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02 ■The day love began■――恋が始まった日

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 月日が流れるのは早いもので、ベッキーが教会を去る日がやってきた。

 あれから知ったけど、かなり遠い街まで行くらしい。
 それって多分、もう二度と会えない。

 毎度のことといえば毎度のことでもあるのだけれど。
 みんな、野原でありったけの花を積んできて、花かごを作った。

「ありがとう、いくつか押し花にしてずっと大切にするわ」
 ベッキーも、まだ残る私達も、目の形が変わってた。泣きすぎて。

 迎えはベッキーのお兄さんになる人がやってきた。
 私はその人を見て、震えるほど安堵した。

 『特別な夢』で見た人だったからだ。
 夢では大人になったベッキーとお兄さんが、幸せそうに自分たちの赤ちゃんを覗き込んでた。

 よかった………!!

 私はベッキーの手を握って――心を込めて呟いた。
「ベッキー聞いて。絶対絶対大丈夫。ベッキーは幸せになれるから。ベッキーが選んだ道は間違いないから信じて進んで大丈夫だよ。ベッキー、ありがとう。大好き……」


 最後にギュッと抱きしめて。
 その時、ザァっと草木がゆれて周りが一瞬明るくなった気がした。
 周囲から息を呑む声が聞こえた気がしたけど、きっと皆がお別れでまた泣き出したんだろうと思った。


「……。プラム、あなた。……ううん、なんでもない、ありがとう、私も大好きよ!」
 ベッキーは微笑んで私の頬にキスしてくれた。

 気がつけば庭の木の花が開花して花びらが舞っていた。
 真っ白な花が。
 あれ? この木の花、こんなだっけ?

 誰かが神様の奇跡だ、とポツリと囁いた。
 私もそう思う。
 ひょっとしたら神父様が魔法をつかったのかな……?


 その後、拍手がわきおこり、花舞い散る中、ベッキーの見送りはとても賑やかになった。


 その夜、チビたちが寝た後、ブラウニーと窓の外の星を眺めながら雑談した。
 私達はずっと小さい頃から、たまにだけれど、こうやって寝る前に話しをする。


「再来年は私達だね。ブラウニーはどうするの? ……男の子はわりと引取先多いでしょ?
それとも冒険者ギルドに登録したりするの?」

 ブラウニーは冒険者ギルドにインターンで通ってる。

 冒険者ギルドっていうのは、簡単に言うと何でも屋さんが集まるところ。
 困ってる人が依頼をだして金額を提示する。

 それを引き受けて解決して稼ぐ、という仕事。
 仕事内容は何でも屋なだけあって幅広い。
 魔物退治から草むしりまで……。

 神父様は卒業の2~3年前から教会の男の子たちにその冒険者ギルドのインターンに行かせる事が多い。
 インターンは、勉強させてもらうかわりに無料で仕事に同行させてもらう。

 冒険者ギルドのインターンは、様々な事をやるために、身体や精神が鍛えられるらしい。
 最終的に引取先を選ぶにしろ、神父様的にはやらせておきたいらしい。

 女の子はその子が強く希望しないと冒険者ギルドには行かせないみたい。
 女の子にはハード過ぎるんだって。
 その代わり、花嫁修業させたり、様々な職業の資格とか取らせる方針。

 私はブラウニーと別れなくて済むなら、なんでもいいんだけどな……。
 でも一緒の引取先なんてまずありえないしなぁ。
 なんとか別れないで済む方法ないかなぁ。

 ……というかその前に、ブラウニーが私の事、どう思ってるか……。
 仲良しなのは自信あるけど。

 私の『好き』とは違うかもしれない……。
 そうなったら根本的に、この先一緒は無理……。
 それ考えると、一生気絶していたくなる。


「オレは旅にでるかもな。引取先には魅力感じないし」
「え、じゃあ私も……行く!」


 かもって言ってるけどブラウニーの表情見るともう決めてると思う。……なら、ついていきたい!


「……それは、無理じゃないか?」
「えっ」

 速攻で断られ……ん?断られたの?
 え…。え……。


「あー、いや。別について来る事が嫌で否定してんじゃないぞ」
 ブラウニーが私の顔を見て、そこは否定してくれた。
 とはいえ……駄目なの?

「……お前さ、今日魔法使っただろ。最後にベッキーに抱きついてた時だ」

 私は首をかしげた。

「私が魔法を……?」

「やっぱり、お前自分で気がついてなかったのか? そんな気がしてたんだ。神父様が祝福される時に、光を纏われるだろ?あんな感じに光って……何故か季節外れの花が咲いた」

 ブラウニーは何かを諦めるような、そして真剣な顔をしている。

 彼の言いたいことを察して、私は目の前が真っ白になる気がした。

 この世には魔法があり、魔力を持っている人間が魔法を使う。
 魔力をもっている人間は珍しく、とりあえず魔力が持っている事が発覚したら、一度は王都に連れて行かれて『登録』される。

 これは治安のためでもある。
 魔力保持者が好き勝手に魔法を使えないように法をしいてるのだ。


 魔力保持者はそのように強制的に登録されるが、例えば平民の場合、衣食住はじめ、勉強や職業の斡旋など、国から様々な援助が受けられる。
 またその魔力の質によっては、王族の伴侶になったり、王宮で働ける高給取りになったり、子供の場合はどこかの貴族の養子になったり……可能性がぐんと広がるのだ。

「つまり私に聖属性の魔力があるかもってこと……だよね」
「いや、あるだろ。聖属性は特に希少……だったよな。おめ」

 そっけなく祝われる。

 なんとなくブラウニーが遠く感じる。
 いやだ、泣いてしまう。

「明日、神父様に呼ばれただろ。多分その話されるんじゃないか」
「そっか。うん……」

 ……私、きっと王都に連れて行かれるんだ。

 魔力があると発覚した時点で、王都にはすぐに報告がされる。
 というか、魔力持ちを見つけた人は報告する義務があるのだ。
 孤児なんてほぼ100%強制的に連行されて、ここへは帰してもらえないだろう。

「……私、いやだ、王都なんて行きたくない。私はブラウニーと……一緒に旅に出たいよ……」
 涙がパタパタと落ちた。

「……プラム…あ…」
 どうしよう、涙が止まらない。

「泣いて…ごめ…ん…」
 涙を止めることを考えて、私はそれ以上喋れなくなってしまった。

「……あ、あー、クソ…ッ…」
「……」

 彼はダークブラウンの髪をぐしゃぐしゃする。

 普段おろして見えない額に、以前、シスター・イラから私をかばって大怪我した名残の十字傷が見える。
 その傷跡を見たらさらに泣きたくなった。

 いつも思ってた。
 私はすぐ治るのに、ブラウニーは跡が残っちゃうんだって。

「……う」

 口元を抑えた。
 もう駄目だ、何をどうしても自分の中が悲しみでヒートアップしていく。
 その時、ブラウニーが私を引き寄せてギュッと抱きしめてくれた。

「――っ」
「……いや、態度が悪かった、ごめん。オレは……おまえとこの先もう一緒にいられないって事が、わかってしまってショックだったんだ」

「オレは……どこでもいいから、お前と一緒に教会を出ていきたかった。
お前と一緒ならどこでもなんだって頑張れるって思ってたから。でも、もう無理なんだなって」

 ブラウニー、そんな風に思ってくれてたんだ……。

「私それがいい!そうしよう…よ…いたっ」
 デコピンされた。

「ったくよりによって聖属性かよ。あんな大勢の前で……もう隠すこともできないだろ、バカヤロー……」
 ブラウニーは言う事は正しい。

 私が私の魔力に気がついて、ひた隠しにすれば普通の人間として生きていけたかもしれないのだ。

 おそらく私のことを報告することになるのは、現在の保護者である神父様だろう。
 きっと近いうちに王都に連れていかれ………あれ?

「どうした? 急にキョトンとして」

「私ってすぐ怪我が治るじゃない? あれって聖属性の力もってるからじゃないかって、今ストンと納得したんだけど……神父さまもこのこと昔から知ってるじゃない? 神父様だってそれこそ聖属性なんだから、わかってたんじゃないかしら。 何故今まで私のこと国に報告しなかったんだろ??」

「あ……。そういやそうだな。明日話す時に聞いてみろよ。神父様は…何考えてるのかわかんない顔してっから、正直なところ聞いてみないとな」

 え、ブラウニーは神父様のこと、そんな風に思ってんの?
 そんな、何を考えているかわからないなんて……まるで胡散臭い神父、みたいな言い方。

 ……しかし、ブラウニーに言われるとそんな気がしてくる。
 ブラウニーの人を見る目は的確だからなぁ……。

「あとは今日のアレが観測所に……っとそろそろ寝るか。朝食遅れたらまたシスター・イラのビンタくらうからな」

 ?

 ……観測所ってなんだろう。まあいいか、また今度聞こう。
 それより――

「……そうだね。ねぇ、ブラウニー」
「ん?」
「大好き」

 私はブラウニーの頬にキスした。……いいよね?

「――!?」

 ブラウニーの顔がカーっと赤くなっていく。
 私は涙を袖で拭きつつ、

「私、ずっとブラウニーといる!! そうなるように頑張る!! 神父さまに明日お願いする!! だから、ブラウニーも、ずっとずっと一緒にいて欲しい!!!」


 ブラウニーはフーっとため息をついた後、微笑んだ。

「……わかった、約束する。オレも何があってもお前と生きていく。ずっと傍にいる」

 そして私の額にキスしてくれた。


「……っ」
 もう駄目だ、今夜は絶対眠れない。




 その後、私達は各々のベッドにはいった。
 枕を抱っこして、私は考える。

 ひょっとしたら、神父様は黙っててくれるのかもしれない。

 神様、どうかお願いします。
 私ずっとブラウニーといたいです…。
 ブラウニーとずっと一緒にいたいです、
 ブラウニーとずっと一緒にいたいです、

「ブラウニーとずっとい…zzz」

「……声にだして祈るなよ」
 意識を手放す刹那にブラウニーの声が聞こえた気がした。

 そのあと、確かにやさしい手が頭を撫でてくれて
 心地よくて、私は深い眠りに落ちた。

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