30 / 46
【29】再会
しおりを挟む
ハミルトン一家が待ちに待った勇者一行が到着し、エントランスで屋敷の全員が集まり頭を下げて迎える。
彼らは男性ばかりの6人パーティで、みんな体格も良く、見るからに屈強だった。
年齢は少年から初老まで幅広い。
そして、その旅姿は綺麗なものではない。
ハミルトン一家は、その薄汚れた姿に一瞬眉を潜めたが、これから彼らは――少なくとも彼らのリーダーである勇者は高位貴族に、そして他のメンバーもそれなりの爵位や報奨を受け取る栄誉をうける団体なのだ……と思い我慢した。
だが、その男たちの中で1人。
端正な顔立ちに加えて、目を引く濃紺の髪に、同じく深い青の瞳の青年がいた。
――それが勇者ジークであった。
名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。
一方、勇者のほうは、厳しい顔をして、エントランスを見回していた。
「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」
父親が口を開く前に、黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。
「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、ジーク様」
「だって……!」
「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」
「えっ」
急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。
「あー……っとそうですね……」
「そ、そうですわね。三人……ですわね」
男爵と夫人は歯切れが悪くなった。
ミューラは最後方で頭を下げながら、それを聞いていた。
「(やはり私は、家族の数には入ってないのね。わかってたけど)」
わかっていても聞きたくはない言葉ではあった。
しかし、勇者は何故家族の数を確認しているのだろう。
「そうですか……。ミューラ、という娘さんがいらっしゃったかと思うのですが」
勇者は次に、ミューラの名前を口にした。
「ミュ、ミューラですか!?」
男爵が慌てた声をあげる。
ミューラは思わず頭をあげた。
「(どうして、勇者が私のことを? ……いえ、待って、彼は……)」
男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、男爵達と対面していた勇者ジークと目が合った。
「――」
ミューラは口元を抑えた。
――すっかり声変わりしていたから、声だけでは、気が付かなかった。
「……ミューラ!!」
勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。
「……っ」
ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは、間違いなく知っている懐かしい匂いがした。
脳内に浮かんだ数年前に別れた大事な幼馴染。
そのかつて幼かった顔と抱きしめてきた男性の顔が合致する。
「……エドガー?」
「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」
ずっと会いたかった幼馴染。
いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。
それが、今ここにいる。
あまりの出来事に、ミューラは呆然(ぼうぜん)とした。
思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。
すっかり大人の男性になった――確かにエドガーだ。
「でも勇者ジークって……」
「いや、本名で話が広がったら暮らしにくそうだったから、偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」
「そっか……」
ミューラは、伝えたいことがたくさん頭に浮かんでいるものの、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。
「……綺麗になった」
エドガーが耳元でポツリと言った。
「えっ。会っていきなり、な、何を言って……」
泣いていながらも、慣れない事を言われて、ミューラはカーッと赤くなった。
それを見てまたエドガーがミューラの頭を撫でくり回す。
そんな2人だけの世界が続きそうになったが。
――そこに割って入る声があった。
彼らは男性ばかりの6人パーティで、みんな体格も良く、見るからに屈強だった。
年齢は少年から初老まで幅広い。
そして、その旅姿は綺麗なものではない。
ハミルトン一家は、その薄汚れた姿に一瞬眉を潜めたが、これから彼らは――少なくとも彼らのリーダーである勇者は高位貴族に、そして他のメンバーもそれなりの爵位や報奨を受け取る栄誉をうける団体なのだ……と思い我慢した。
だが、その男たちの中で1人。
端正な顔立ちに加えて、目を引く濃紺の髪に、同じく深い青の瞳の青年がいた。
――それが勇者ジークであった。
名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。
一方、勇者のほうは、厳しい顔をして、エントランスを見回していた。
「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」
父親が口を開く前に、黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。
「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、ジーク様」
「だって……!」
「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」
「えっ」
急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。
「あー……っとそうですね……」
「そ、そうですわね。三人……ですわね」
男爵と夫人は歯切れが悪くなった。
ミューラは最後方で頭を下げながら、それを聞いていた。
「(やはり私は、家族の数には入ってないのね。わかってたけど)」
わかっていても聞きたくはない言葉ではあった。
しかし、勇者は何故家族の数を確認しているのだろう。
「そうですか……。ミューラ、という娘さんがいらっしゃったかと思うのですが」
勇者は次に、ミューラの名前を口にした。
「ミュ、ミューラですか!?」
男爵が慌てた声をあげる。
ミューラは思わず頭をあげた。
「(どうして、勇者が私のことを? ……いえ、待って、彼は……)」
男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、男爵達と対面していた勇者ジークと目が合った。
「――」
ミューラは口元を抑えた。
――すっかり声変わりしていたから、声だけでは、気が付かなかった。
「……ミューラ!!」
勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。
「……っ」
ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは、間違いなく知っている懐かしい匂いがした。
脳内に浮かんだ数年前に別れた大事な幼馴染。
そのかつて幼かった顔と抱きしめてきた男性の顔が合致する。
「……エドガー?」
「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」
ずっと会いたかった幼馴染。
いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。
それが、今ここにいる。
あまりの出来事に、ミューラは呆然(ぼうぜん)とした。
思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。
すっかり大人の男性になった――確かにエドガーだ。
「でも勇者ジークって……」
「いや、本名で話が広がったら暮らしにくそうだったから、偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」
「そっか……」
ミューラは、伝えたいことがたくさん頭に浮かんでいるものの、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。
「……綺麗になった」
エドガーが耳元でポツリと言った。
「えっ。会っていきなり、な、何を言って……」
泣いていながらも、慣れない事を言われて、ミューラはカーッと赤くなった。
それを見てまたエドガーがミューラの頭を撫でくり回す。
そんな2人だけの世界が続きそうになったが。
――そこに割って入る声があった。
39
あなたにおすすめの小説
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
出稼ぎ公女の就活事情。
黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。
けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ!
そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。
他サイトで投稿しています。
完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる