冷血皇帝をぽわぽわさせる王女さま。

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美貌の王女はぽわぽわ属性

語る蝶と皇帝の真実の姿

 エスメラルダは目を丸くして蝶を見ると、ベッドから降り窓際まで移動すると、そっと小さく窓を開けた。

 ひらひらと舞う蝶は我が物顔で室内へと入室すると、エスメラルダを呼ぶようにベッドの真上でひらひらと待機する。

「こちらへ来いという事なのかしら……」

 ベッドへと戻り、ちょこんと座る。
 ふわりふわりと浮かぶ蝶を見つめながら、ふと、蝶の羽模様が前回と少し違っている事に気付く。

(同じ蝶かと思って室内に入れたけれど、違ったのかしら……入れたのはダメだった?)

 そんな事を思っていると、蝶の模様に沿って魔力が湧き出すようにキラキラと発光しだした。


「エスメラルダ姫、長旅疲れたであろう。」
 まるでチョコレートを溶かした何か。低く艶めいたバリトンが蝶から聴こえた。

「えっ、どなたですの……?」
 突然の男性の声にエスメラルダは驚きと不信を感じる。
 ぽやぽやしているが、無警戒なバカではないのだエスメラルダは。

「これは自動音声だけの蝶だ。私はロワイヤル帝国皇帝、ラキウスだ。明日はいよいよ我が帝国に到着すると報告を受けた。姫の到着を首を長くして待っている。残りの道程も恙なく安全に到着出来るよう我が国の騎士団が万全を持って守護させて頂く。安心するがよい。では、また明日」

 全てを再生終えたのか、蝶はふわりと空気に溶け込むように消えた。

「ありがとうございま……す? あら勝手に話して勝手に消えたわ。」

 皇帝であるラキウスにこちら側の声が聴こえる事はないだろうが思わず言葉に出たお礼も突然消えた事で疑問形になる。

「無慈悲とか冷酷とか様々な噂がある方のようですけれど、このようなお気遣いが出来る方ですもの。きっと噂は噂なのね」

 良い方で良かったわ。
 アレンズデールからレイスやライラが付いてきてくれているとはいえ、微塵も不安が無いという事はない。
 ちりちりと燻っていた心の奥の不安が少し宥められた気がして、エスメラルダはホッとするのだった。




 ――――ロワイヤル帝国、皇帝の寝所では。


「明日はいよいよ、エスメラルダが到着するのか。俺の噂を訊いて怯えてないとよいが。」

 流れる噂の全てが事実という訳ではないが、半分くらいは事実な自覚があるラキウスは苦笑する。

 巨大な帝国を掌握し舵取りをするには、代々の皇帝の血を所有する皇子というだけで出来るものではない。
 武に長け、智に長け、時には一切の情を排除する振る舞いをしなくてはならない。
 そしてそれだけ出来たとしても舵取りが出来るというわけでもない。
 1人だけで何もかも出来た所で、これだけの国の管理は無理である。
 忠臣を幾人も従える事の出来る、臣下にとっての魅力や能力を持ち、なおかつ求心力のような、説明のつかない惹きこまれるカリスマ性を持たなければ、これほどまでの大国の頂点にこの若さで君臨する事は無理である。

 その全てを兼ね備えるラキウスは、歴代でも並ぶ事のない絶大なる力をもった皇帝であった。

 素晴らしく優秀であるという事は、期待も大きい。
 ラキウスが望む望まぬ関係なく、その期待はエスメラルダ1人だけ娶る等許されない程である。
 属国の中でも力のある国から一人、帝国内の高位貴族から一人、隣国から一人、側室として迎えた。
 エスメラルダを迎えるにあたって後宮を解体し、側室との離縁を画策したが、なかなか骨が折れる事に側室たちが首を縦に振らない。
 無理矢理に離縁して国外退去を命じようとすれば、側近から止められた。

「わざわざ火種を作らずとも、エスメラルダ姫が輿入れし、ラキウス様の寵愛が姫だけにあると判明すれば、主の訪れない日々に根を上げた側室達は我先へと高額な慰謝料を貰い離縁状にサインするでしょう。」

 エスメラルダ姫に、側室を三人も持つ女好きだと思われたくないのだが……と、ラキウス。

「何、初恋に悶える少年のような事いってるんですか。貴方は皇帝です。もっとシャキッとなさい。姫には輿入れされたら説明されればよろしい。大体ですね、側室を一度も貴方の寝所に呼ぶ事も、後宮へ訪れ夜を共にすることも一度もないくせに。その事実を持って姫に説明すれば女好き等と思われる事はありませんよ。」

 ラキウスの幼馴染兼側近のライマールは断言した。
 一見不敬に思われる言動が出来るのもライマールだけである。

 エスメラルダ関係では人が変わったようにぐずぐすする皇帝の尻を叩いて婚約打診の蝶を送ったのもライマールであった。

「ああ……ちゃんと説明する。」

 ラキウスはため息交じりにそう答えたのだった。


 そのライマールとのやり取りを思い出しながら、ラキウスはベッドに身体を横たえ目を閉じる。

 瞼に浮かぶのは幼き日のエスメラルダの姿。
 成長したエスメラルダの姿は、アレンズデールから取り寄せた絵姿でしか確認した事がなかった。

 とくとくとくと速く鳴る胸を片手で抑えると「眠れそうにないな……」とぽつりと呟くのだった。



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