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しおりを挟むアイラ=ハートレイというこの少女は、5年前に出会ってから今まで毎日のようにその魅力を更新している。
このところ華奢な手足はたおやかに伸び、胸や肩は丸みを帯びてきている。白いうなじは清らかさの内にどうしようもない色気を秘めている。
(同性ってだけでこの距離は美味しすぎるよな)
アイラのベッドに一緒に座って彼女を眺める。彼女は楽しそうに今日できた友人のことを話しているが、正直そこまで興味がない。
コロコロと変わる表情、よく動く柔らかそうな唇、笑うとえくぼの浮かぶ白い頬。
艶やかな濡れ羽色の髪や囁くように詠唱詩を唱える声も有名だが、彼女の1番の魅力はその瞳だと誰かが噂していた。
銀色の双眸は角度によって虹のように色を変える。精霊を目視できるらしい彼女の瞳はきっと、空を舞う精霊達の光を受けて輝いているのだと専らの評判だ。
「それでね、テオったらイリオス=ルーフェルの論文はどれも乙女チックすぎるって!私もロマンチックなんだなとは思ってたんだけど……」
「それで、お姫様はどうして殿下を図書館に置いてきちゃったのかな?」
話を遮ってそう聞くと、楽しそうだった表情はすぐに拗ねたようなそれに変わった。
「……だって、私のことだけじゃなくてテオのことまで平民だからって馬鹿にされたんだもの。怒りたくもなるわ」
「はあ……まったく、自分で迎えに行ったくせに何やってんだかあの人は……」
「え、自分で?」
思わず頭を抱えてため息をつく私の声にアイラが反応する。余計なことを言ってしまったと思ったが、アイラは耳もいいから誤魔化すわけにもいかない。
「うん、ユリアと私で迎えに行こうとしたら、自分が行くって」
「……なにそれ。今更ツンデレぶられたって萌えないわよ」
「つん…もえ……?」
「こっちの話だから気にしないで」
肩を竦めてなんでもないように流すこのお姫様は、時折わけのわからない言葉を使う。
つんでれとか、おとめげーとか、まじとかうけるとか、聞き馴染みはないが彼女は自然な風にそれらの言葉を使う。
精霊たちの使う言葉だろうか。
「ああ、そうだ」
「どうしたの?エル」
彼女の変な言葉のことを考えていたら、先ほどの図書館での出来事をふと思い出した。
「殿下が姫を迎えに行った後、ユリアがぶつぶつ変なこと呟いてたんだよ。なんだっけな、たしか『やばい』とか言ってたかな?」
「やばい……?」
「うん、姫がたまに使う不思議な言葉と似てるなって思ったんだけど……うわっ」
彼女の言葉を思い出しながら話すと、アイラはガッと私の腕を掴んで身を乗り出してきた。
「ほ、他には!?他には何か変なこと言ってなかった!?」
「え、他……?」
そうだねえと思い出そうとするが、アイラの胸やら息やらが体に触れているから気分がそれどころではない。
「変な言葉はそれだけだったけど……あ、そういえば『このままじゃヒロインが』とか『まだ好感度が』とかなんとか言ってたかな」
「ヒロイン……好感度……間違いないわ」
「ん?姫?」
戸惑う私をよそに、アイラはブツブツと何か言いながら自分の世界に入り込む。私はさりげなく腕を彼女の体から離して。そのままベッドにごろりと寝転んだ。
***********
間違いない。ヒロインはこのゲームについての知識を持っている。あと多分日本人。
(やばいって……自分が使う以外ですごい久しぶりに聞いた)
小説のような展開に胸が高鳴ると同時に、懐かしさが込み上げてくる。
自分にはユリアと攻略対象たちの仲を阻む意思はないことを伝えて仲良くなれたら、もしかすると日本の話で盛り上がったりできるかもしれない。
(緊急任務よ、アイラ……ヒロインともっとお近づきにならなきゃ!)
一昔前のスポ根漫画のようなテンションになりながら、ゴロゴロしているエルの横に私も転がった。エルが一瞬ビクッとしたので、もしかするとニヤニヤついでに変な笑い声でも出してたかもしれない。
***********
次の日、授業が終わるや否や私はユリアのもとを訪れた。
「ユリア!ちょっとお時間よろしいかしら!」
「アイラ様!?それは大丈夫なんですけど……あら?エル様は……?」
「わたくし、あなたと二人きりで話したいことがありますの!」
「ふたりきり……」
二人きりという言葉に反応して目を輝かせるユリアを引っ張って、私は急ぎ足で中庭へ行った。
「それでアイラ様、お話というのは?」
ベンチに行儀良く座ったユリアが、可愛らしい笑顔でこちらを見る。
「どこから話しましょう……そうね。まずは、日本という国に心当たりは?」
「日本……えっ、もしかしてあなた、」
「やっぱり!あなたも日本人なのね!」
丸くて大きい目をさらに見開いて驚くユリアの手をとる。
「そ、そんな……」
ユリアが瞳を潤ませながら私をじっと見つめる。
「あの、私、あのゲームの中でもアイラ様が1番の推しで……」
「……それは……ごめんなさい、理想と違ってがっかりよね……」
彼女の震える声にハッとする。
私はこのゲームを知らないが、彼女が真っ当なファンだった場合、推しキャラに中の人がいただなんて知ったらがっかりもいいところだ。
「でもね、あなたと攻略対象の邪魔をしようなんて思ってなくってね、」
「さいっっっこうです!!」
「!?」
私が握っていたはずの彼女の両手は気付くと私の頬を包み込んでいた。
少女漫画顔負けのキラッキラな目がこちらを見て、その頬はほんのり赤く染まっている。
「理想通りのアイラ様とまさかこうやって二人だけの情報を共有できるなんて!これなら計画も立てやすいわ!」
「あの、ユリア?」
「アイラ様にはなんとしても幸せになってもらわなきゃ!ね、私の計画を聞いてもらえます?」
「あの、ユリアさん……?」
「あ、でももしライバルたちの中に推しがいるなら協力します!アイラ様の幸せが一番だもの!」
「ライバル?ねえちょっと待って、話が見えない」
興奮して捲し立ててくるユリアの口を塞いでみた。口を押さえられた彼女はパチパチと瞬きをする。長い睫毛で風でも起こりそうだ。
「……アイラ様、もしかしてこのゲームのことあんまりご存知ないんですか?」
「えっと、お店で宣伝を見ただけだから……攻略対象たちの顔はなんとなくわかるんだけど……」
「え?攻略対象?」
柔らかな曲線を描いていたユリアの眉が、きゅっと寄せられる。
そして紡がれた言葉は、信じがたいものだった。
「攻略対象はアイラ様ですよ?」
…………?
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