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妄想綴り。
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十二月二十五日。彼女に振られてからもう一年も経過したのだと、終業式終了後、駅前を歩きながら鉛色の空を見上げた。今にも降り出しそうだ。
ホワイクリスマスも、独り身にとってはなんの特別なイベントではなく、ただ虚無感と、肌を割る勢いで吹き去っていく極寒の風に気分を害するだけの日だった。
あの日彼女に言われたことを思い出す。
「きっとハル君の中じゃ私は、小説のヒロインに過ぎないんだよね。私はちゃんと、もっと現実の私を見てほしかったかな。…別れよう」
初めこそ苦笑を浮かべていた彼女だったが、最後「別れよう」と口にした時は、その目は少しばかり潤んでいた様な気がする。どうしてかこんなにも彼女との日々を鮮明に思い出せるし、彼女と別れたこの一年間、まるで中身の無い空白の時間だったように思える。
それはきっと、部屋に積まれた自作のお蔵入り小説を、何度も何度も読み返したかだろうと思う。
実際僕は彼女との日々を少し盛りながら小説にまとめ、それを彼女とも共有して読んでいた。そんな何気ない日々が幸せだと、僕はてっきり彼女もそう思っているものだと思いこんでいたが、現実、そんなことはなかった。
「小説のヒロインに過ぎない」という言葉が、今も僕の胸を締め付ける。彼女は僕の小説を読みながら、表向き楽しそうにしていた。だがその内面、実際はどんな事を思っていたのだろう。酷く苦しんでいたに違いない。そう思うと、大好きだった人に自分の小説を理解して貰えなかった、なんて傲慢な思考が脳内を巡って、僕はそんな自分が嫌になるのだ。
駅周辺の何処かから聴こえてくる、ビートルズのhappy christmasが、沈んだ気持ちを少しだけ興奮させてくれた。
彩希、会いたいよ。また何処かで待ち合わせをしよう。
うちに帰って、原稿用紙の散らかった部屋に適当にカバンを放って横になる。つい一年前までは、彩希と向かい合って座った部屋。今ではこんなに散らかって、足のふみ場もなく思い出を踏んづける。毎度毎度、心が痛む。
彼女はどうして、クリスマスに僕を振ったのだろう。よりにもよって、そんな日に。これじゃあ忘れられないじゃないか。君との日々も、君の声も言葉も、全て。
僕は手元の毛布を引き寄せてうずくまる。彼女と抱き合った温もりが懐かしい。自分一人の体温が、今はなんだかとても寂しくて。ふと視線をやった窓の外は、いつの間にか雪がちらついていた。明日からは本格的に降るようで、さらに冷え込むと考えると辛くなる。
言いたいよ、メリークリスマス。彩希。
震える手で口元を抑えて、極力声を出さないようにして。僕一人の部屋に嗚咽が響く。
僕が馬鹿だった。おかしかったんだ、小説にまとめようなんて。君との日々は、僕らだけのものだ。文章なんかで偽るべきじゃなかった。僕が溺れてたんだ、君との妄想に。向き合うべきだった。ごめん、ごめん彩希。
「メリークリスマス、です、どうぞ」
私は目の前の男に封筒を手渡す。辺りは雪が降っていて、指先が凍るように寒かった。
「ありがとう、ゆっくり読ませてもらうよ、彩希くん」
「はい、是非」
ハルくん、君は何者なの。今どこに居るの。
ここはどこかしら。
病院、医者。
どうして。
あなたは今、泣いているの? 私があなたを振ってしまったから。
私は後悔しているわ。
今、どうしてる?
「ーーええ、間違いないですね。極度の妄想癖があります。今泣いているでしょう。恐らくは…ええ、そうですね。彩希さん自身の中に、一人の人間が居るんです。ハルくん、という、少年がーー」
だけど今日はクリスマスだ、彩希。
僕は君に会いに行くよ。
謝りたいんだ。会ってくれるだろう。
ほら、もうすぐだ。
君の書いた小説を、読ませてくれよ、彩希。
僕はハルだ。
ホワイクリスマスも、独り身にとってはなんの特別なイベントではなく、ただ虚無感と、肌を割る勢いで吹き去っていく極寒の風に気分を害するだけの日だった。
あの日彼女に言われたことを思い出す。
「きっとハル君の中じゃ私は、小説のヒロインに過ぎないんだよね。私はちゃんと、もっと現実の私を見てほしかったかな。…別れよう」
初めこそ苦笑を浮かべていた彼女だったが、最後「別れよう」と口にした時は、その目は少しばかり潤んでいた様な気がする。どうしてかこんなにも彼女との日々を鮮明に思い出せるし、彼女と別れたこの一年間、まるで中身の無い空白の時間だったように思える。
それはきっと、部屋に積まれた自作のお蔵入り小説を、何度も何度も読み返したかだろうと思う。
実際僕は彼女との日々を少し盛りながら小説にまとめ、それを彼女とも共有して読んでいた。そんな何気ない日々が幸せだと、僕はてっきり彼女もそう思っているものだと思いこんでいたが、現実、そんなことはなかった。
「小説のヒロインに過ぎない」という言葉が、今も僕の胸を締め付ける。彼女は僕の小説を読みながら、表向き楽しそうにしていた。だがその内面、実際はどんな事を思っていたのだろう。酷く苦しんでいたに違いない。そう思うと、大好きだった人に自分の小説を理解して貰えなかった、なんて傲慢な思考が脳内を巡って、僕はそんな自分が嫌になるのだ。
駅周辺の何処かから聴こえてくる、ビートルズのhappy christmasが、沈んだ気持ちを少しだけ興奮させてくれた。
彩希、会いたいよ。また何処かで待ち合わせをしよう。
うちに帰って、原稿用紙の散らかった部屋に適当にカバンを放って横になる。つい一年前までは、彩希と向かい合って座った部屋。今ではこんなに散らかって、足のふみ場もなく思い出を踏んづける。毎度毎度、心が痛む。
彼女はどうして、クリスマスに僕を振ったのだろう。よりにもよって、そんな日に。これじゃあ忘れられないじゃないか。君との日々も、君の声も言葉も、全て。
僕は手元の毛布を引き寄せてうずくまる。彼女と抱き合った温もりが懐かしい。自分一人の体温が、今はなんだかとても寂しくて。ふと視線をやった窓の外は、いつの間にか雪がちらついていた。明日からは本格的に降るようで、さらに冷え込むと考えると辛くなる。
言いたいよ、メリークリスマス。彩希。
震える手で口元を抑えて、極力声を出さないようにして。僕一人の部屋に嗚咽が響く。
僕が馬鹿だった。おかしかったんだ、小説にまとめようなんて。君との日々は、僕らだけのものだ。文章なんかで偽るべきじゃなかった。僕が溺れてたんだ、君との妄想に。向き合うべきだった。ごめん、ごめん彩希。
「メリークリスマス、です、どうぞ」
私は目の前の男に封筒を手渡す。辺りは雪が降っていて、指先が凍るように寒かった。
「ありがとう、ゆっくり読ませてもらうよ、彩希くん」
「はい、是非」
ハルくん、君は何者なの。今どこに居るの。
ここはどこかしら。
病院、医者。
どうして。
あなたは今、泣いているの? 私があなたを振ってしまったから。
私は後悔しているわ。
今、どうしてる?
「ーーええ、間違いないですね。極度の妄想癖があります。今泣いているでしょう。恐らくは…ええ、そうですね。彩希さん自身の中に、一人の人間が居るんです。ハルくん、という、少年がーー」
だけど今日はクリスマスだ、彩希。
僕は君に会いに行くよ。
謝りたいんだ。会ってくれるだろう。
ほら、もうすぐだ。
君の書いた小説を、読ませてくれよ、彩希。
僕はハルだ。
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