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6話
大広間の光は依然として眩く、シャンデリアの輝きがクリスタルに反射してきらきらと揺れていた。
しかし、私の視界に映る光景は、昨日までの夜会とはまるで違う重さを帯びていた。
ニーナは、エミールの不機嫌な視線を完全に無視し、今度は颯爽とアランの前に立った。
「ねえ、アラン様……今日はお話できてうれしいわ。もっとお話できませんか?」
口元には微笑が浮かぶが、その瞳には挑戦の色も見える。
だが、アランは眉を少ししかめ、冷ややかな声を投げた。
「ニーナ嬢……すまないが、君のような女性とは話をする必要性がない」
ニーナは呆気にとられた表情を浮かべた。
わがままで何でも手に入れてきた彼女だから、こうも明確に拒絶される経験は新鮮だったのかもしれない。
「どうして? わたし、何か悪いことをしましたか!?」
抗議の声が少し震えている。ニーナは、いつもなら状況を掌握して微笑む立場だ。しかし、今の彼女は言葉を探している。
「身勝手すぎるんだ、君は」
アランの声は静かだが、鋭く突き刺さる。
周囲のざわめきも、一瞬止まったように感じた。
当然ニーナも固まっていた。何も言えず、何もできないようだ。
「わたし……アラン様となら婚約してもいいって思っていました。それなのに、酷い……」
「そうだったのか。でもお断りだ。そんな上から目線で思われたところで嬉しくもなんともない。むしろ不愉快でしかない」
「そんな……」
ニーナはあまりの事態に目に涙を浮かべ始めた。
「自分の望むことばかり押し通して、人の気持ちを考えない。そんな女性とは、僕は人生を共にできない。だから婚約なんて無理だ」
ニーナは唇を噛み、言葉を失う。
そして、追い討ちをかけるように、アランは視線を私に向けた。
「アマンダ……もし君がよければ、僕と婚約してほしい」
その声は、温かく、確かな真意を伴っていた。
ニーナに向けるものとはまるで異なり、私のために、私を思いやってのものだ。
気持ちが嬉しかったが、唐突な婚約の申し出には驚き息を呑んだ。
胸の奥が高鳴る。こんなことが起こるなんて、思ってもみなかった。
「……ええ、喜んで」
言葉は自然に出てきた。目の前のアランの瞳に、私は確かな温かさを感じた。
ニーナは呆然と立ちすくみ、エミールはその場で怒りに震えている。二人はすぐに口論を始めた。
大広間の中心で互いに罵り合い、怒声を上げる声が周囲に響く。
けれど、私とアランの世界は別だった。彼は私の手を取り、優しく握る。心地よい安心感が全身を包む。
「これで……やっと、僕たちの時間が始められるね」
小さな声でそう言う彼に、私は頷いた。
「はい……アラン様となら、きっと幸せになれる気がします」
その言葉に、彼も笑みを返す。夜会の喧騒も私たちの間には届かない。
迷惑だからと大広間の片隅に追いやられたニーナとエミールは口論を続けている。
一方で私たちはただ静かに、手を取り合い、未来を感じていた。
光の中で、アランの瞳に映る私の笑顔は、初めて誰かに愛されている実感で輝いていた。
やっと――心の奥にあった冷たい闇が溶けて、温かな希望が流れ込んでくる。
夜会の喧騒を背に、私たちは静かに、しかし確かに、幸せの第一歩を踏み出したのだった。
しかし、私の視界に映る光景は、昨日までの夜会とはまるで違う重さを帯びていた。
ニーナは、エミールの不機嫌な視線を完全に無視し、今度は颯爽とアランの前に立った。
「ねえ、アラン様……今日はお話できてうれしいわ。もっとお話できませんか?」
口元には微笑が浮かぶが、その瞳には挑戦の色も見える。
だが、アランは眉を少ししかめ、冷ややかな声を投げた。
「ニーナ嬢……すまないが、君のような女性とは話をする必要性がない」
ニーナは呆気にとられた表情を浮かべた。
わがままで何でも手に入れてきた彼女だから、こうも明確に拒絶される経験は新鮮だったのかもしれない。
「どうして? わたし、何か悪いことをしましたか!?」
抗議の声が少し震えている。ニーナは、いつもなら状況を掌握して微笑む立場だ。しかし、今の彼女は言葉を探している。
「身勝手すぎるんだ、君は」
アランの声は静かだが、鋭く突き刺さる。
周囲のざわめきも、一瞬止まったように感じた。
当然ニーナも固まっていた。何も言えず、何もできないようだ。
「わたし……アラン様となら婚約してもいいって思っていました。それなのに、酷い……」
「そうだったのか。でもお断りだ。そんな上から目線で思われたところで嬉しくもなんともない。むしろ不愉快でしかない」
「そんな……」
ニーナはあまりの事態に目に涙を浮かべ始めた。
「自分の望むことばかり押し通して、人の気持ちを考えない。そんな女性とは、僕は人生を共にできない。だから婚約なんて無理だ」
ニーナは唇を噛み、言葉を失う。
そして、追い討ちをかけるように、アランは視線を私に向けた。
「アマンダ……もし君がよければ、僕と婚約してほしい」
その声は、温かく、確かな真意を伴っていた。
ニーナに向けるものとはまるで異なり、私のために、私を思いやってのものだ。
気持ちが嬉しかったが、唐突な婚約の申し出には驚き息を呑んだ。
胸の奥が高鳴る。こんなことが起こるなんて、思ってもみなかった。
「……ええ、喜んで」
言葉は自然に出てきた。目の前のアランの瞳に、私は確かな温かさを感じた。
ニーナは呆然と立ちすくみ、エミールはその場で怒りに震えている。二人はすぐに口論を始めた。
大広間の中心で互いに罵り合い、怒声を上げる声が周囲に響く。
けれど、私とアランの世界は別だった。彼は私の手を取り、優しく握る。心地よい安心感が全身を包む。
「これで……やっと、僕たちの時間が始められるね」
小さな声でそう言う彼に、私は頷いた。
「はい……アラン様となら、きっと幸せになれる気がします」
その言葉に、彼も笑みを返す。夜会の喧騒も私たちの間には届かない。
迷惑だからと大広間の片隅に追いやられたニーナとエミールは口論を続けている。
一方で私たちはただ静かに、手を取り合い、未来を感じていた。
光の中で、アランの瞳に映る私の笑顔は、初めて誰かに愛されている実感で輝いていた。
やっと――心の奥にあった冷たい闇が溶けて、温かな希望が流れ込んでくる。
夜会の喧騒を背に、私たちは静かに、しかし確かに、幸せの第一歩を踏み出したのだった。
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