寂しがりな青のブルース

美也

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Special episode.

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『 白羽根をひろげ青空へ 』

 桜の花びらが青空を舞う、春色に染まった東京。俺達は現在、成田空港にいる―――。

「……葵くん、私のパスポート、何かおかしい?」
「え? あぁ、つい見入っちゃって。MASHIRO……KANZAKI。おんなじ名字でさぁ、眺めてるだけで夫婦間めちゃくちゃ実感してる」

 真白と結婚できた事が改めて感慨深く、その証明であるパスポートの名前を見ながら歩いていたら、心配そうな声が隣から届いて視線を向けた。

 上目で見つめる愛しい顔。それで視界がいっぱいになるとさらに頬が緩んで、止めどなく愛しさがこみ上げる。俺はニヤけたまま当人に向かって惚気てしまった。

 すると真白は瞳を大きくして俺を見つめた後に、おかしいのが俺の方だと気づいたのか、くすっと笑って嬉しそうに目を細めた。

 可愛らしさにますますデレが止まらなくて、パスポートを返して真白の指に自分のを絡めてぎゅっと手を繋いだ。

 浮かれてる……幸せ、すぎて。
 今日、真白を連れてスイスに旅立つ―――『ふたりで羽ばたきたい』俺の願いが実った。

 成田からスイス・チューリッヒ空港へ。出国審査を終えて搭乗時刻までまだ1時間以上ある。これまで忙しく準備してきたから、のんびり真白とこうして手を繋いで歩くだけで……あぁ、幸せだ。

「……私もね、神崎さんって呼ばれると夫婦間すごく感じるよ。でもまだ慣れてなくて、この前も役所で何回も呼ばれちゃった、あはっ」
「ふっ。早く慣れてね~、奥さん?」

 真白の顔を覗き込みながら少し茶化してみたつもりが、「……はい。頑張ります」なんて恥じらって小声で返してくるから、っ!

「ゴホッ、ゴホッ、んんっ」
「葵くん大丈夫?」

 急にむせるくらい照れて、逆に俺を覗き込んできた真白に顔を隠しながらうなずいて見せた。

 真白の新妻っぽい態度、やば。
 俺のこと大事にしてくれてるって、感じ。

 俺も精一杯頑張って、真白に頼られる存在にならないとな。
 真白のこと一生俺が絶対に守っていくんだ……

「葵くん風邪引いた? 忙しくてあまり眠れてないでしょう?」
「ううん。忙しかったのは真白もでしょ? 飛行機で仮眠しよう。爆睡しちゃったら起こして?」
「ふふっ。私、葵くんの目覚まし時計係なのは、高校の時からずっと続くんだね」
「そうだよ? 俺、真白がそばにいると爆睡しちゃうんだよね。これからはずっと一緒に寝れるから安眠の予感しかないな」

 スイスではおじさんの家に同居させてもらう。未熟な俺には過酷であろう本格的な仕事は真白との睡眠で乗り切る考えで、真白と過ごす時間も大切にして仕事と両立させたい。
 
「あ、その予測はしてなかった……スイスでは一緒のベッドで、寝るんだ?」
「当然、夫婦なんだから。え、嫌?」

 俺の期待とは反対に真白が動揺し始めるので焦ったが、すぐ首を左右に振って真白は否定した。

「い、嫌じゃないよっ。私の部屋も用意してくれたって聞いたから別々なんだって思ってて……」
「あー、それはプライバシーを考慮して女性だし。小さめの部屋でベッドはないんだ」
「それで全然、嬉しいよっ」
「俺達の部屋は別にあって……一緒のベッドでいいの?」

 俺が確認してみると真白は高速でうなずいた。それを見て俺はふと違和感を覚える。
 何か真白に不測の事態が起きて困ってるような……同じベッドで寝るのはいいけど?

「……真白、俺、ヤラシイ事はしないよ? んー、絶対じゃないけど?」
「どっち!?」

 予測より強めの圧で真白が聞くから思わず吹き出した。

「ぶはっ。安心していいよ、真白が嫌がる事はしない。欲が無いわけじゃないけど、今は、一緒に居られるだけで俺は満足だし、手を繋いでるだけで幸せだから。……チュッ」

 新妻の頭の中を察知して俺は本心を伝え、繋いだ真白の手に誓いのキスをした。

 何度か泊りがけの時は側で眠ったけど、東京では俺のベッドを貸したし、母さんのとこでは別々の布団だったし。真白の家ではお義母さんが客布団敷いてくれたから。

 まだ、俺達は夫婦になったけど……シていない。

 カップルなのに未経験で結婚とか珍しいかもだけど。でも、これが正当で、俺達の正解なんだと思っている。

 正直、俺の痩せ我慢的なところもあるにはある!
 同じベッドで寝るなら、普通……そうなるよね?
 と真白も推測したのだろう。ほんのり耳を赤くしてうつむき、また小声になって俺に尋ねる。

「……いいの? 葵くんはそれで?」

 あー、もう、心の準備期間あげたのに。
 それ……早く真白の全部、俺のモンにしてもいい、って事?

 ドキッ。
 少し俺の心が揺れ動く。でも―――

「……さっきの言葉に補足すると、俺は真白が何より大事だから。それで、俺達がその一線を越える時も大事にしたいんだ。我慢するのが辛いからって、幸せになる為にサッと一線書くように済ますのとは違う、大事な一線だと思う。あの虹みたいにね、一生に一度の事だからさ。真白も同じでしょ?」
「あ……」
「それに怪我も治ったばっかで無理させてるし、今はスイスの生活に早く慣れる事を優先しよ?」
「そ、そっか。そうだよね!」

 俺が自制心を保つ為の主軸の考えを伝えると、真白はほっとしたのか目元を柔らげ笑顔で納得する。

 あ、俺の好きな表情。
 またそんな可愛い顔をして俺の欲を掻き立ててくるんだから、ホント困るよ……。

「でもね真白、絶対じゃないって言ったのは……」
「ん?」
「真白が魅力的すぎたら、俺の我慢は効かないよ」
「え……?」
「あんまり俺を挑発しないように、これ以上可愛い事しないで」
「なっ、どうゆう事!?」
「とりあえずキスはいっぱいする、必然だから。俺、キス魔だし?」
「いっぱいって、ん!?」

 すぐ有言実行。
 真白を補給して満面笑顔の俺と、仰天顔の最愛の妻。

「ぷはっ。早く慣れてね~、奥さん?」
「……周りに人がいるのに恥ずかしいか、ん!?」
「チュッ。日本だけだよ~愛情表現隠したがるの、大好きの証なのに」
「わかってる、けどっ。が、頑張ります……」

 これから、キスを頑張るって?
 うつむき加減に頬を押さえる真白を見て、俺の頬はとろけそうになる。

 ふと、真白に集中してた視野を広げてみると、ターミナルのガラス壁に停止中の飛行機と快晴の空が映っていた。

 壁一面ガラスのキャンバスに青い空……

「真白! ちょっと止まって両手広げてみて?」
「え……、こう?」

 ―――!
 白羽根をひろげ青空へ。

 真白が着ている白シャツが羽根みたいに見えるんじゃないかと閃いたんだ。やっぱり思った通り……

 幸せな世界へ、羽ばたく瞬間。
 俺と真白の、ふたりで叶える未来。

「……葵くん? わぁっ、何、ん―――!?」
「―――チュッ。真白、大好き……」

 俺は思わず真白を抱え上げて、強めの愛情表現を。衝動を抑えきれずに熱めの視線で見つめていると、萎れるように肩にもたれてきて真白は俺に抱きついた。

 それで、まだ恥ずかしがり屋な奥さんは、頑張って俺の耳元で囁いてくれたんだ。「……私も大好きだよ」

 きっと、ずっと―――。
 この気持ちは永遠に続いてく。



                   END.


読者様に感謝をこめて。作者より
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