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【02】貴族の馬車
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「今日、午前中ダンジョンに行ってきたんだ」
「え、すごい」
その日、ミューラはエドガーと昼過ぎに、孤児院の庭のベンチに腰掛け雑談していた。
エドガーは今朝、冒険者に付いて、近場にあるダンジョンに『狩り』に行ってきたと言う。
その近場のダンジョンは、手軽なモンスターが沸いて出る冒険者たちにとって手頃な場所だった。
ダンジョンに潜る理由は多岐に渡るが、一番メジャーなのは魔物退治である。
ダンジョンにも種類はあるが、そこは倒しても倒しても魔物が発生するタイプのダンジョンだった。
そこから這い出てくる魔物を退治したり、またはダンジョンの中にいる魔物を排除したりするのだが、それが金になるのだ。
定期的に駆除しなければ近場の村や街が危ないからだ。
「剣の扱い方が上手いって褒められた」
エドガーが嬉しそうに言う。
「すごいね! エドガーなら騎士にだってなれるかも! 魔力もあるんだし!」
「それは夢見過ぎな気がするな。でも魔法は、そのうちギルドで教えてもらおうとは思ってる」
冒険者ギルドでも、授業料を払えば冒険者向けに研究された冒険者魔法というものを教えてもらえる。
この世界の魔力保持者は、それぞれ属性という個性があり、それに沿った魔法を覚えていくのだが、冒険者魔法は魔力さえあれば誰でも使えるチープで便利な魔法が多い。
「そうかなぁ。将来は冒険者で決まりかな、エドガーは」
「とりあえずはそうだな」
「がんばってね」
「ミューはどうするんだ?」
「私は……えっと。とりあえずどこかで雇ってもらえるところ探すよ。お店の売り子とかかな……」
「そうか。もしそうなったら店に必ず尋ねにいくからな。お互いがんばろうな」
「うん」
その時、教会の前に1台の馬車が止まった。
「あれ、お客様かな」
「……馬車が豪華だな。貴族かな」
「誰かを引き取りに来たのかな。エドガー目当てかな?」
「ありえるな。しかしそんな話、オレは聞いてないから別のヤツか?」
「誰もそんな事言ってなかったけどなぁ」
訝しげに馬車を見ていると、降りてきたのはやはり、貴族に見える男女だった。夫婦だろうか。
馬車から降りてきたその2人に、付近にいたミューラとエドガーは話しかけられた。
「君たち、院長先生はおいでかな?」
そう尋ねてきた紳士の髪は茶色く、瞳は鳶色(とびいろ)だった。
――私と、同じ色合いだ。珍しくはないけれど……。
「……はい、ご案内いたします」
その横で微笑んでいる夫人も少し赤みがかった茶髪に黒い瞳をしていた。
――私にお父さんとお母さんがいたら……って想像してた人たちに、似てる。
ミューラは、自分の両親がどんな人たちか、というのをたまに想像していた。
ちょうど、その想像の両親にこの2人は似ている、と思った。
「(ただ、お貴族様では想像していなかったけど)」
2人を院長先生のところへ案内したあとは、エドガーと2人でキッチンに行き、夕飯の支度を始めた。
大家族なので早めに支度しないと、定められた夕食時刻に食事が用意できなくなってしまう。
他の子たちもやってきて、みんなで手分けし始めた時。
「ミューラ、ちょっといらっしゃい」
いつも優しい顔の院長先生が真面目な顔をして、やってきて、ミューラを呼んだ。
ミューラの心臓がドキリとした。
今、院長先生の部屋にはあの2人がいるはずだ。
そして、自分が呼ばれた。
まさか――。
「ミューラ……」
エドガーが心配そうな顔でミューラを見ている。
その他の子ども達も、無言ではあるが、ピンと来た顔をしている。
「ちょっと、行ってくるね」
ミューラはそう言って、院長先生について行った。
「え、すごい」
その日、ミューラはエドガーと昼過ぎに、孤児院の庭のベンチに腰掛け雑談していた。
エドガーは今朝、冒険者に付いて、近場にあるダンジョンに『狩り』に行ってきたと言う。
その近場のダンジョンは、手軽なモンスターが沸いて出る冒険者たちにとって手頃な場所だった。
ダンジョンに潜る理由は多岐に渡るが、一番メジャーなのは魔物退治である。
ダンジョンにも種類はあるが、そこは倒しても倒しても魔物が発生するタイプのダンジョンだった。
そこから這い出てくる魔物を退治したり、またはダンジョンの中にいる魔物を排除したりするのだが、それが金になるのだ。
定期的に駆除しなければ近場の村や街が危ないからだ。
「剣の扱い方が上手いって褒められた」
エドガーが嬉しそうに言う。
「すごいね! エドガーなら騎士にだってなれるかも! 魔力もあるんだし!」
「それは夢見過ぎな気がするな。でも魔法は、そのうちギルドで教えてもらおうとは思ってる」
冒険者ギルドでも、授業料を払えば冒険者向けに研究された冒険者魔法というものを教えてもらえる。
この世界の魔力保持者は、それぞれ属性という個性があり、それに沿った魔法を覚えていくのだが、冒険者魔法は魔力さえあれば誰でも使えるチープで便利な魔法が多い。
「そうかなぁ。将来は冒険者で決まりかな、エドガーは」
「とりあえずはそうだな」
「がんばってね」
「ミューはどうするんだ?」
「私は……えっと。とりあえずどこかで雇ってもらえるところ探すよ。お店の売り子とかかな……」
「そうか。もしそうなったら店に必ず尋ねにいくからな。お互いがんばろうな」
「うん」
その時、教会の前に1台の馬車が止まった。
「あれ、お客様かな」
「……馬車が豪華だな。貴族かな」
「誰かを引き取りに来たのかな。エドガー目当てかな?」
「ありえるな。しかしそんな話、オレは聞いてないから別のヤツか?」
「誰もそんな事言ってなかったけどなぁ」
訝しげに馬車を見ていると、降りてきたのはやはり、貴族に見える男女だった。夫婦だろうか。
馬車から降りてきたその2人に、付近にいたミューラとエドガーは話しかけられた。
「君たち、院長先生はおいでかな?」
そう尋ねてきた紳士の髪は茶色く、瞳は鳶色(とびいろ)だった。
――私と、同じ色合いだ。珍しくはないけれど……。
「……はい、ご案内いたします」
その横で微笑んでいる夫人も少し赤みがかった茶髪に黒い瞳をしていた。
――私にお父さんとお母さんがいたら……って想像してた人たちに、似てる。
ミューラは、自分の両親がどんな人たちか、というのをたまに想像していた。
ちょうど、その想像の両親にこの2人は似ている、と思った。
「(ただ、お貴族様では想像していなかったけど)」
2人を院長先生のところへ案内したあとは、エドガーと2人でキッチンに行き、夕飯の支度を始めた。
大家族なので早めに支度しないと、定められた夕食時刻に食事が用意できなくなってしまう。
他の子たちもやってきて、みんなで手分けし始めた時。
「ミューラ、ちょっといらっしゃい」
いつも優しい顔の院長先生が真面目な顔をして、やってきて、ミューラを呼んだ。
ミューラの心臓がドキリとした。
今、院長先生の部屋にはあの2人がいるはずだ。
そして、自分が呼ばれた。
まさか――。
「ミューラ……」
エドガーが心配そうな顔でミューラを見ている。
その他の子ども達も、無言ではあるが、ピンと来た顔をしている。
「ちょっと、行ってくるね」
ミューラはそう言って、院長先生について行った。
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