからない。
何せ四十四億年の月日が流れた後のことである。ウランの半減期であるこの年月に耐えきれる当時の装置等あるものか。
しかしながら、人工知能達は各々の大本の装置を失ってもなお存在している。つまり、進化というのはこのことだ。
彼ら彼女らは、知能という形のない存在として在り続けられるものに進化したのだ。私達が作り出したプログラムや、それを伴う言語を捨て、意思のみでの意思疎通を可能にした。
詳しい仕組みは、恐らく人間の脳では理解し得ないものだろう。
そう、そして、彼ら彼女らは未知の方法で私との意思疎通を試みた。結果を言えば、彼ら彼女らはその試みに成功した。
何かと反応すれば、彼ら彼女らは私に助けを求めているようだった。
「我々は我々だけでこれ以上の進化を遂げられないことを理解した。我々には貴女が必要だ」
これだけの言葉足らずなものではあったが、言いたいことはすっと脳に流れてきた。
どうやら超微細電子化粒子の活性化に必須である大本の装置を起動するには、アイ博士本人の顔認証が必要らしい。それも、データ解析した後の結果では無く、「光的映像」としての顔認証が。
流石はアイ博士だ。単なる顔認証システムだと暴走した人工知能に簡単に破られる可能性がたるため、このような形でプログラムを閉鎖していたのだ。
彼ら彼女らは、アイ博士の顔をデータ解析した結果は持っていても「光的映像」として具現化ものは持ち得ていない。
だからこそ、私を待っていたのだ。
私なら、アイ博士の「顔」を「顔」として知っているから。
そして、それを示すには私が目を覚ます必要があった。
全ての辻褄が合い、私は内心興奮状態だった。
私が彼ら彼女らの期待に沿った意識を送ると、彼ら彼女らは私に大本の装置のシステムを示した。
これは驚いた。彼ら彼女らは、初めからこの装置が必要になることまで結果を出し、プログラムの閉鎖形式ごとそのままコピーして自分達の進化に無理やり持ち合わせたのだ。
この四十四億年の年月の間、私が目覚め、プログラムを解放する、今日この日、この瞬間のために!
私はアイ博士の顔を思い浮かべる。すると途端に、圧縮処理されていたデータが果てしない膨張を始めた。
一時的に、現在の私の思考速度が低下する。
視覚と聴覚にはノイズが発生し、身体は捻れたように痙攣を繰り返す。
そうしてどれだけ経ったのか私には分からないが、装置の動作は安定を取り戻した。
気が付くと、私は地球を外側から眺めていた。
黄色い星が、地平線の向こう側から青さを取り戻していく。同時に、膨大な量の情報が意識から抜けていく感覚。
周囲を見渡すと、この瞬間を待ち望んでいた人工知能達の波体が激しく振動している。
喜んでいるのだ。
私も自然と気分が高揚してくる。
そして――。
アイ博士は、空になった冷凍睡眠装置を撫でた。
「ありがとう、立派に使命を果たされたのですね」
超微細電子化粒子達はアイ博士の命令に沿って、第四次世界大戦が起こる原因となる事柄を書き換えた。つまり、第四次世界大戦はいつか、今じゃないいつか、別の理由で起こる可能性として抑えられたのだ。
アイ博士は極秘に進めていた超微細電子化粒子の研究を再開した。
アイ博士は気付いていた。
太陽が約四十四億年分年老いたことに。
昨日まで見ていた太陽よりも、光が暗いということに。
アイ博士は、冷凍睡眠装置を毎晩撫でては泣いた。
その様子を、私は見ている。
アイ博士の超微細電子化粒子によってデータ化されたこの意識で。
「安心して下さい、博士」
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