天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり

文字の大きさ
8 / 46

【07】奪取

しおりを挟む
「そういえば、お父様。あの子が持っているあの人形は?」
「ああ、ミューラが孤児院を出る時にそれまで持ってた人形の代わりに買ってあげたんだよ」

「へえ……。どうしてその人形持ってこなかったの?」
「孤児院においてあった人形など、我が家に置くわけにはいかないだろう?」

「そっかー。そうなんだね!」
「ええ、貴族の家の子になるのに、ふさわしくありませんからね」


「あ、でもそれって……王都のお人形屋さんに行ったってことよね? そういえば、ホールにおいてあったお土産、私のだと思ったのだけど……違うの?」


「あれはお土産じゃなくて、ミューラの身の回り品だよ」


「え! そんなぁ。私のお土産だと思ったのに! 王都のお人形も欲しかったよ!!」

「ああ、気が利かなくてごめんね、エレナ。エレナには新しいドレスと靴を買ってあるよ。あとで受け取りなさい。お人形は気が利かなかったね。エレナはもう人形はたくさん持っているし、もう必要ないと思ってたよ。今度王都へ行ったら買っあげるよ」


 男爵がなだめるように、エレナの頭をなでて言った。
 しかし、エレナは涙を浮かべた。


「そんな……。私も今回はお人形が欲しかった。本当の子は身の回り品とは言え、山程買い物してもらって、人形まで買ってもらえるのに、やっぱり私は本当の子じゃないから……」


 傷ついた表情をしたあと、手で顔を覆う。


「ああ、すまないエレナ! 本当に気が利かなかった。そうだ。ミューラ、その人形をエレナにやってくれないか?」

 男爵が、良いアイデアだ、と言わんばかりにミューラに頼んできた。

「え……」

 突然、話題がこちらに振られたかと思ったら、信じられないことを頼まれた。


「そうね。ミューラ、あなたは身の回り品をたくさん買ってあげたわ。だからその人形はエレナに譲ってあげなさい。たしかにエレナへのお土産が少なかったわね。ごめんなさいね、エレナ」


「だって、アンの……私の孤児院の人形の代わりにって……」

 ミューラは先ほど唯一の家族だと思ったこの人形まで奪われそうになり、声を振り絞って言ったが、そこでエレナが、号泣した。


「うああああん!! やっぱり本当の子じゃないから! 私にはくれないんだ! そうよね! あなたにとっては……私は邪魔な存在だもの……っ」


「ミューラ! エレナに意地悪をするんじゃないよ?」


「なんて気が利かない子なの。姉妹になる子にプレゼントしてあげようとは思わないの?」


 泣きたいのは、こっちだった。
 孤児院にだってこんな理不尽な子はいなかった。


 ――ああ、だめだ。
 渡すしかない。意地を張ってもきっと碌なことにならない……。


「(ごめんね、さよなら)」

 ミューラは、人形を見て心でつぶやいた。

 そして、どうぞ……、と人形をエレナに差し出した。

「ありがと!」

 エレナはひったくるように人形を取って人形に頬ずりする。

「ふふふ、新しいお人形! かーわいい!」

「よく見たらその人形、エレナにそっくりだな」

「まあ、本当の姉妹のようだわ。ふふふ、可愛い」


「わーい、この子はじゃあ私の妹ね! あ、そういえばミューラは、姉になるの? それとも妹になるの?」

「お前が先にこの屋敷に住んでいたからお前が姉だよ、エレナ。跡取り娘だしね」

「そっかー」

「二人共、仲良くするんですよ。姉妹なんですから」

「はい!」

「はい。エレナ、よろしくね」

 ミューラは、できるだけ笑顔を作ってエレナに言った。


「……うん、よろしくね! ミューラ」

 それに対してはずんだ声で返したエレナだったが、彼女が嗤っていたのは口元だけだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。 けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ! そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。 他サイトで投稿しています。 完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...