冷血皇帝をぽわぽわさせる王女さま。

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美貌の王女はぽわぽわ属性

帝国への道中

「姫様、本日の宿にそろそろ到着するようです」
 長時間の馬車での移動で疲れが見えてきたエスメラルダがライラは心配で堪らない。
 優しく労わるような声でエスメラルダに話しかける。

「あら、もう着くのね。見慣れぬ景色を眺めているだけであっという間ね」

 うふふと微笑むエスメラルダ。
 ライラが心配性なのを知っているので、気丈に振舞っていたがそろそろ限界であった。
 なにしろ帝国までの移動スケジュール、一日のうち馬車での移動時間でほぼ十二時間。
 野宿などさせられないので、宿から宿へと移動している為、どうしても馬車での移動時間が増えてしまうのだ。
 途中、三時間ほど走らせて馬を休ませる為に三十分程の休憩を設けたりしているが、掌中の珠でありアレンズデールの至宝として大切に真綿で包むように育てられたエスメラルダにとって、初の遠出であり長時間の移動である。
 初日から二日目、三日目と日が過ぎるごとに疲労が蓄積していっているのも関係しているのだろう、段々と疲れを隠せなくなってきている。

「今日は湯あみ後、しっかりマッサージで凝りを解しますからね。いつもは簡易的でいいと仰られるからしつこくしませんでしたけど、今日はしっかり致しますよ。」

 ライラも疲れているだろうと、マッサージは簡単に済ませて貰っていた。
 けれど今日のライラは譲らないだろう。

「ライラも疲れているのに、ごめんなさいね。わたくしもライラにマッサージ出来る技術があればいいのに……そしたらマッサージをしたりされたりお互いに出来るでしょう?」

 エスメラルダが呑気に言えば、ライラは「とんでもござまいせん! 一国の姫が使用人にする振舞いではございませんよ! 姫に尽くせる事で私の疲れ等消えるので問題ございません。姫様の御心だけ有難く頂戴致します。」

「まぁ……ライラは優しいのね。ありがとう。」

 年齢差が然程ないというのに、まるで第二の母のように慈愛に満ちた瞳に見つめられ、エスメラルダは微笑んだ。



            ♢♢♢


 明日はいよいよ帝国に到着する。
 エスメラルダは明日が楽しみで仕方がなかった。
 我が国アレンデールは、世界随一の魔法大国である。
 他国が今の我が国と並ぶには先百年は掛かるであろうと言わしめているお陰で他国の侵略を不可能にしているが、決して大きな領土を所有している訳ではなく、規模でいえばどちらかと言えば小国。
 反対に帝国は莫大な領地を有し、属国をいくつも従えた大国である。
 現在の帝国は沢山の種族や移民が入り乱れて成り立っている。
 様々な種族が居るという事は文化も多様であり、移民があちらこちらから居るという事は、沢山の珍しい食べ物や物が溢れているという事である。
 産まれてからずっとアレンデールからだけでなく、王都からすら出た事のないエスメラルダは、それが今から楽しみで仕方がないのである。


 明日に向けて数日前から本格的な肌や髪のお手入れをされている為、エスメラルダの寝支度が終わるころはそこそこ夜も更けた頃になった。

「ん~、眠いわ……途中から半分意識が無かったと思うわ……。ああでも、明日はやっと帝国よ! 眠れないかもしれないと思ってたけど、大丈夫そう。ライラも連日のお手入れ有難う。おやすみなさい。」

 エスメラルダが微笑むとライラも微笑み返す。

「帝国に到着後もお手入れは頑張りましょうね。姫様の美しさを少しも損なう事のないよう、心を込めて尽くさせて頂きますね。」

 ライラが寝室を静かに退室すると、エスメラルダはお行儀が悪いと思いながらもベッドへとダイブした。

「うふふ、うふふふ、どんなお食事があるのかしら。事前に情報を調べておければ良かったのだけど、突然でしたものね、何も分からないわ。でも逆に知らなくて良かったのかもしれないわ。知る楽しみが増えたもの。」

 シーツに頬を摺り寄せながら、ご機嫌な独り言を呟く。

 そこへ、コツンとガラス窓をたたく音がした。

 音のする方へチラリと視線をやって、エスメラルダの瞳がまん丸になる。

「あ……前に見た蝶…?」

 窓の外で花びらのような翅をひらりひらりとはためかせ飛んでいるのは、エスメラルダの元へ来たあの帝国の蝶であった。

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