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【08】歪み
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私の世界はとても綺麗で完璧だった。
鏡を見れば、とても美しい人形のような私。
お父様とお母様は――仰る。
「エレナ、お前はすばらしい。――まるで絵画から出てきた天使のようだよ」
――その通りだと思う。
今まで出会った他家門の子たちと比べても、私が一番可愛いと思う。
働く使用人たちやお父様とお母様と比べても、鏡の中の私が一番、上等な人間だと思う。
みんなが私をまるで天使だと褒め称える。
上等な私は愛される。
他は、ゴミ。
ゴミに囲まれて可哀想な私。
でも、ゴミ達がいるおかげで、私の価値も高まる。
お父様とお母さまに愛されて。
他家の令息からたくさん手紙や花をもらって。
他家の令嬢に嫉妬され、媚(こび)られて。
完璧な私。
お父様とお母様は――仰る。
「我が家は男爵家ではあるけれど、お前は本当に美しい。将来、王子妃候補に入ってもおかしくない」
上流ではないけれど高貴な血が流れている上等な私。
将来は上流に登りつめる事ができる貴重な存在。
早くこのゴミ溜めから上に上がりたい。
私と同じ、上等な人間たちに囲まれるべきなの。
――疑問。
私はこんなに上等なのに、お父様とお母様は、素朴な容姿でいらっしゃる。
私は本当にお父様とお母様の子どもなの?
どう考えても――上等な私の両親としてふさわしくない。
本当は、もっと高貴な生まれなのに、何か命を狙われるような危険なトラブルがあって――養子に出されたのではないのかしら。
ああ、そうか、そうなのね。
いつかきっと本当のお父様とお母様が私を迎えにいらっしゃるんだわ。
あの人達は、それまで私を預かっている。
だから私を褒め称えて失礼がないようにしているのね。
ああ、早く迎えにきて。
本当のお父様、お母様――。
◆
◆
◆
信じられない!!
父を母が、長期で王都に向かったと思いきや――『本当の娘』とやらを連れて帰ってきた。
「ああああああ!!」
私は先ほど、その本当の娘・ミューラとやらから手に入れた人形を自室の床に叩きつけた。
「ほんとうの、娘? この家の?」
「私がミューラで、あの子が本当のエレナ!?」
「私が――平民? 孤児……!? ――可哀想な子!?」
ぐしゃ、と人形を踏みつける。
私に似ているソレの腹が凹むのを感じた。
「違う! 違う! 違う!!」
人形を踏んだまま、両手で自分の髪をぐしゃぐしゃにした。
「私は、私はもっと高貴な生まれのはず!! 間違ってる!!」
薄暗い部屋の鏡に映る自分の姿に、見窄らしい服を着た自分が重なる。
「あああ!!」
私は近くにあったキャンディボックスを鏡に投げつけた。
鏡はひび割れ、鏡中の孤児の私も一緒にひび割れた。
「……そうよ、違うわ。落ち着きなさいエレナ、違うわ」
「私なら本当の娘以上に愛される。この人形がその証拠」
私は壊れて首が曲がった人形を両手で抱き上げた。
「あの子から取り上げて、私にプレゼントしてくださった」
「お父様お母様にとって、私は本物以上に本物の娘――」
「ああ、そうか。ゴミね!? 私を引き立てる為に、ゴミを連れてきてくださったのね」
私は、この家の娘は私。
本物の娘以上に、本物の娘。上等の娘。
アレはゴミ。
優しくて綺麗で優雅で可憐で称賛される私にあたえられた、私をさらに引き立てるためのゴミ。
「ありがとう、お父様お母様!! 素敵なプレゼントね! この人形と同じで、いらなかったけど!」
――私は、人形の首を引きちぎった。
鏡を見れば、とても美しい人形のような私。
お父様とお母様は――仰る。
「エレナ、お前はすばらしい。――まるで絵画から出てきた天使のようだよ」
――その通りだと思う。
今まで出会った他家門の子たちと比べても、私が一番可愛いと思う。
働く使用人たちやお父様とお母様と比べても、鏡の中の私が一番、上等な人間だと思う。
みんなが私をまるで天使だと褒め称える。
上等な私は愛される。
他は、ゴミ。
ゴミに囲まれて可哀想な私。
でも、ゴミ達がいるおかげで、私の価値も高まる。
お父様とお母さまに愛されて。
他家の令息からたくさん手紙や花をもらって。
他家の令嬢に嫉妬され、媚(こび)られて。
完璧な私。
お父様とお母様は――仰る。
「我が家は男爵家ではあるけれど、お前は本当に美しい。将来、王子妃候補に入ってもおかしくない」
上流ではないけれど高貴な血が流れている上等な私。
将来は上流に登りつめる事ができる貴重な存在。
早くこのゴミ溜めから上に上がりたい。
私と同じ、上等な人間たちに囲まれるべきなの。
――疑問。
私はこんなに上等なのに、お父様とお母様は、素朴な容姿でいらっしゃる。
私は本当にお父様とお母様の子どもなの?
どう考えても――上等な私の両親としてふさわしくない。
本当は、もっと高貴な生まれなのに、何か命を狙われるような危険なトラブルがあって――養子に出されたのではないのかしら。
ああ、そうか、そうなのね。
いつかきっと本当のお父様とお母様が私を迎えにいらっしゃるんだわ。
あの人達は、それまで私を預かっている。
だから私を褒め称えて失礼がないようにしているのね。
ああ、早く迎えにきて。
本当のお父様、お母様――。
◆
◆
◆
信じられない!!
父を母が、長期で王都に向かったと思いきや――『本当の娘』とやらを連れて帰ってきた。
「ああああああ!!」
私は先ほど、その本当の娘・ミューラとやらから手に入れた人形を自室の床に叩きつけた。
「ほんとうの、娘? この家の?」
「私がミューラで、あの子が本当のエレナ!?」
「私が――平民? 孤児……!? ――可哀想な子!?」
ぐしゃ、と人形を踏みつける。
私に似ているソレの腹が凹むのを感じた。
「違う! 違う! 違う!!」
人形を踏んだまま、両手で自分の髪をぐしゃぐしゃにした。
「私は、私はもっと高貴な生まれのはず!! 間違ってる!!」
薄暗い部屋の鏡に映る自分の姿に、見窄らしい服を着た自分が重なる。
「あああ!!」
私は近くにあったキャンディボックスを鏡に投げつけた。
鏡はひび割れ、鏡中の孤児の私も一緒にひび割れた。
「……そうよ、違うわ。落ち着きなさいエレナ、違うわ」
「私なら本当の娘以上に愛される。この人形がその証拠」
私は壊れて首が曲がった人形を両手で抱き上げた。
「あの子から取り上げて、私にプレゼントしてくださった」
「お父様お母様にとって、私は本物以上に本物の娘――」
「ああ、そうか。ゴミね!? 私を引き立てる為に、ゴミを連れてきてくださったのね」
私は、この家の娘は私。
本物の娘以上に、本物の娘。上等の娘。
アレはゴミ。
優しくて綺麗で優雅で可憐で称賛される私にあたえられた、私をさらに引き立てるためのゴミ。
「ありがとう、お父様お母様!! 素敵なプレゼントね! この人形と同じで、いらなかったけど!」
――私は、人形の首を引きちぎった。
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